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第78話 セブに出発する前にもやることはある

 とりあえず、セブに乗り込む前に、こっちでできる最低限の準備はやっておかなければなりませんでした。

 まずはスタッフ。メインのスタッフはやはり決めておかなくてはなりません。

 今、こっちでばりばりやってるやつを引っ込ぬいていくと、マニラの現場に支障が出るので、新たに雇ったとか。

 私はSさんといっしょに、マカティの事務所で彼らと面談しました。


 プロジェクト・インチャージとしてリト。

 マニラは20代とか、比較的若いエンジニアが中心でしたが、彼は40代。まあ、それなりに経験も豊富なのでしょう。

 はっきりいって、ひげを生やした小太りのおっさんです。

 それと部下のエンジニア、建築ひとりと電気、設備ひとりずつ。

 あとは現地で必要に応じて増やしていくという感じでしょうか。

 第一印象では、みんなやる気もありそうだし、なんとかやっていけそうな感じでした。


 それともうひとつ重要なのは、使う業者です。

 まずメインの業者。掘削やコンクリート打ち、左官や塗装といった建築業務を一式請け負う業者は、マニラで使っているところが引き受けてくれました。

 まあ、ここもスタッフ数人がマニラから泊まり込みで行って、労務者などは現地採用するんでしょう。

 問題は鉄骨屋です。

 やはり現地に製作工場がなければ。

 私はとうぜんそう思っていました。そして、見積もりをとった地元の業者は、セブでは一番大きなところでしたが、マニラに比べればそれなりに安い値段だったのです。


「ここでいいんじゃないですか?」

 私がSさんにいうと、彼はちょっと渋い顔。

「いや、やはりA社を連れて行こう」

「は?」

 A社。マニラの業者で、こっちでは仕事の質、早さとも一番信用できるところです。

「いや、だって、工場こっちにないし」

「船で運ばせる」


 マジすか?


「だっておまえ、不安じゃないの? この業者がもし使えない業者だったらどうすんだよ?」

 そ、そりゃそうかもしれないけど、えらい高くつくんじゃないの?


「決めた。そうしよう」


 プロジェクトマネージャーは私ですが……。

 課長のほうが偉いからしょうがないか。


 今となっては、この判断が正しかったかどうかはわかりません。たしかにA社を使ったことで、仕事は順調に進みましたが、それなりに高くつきましたし、地元の業者を使って、そこが使えるところだったら、次からセブで現場をやるときには、安心してそこに発注できるからです。


 でもまあ、Sさんはそんなこと考えてないだろうなあ。

 きっとこう思ってる。


 俺がA社を使ったから、あの現場はうまくいった。


 ……そういうことにしておこう。


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