第72話 新現場キターッ!
こうしてプロジェクトマネージャーとして、はじめての現場を納めた私に、新たな現場をやれという指令が来ました。
工場を建てるエリアも変わり、ローカルスタッフも一新(選ぶのは私ではなく会社の都合)、プロジェクト・インチャージはたぶんローカルで一番優秀なエド。施主も日本人ではなく現地のメーカー。
しめしめ、これは楽できるに違いない。
なぜなら施主がフィリピン人であれば、なにか問題が起っても、私ではなくプロジェクト・インチャージに直接言ってくるだろうし、エドなら「~があったんですが、こう対処していいですか?」と対案まで出してくるに違いありません。
つまり私はそれに対して、「お、いいんじゃない、それで」とかいっておけば、現場は丸く収まるってもんです。
ところが現場がスタートする前、支店での定例会議に出席すると、いささか問題があることがわかってしまいました。
この現場の前段取りとして、かつての上司であるグラサン営業部長が、鉄骨業者と取り決めを行っていました。ところが、柱、梁の部分は契約していても、鉄骨階段が契約漏れになっているとか。
「なんとかせんか~い!」
悪党面の支店長が叫びます。
「はは~っ」
営業部長は強面支店長に忠誠を誓いますが、相手の鉄骨屋は海千山千の中華系フィリピン人。
勝負にならねえな、こりゃ!
今だから白状しますが、私はぜったい営業部長が負けると思ってました。たぶん、最初に説明するときに階段のことを言ってなかったか、渡した図面に階段が載っていないかしたんでしょう。
かといって、このまま任せっぱなしにして、放置しておけば、現場は遅れるばかりです。
「階段は別業者に発注していいですか?」
と聞いてくるエド。
「発注せんか~い」
とはいえ、営業部長が階段分を負けてもらうことを期待するのは危険すぎます。結局どうにもならず、その分赤字になるのは避けなくてはなりません。
私は部下のプロジェクト・コントロールに命じて、他の業者の予算をちょっとずつ削って、その分鉄骨階段に回した新予算を作らせました。
こうしておけば、営業部長が業者に負けさせることに失敗しても、赤字にはなりません。それどころか、まかりまちがって、業者から値引きをすることに成功すれば、そのまま丸儲け。
しかも失敗したところで、それは営業部長の責任で、私の腹は痛まない。
俺って、天才じゃね?
こうして現場は順調に進んでいくのでした。
……ほんとか?




