第70話 排水が流れない? そんな馬鹿な!
工事もいよいよ完成。
ついに日本からは工場長だけでなく、実際はたらく若い社員の人がふたりほどやってきていました。
さらにはローカルスタッフたちも何人も採用されています。
事務所ではすでに業務が開始されています。
そんな中、なぜ私がいたのかというと、よく覚えていないのですが、たぶん追加工事で倉庫だか、外部シャワールームだかを作っていたので、そのためでしょう。
そんな中、工場長から苦情が舞い込みました。
「南野さん、排水が流れません」
そんな馬鹿な?
私は設備担当のローカルスタッフを連れて見に行きました。
確かに流れていません。
「ちゃんと勾配とってんだろうな?」
設備担当に聞いてみます。
「もちろんです」
ほんとか? じゃあ、なんでこうなってる?
「サー。じつはこのエリア共用の排水升そのものが流れてません」
「なにい?」
そういう大事なことをなぜ黙っていた!
外に行ってみると、現場から出ている排水が集まる共用の排水タンクが確かに詰まっている、というか水でいっぱいだ。
ここにたまった水は流れないのか?
じゃあ、現場の中の排水が流れないのもとうぜんだ。
「ん? じゃあ、このエリアの他の工場はどうなってんだ?」
「たぶん、流れてません」
ほんとか? ほんとうにそうか? 信じていいんだよね?
とにかく現場に戻って、工場長にそう報告します。
「ええ? ほんとですか? 困ったなあ」
設備担当がなにやらいってきたので、それをそのまま工場長に提案します。
「ここで溜ってオーバーフローしそうなやつは、配管をこっちにつないで逃がします。それで当面しのげます」
「じゃあ、それやって」
とりあえず、それでしのげました。
で、そのオーバーフローした排水はいったいどこにいったかって?
ははは。そんな難しいこと、俺に聞くんじゃねえ!
ちなみに、このことはこのあと大問題になったという記憶はないので、あのエリアの担当者が共用の排水升を流れるようにしたんでしょう。
……きっと。




