第63話 新人プロジェクトマネージャーはつらいよ
今度の現場の施主は日本人です。ただ、工場を建てている間、最後のほうは日本人スタッフが常駐しますが、初めのうちはときどき打ち合わせに来る程度でした。
で、第一回目の打ち合わせが行われることになりました。
出席者は、工場長になる人と、その上司。こちら側はとうぜんプロジェクトマネージャーの私と、設備担当のOさん。
……となるはずでしたが、
「おう、俺もでるからよ」
そういって、入り込んできたのは、建築課長Sさんです。
え、出るの? 変なこと言い出さないだろうな?
はっきりいって、邪魔です。この男とつきあうのは、ダイビングのときだけで十分です。
だめだ、この男、早くなんとかしないと。
とか思っても、上司ですからしょうがありません。どうせ、「新米プロジェクトマネージャーの面倒は俺が見てやらないとな」くらいに考えているに違いないのです。
いざ、打ち合わせが始まりました。
工場長はわりと若い人でおそらく三十代後半くらい。上司はたぶん四十代後半くらいでしょうか。
どちらも常識をわきまえていて、温和そうです。
このとき、どんな打ち合わせをしたのか、今となってはまったく覚えていませんが、特に大きな問題はなく、スムーズに進んだように記憶しています。
打ち合わせの最後のほうに、Sさんが言います。
「この南野はまだプロジェクトマネージャーとしては、未熟ですが、心配には及びません。私がちゃんと面倒見ますから」
「おお、そうですか」
「まかせてください」
うそでもいいから、「この南野は若いけど優秀なので、大船に乗った気分でいてください」とかいえんのか!
打ち合わせが終わり、施主と別れた後、Sさんがほざきました。
「なんでも俺に相談しろよ」
うぜえ。Iさんの下で、アシスタントやってたときのほうが好き勝手やってた様な気がするのは気のせいだろうか?




