第44話 K君、魔界の道を疾走する
正直、フィリピンに来てどれくらいのときか、まったく覚えていませんが、日曜日、ドライバーは休みだけど、車はおいてある。という状況のとき、飯を食いに街まで繰り出そうという話になりました。
そこで若いK君が、
「俺が運転しますよ」
と自信満々に言います。
正直、私はぜったいに運転したいとは思えないので、完全、おまかせです。
なにしろ、フィリピンの運転は、荒い、無理な割り込みが普通。さらにしょっちゅう混んでるというのがあたりまえという魔界の道路です。おまけにとうぜん右側通行に決まってます。
しかしK君はなんにも問題なし、という雰囲気なので、私は安心していました。
私が助手席に乗り込むと、K君はサングラスをしつつ、運転席に。
いうだけあって、運転はどうどうとしたものです。割り込み野郎どもにびびることもなく、疾走させます。
ほう、こいつ、口だけじゃないな。
私は内心感心しましたが、ふと、あることを思いついてしまいました。
確認してないけど、こいつ国際免許証もってるんだよな?
よく考えてみれば、私は自信があるなし以前に、こっちで使える免許がないのです。
はじめから私が運転する選択肢はなかった。
まあ、今さら確認しても遅いし、怖いから聞かないでおこう。
「運転するのに、サングラスなんかしたらやりづらくないの?」
ぜんぜん関係ないことを聞きました。
しかし、返ってきた返事が衝撃的でした。
「いやあ、じつは俺、色弱で、信号の色わかんないんです。光ってる位置で判断するんですが、明るいとどこが光ってるかわかんなくて。だから、運転するとき、サングラスは必須です。ははは」
おまえ、国際免許以前に、日本の免許持ってるんだろうなっ!
怖いから聞けない。
でも持ってるでしょう。だって俺より運転うまいし。
持ってるに決まってるよ。
……きっと。




