第九十四話
前回のあらすじを三行で
尾行していた騎士
大会開催
A組開始
大会の初戦ということもあり、会場は沸きあがっていた。
Sランク冒険者のカルロスは最初は様子を見て手を出さずにいた。本命が動かないことに観客からは次々に不満の声があがっていた。あえて本命と言われるカルロスに手を出そうという者もおらず、各所で戦闘が始まっていた。
「うむ、今回はなかなか参加者のレベルが高いようだな。うちに入ってくれないかなあ」
カルロスは参加者の実力を観察し、目ぼしい選手がいれば大会後にクランへと勧誘しようと考えていた。いわゆる青田買いを考えていた。
それからしばらくの観察の後、幾人かに当たりをつけていた。カルロスの目に留まった数人は順調に他参加者を撃破していき、舞台上にいる人数もどんどん減ってきていた。
「さて、そろそろ俺も動くか」
これまでに数人がカルロスにかかってきたが、全て一刀の元に倒していた。カルロスは大剣を構えると自分が目をつけている選手へと向かっていった。その速さに周囲の選手は強い風が駆け抜けたものかと勘違いをするくらいだった。
カルロスが振るう大剣によって、ほとんどの選手が場外へと吹き飛ばされてしまうが、彼が目をつけていた選手はそれぞれの武器で大剣を防ぎその場に踏みとどまっていた。
「俺が目をつけただけあった、やるじゃないか。というかそれくらいやってもらわないと困るんだがな」
そう口にする間も、大剣での攻撃を次々に繰り出していた。
「くっ、これがSランクか……だが!」
男は攻撃を防ぎ続け、途中の一撃を大きく弾いた。
「おー、やるね」
男は一瞬できた隙に魔法を放とうとした、がそれは適わなかった。彼が弾いた大剣は一回転して再度男に襲い掛かった。そのため魔法の詠唱は止まり、更にそこへ炎魔法のが追撃しそこまでで男の反撃は終了した。
「俺とここまで打ち合えるんだから、鍛えればもっと伸びるはずだ。よかったらうちのクランに……気絶してたか」
カルロスはため息をつくと、目標を切り替えるためあたりを見回した。
二人の戦いを見ていた参加者たちの中には自ら敗北を認めるため場外へと逃げだすものもいた。残ったのは、カルロスが目をつけていた二人だけで、その二人現在戦闘中だった。予選は二人勝ち抜きのため、この二人の決着がつけばカルロスの決勝進出は自然と決まるため、カルロスはその戦いを見物していた。
「ふーむ、どっちもいいね。両方うちに欲しいねえ」
一人は二刀流の剣士、もう一人は複数の短剣を使い分けていた。実力は拮抗しており、戦いは長引いたが短剣の男が全ての短剣を使い果たしてしまい負けを認め決着となった。
「もったいない幕切れだな、もう少し見れるかとも思ったが」
カルロスは決着に仕方に不満を覚えたが、自分の目に狂いがなかったことには少し満足していた。
A組決勝進出者、赤い一撃クランリーダーでSランク冒険者のカルロス、二刀の使い手Aランク冒険者レイショーの二名。
その後の二組の戦いも番狂わせはなく、実力者が勝ち残っていた。
B組決勝進出者、王国騎士団第一部隊長サンタナ、白虎の獣人トバイン。
C組決勝進出者、白虎の獣人ガルギス、騎士団第五部隊副隊長テネシー。
そして、グレイ(蒼太)のいるD組の戦いが始まった。
D組には優勝候補と言われるような選手はいなかったが、エルフの魔法使いの参加が注目されていた。彼女が闘技場に現れ、ローブのフードを外すと一際大きな歓声が起こった。その素顔は思わずため息をついてしまうような美女だった。
「エルフが他種族の大会に出てくるとはな……」
蒼太はディーナから情報を聞いていなかったため、仮面の奥で驚きを見せていた。
参加者が全員出揃ったのを確認すると、アナウンスの男が開始の合図をした。
「それでは、予選最終D組予選開始!!」
グレイは夢幻のマントに身を包み、隠行スキルを発動した。すると、周囲の参加者はグレイへの注目が薄れていった。自分へかかってくるものがいないのを確認すると、先程のカルロス同様参加選手の動きを観察していた。
危なげなく戦っているのは、先程のエルフの魔法使い、それから騎士団の隊員達だった。それ以外に目をやると、やはり一段強さのランクが劣りその数を徐々に減らしていった。隊員の一人がエルフに向かっていった。それまで魔法使いとは思えないような身のこなしで攻撃を避け続けていたが、騎士の攻撃は鋭くローブをかすめた。すると、エルフの動きは止まる。そこへ騎士の攻撃が襲い掛かった。
「……たのに」
エルフは何かをつぶやいた。
「お気に入りだったのに!!」
エルフは魔法を宿した右手で騎士の剣を受け止めると、そのまま剣を握り潰していく。騎士はそれに驚き、剣から手を離すと後ろに飛び退いた。
エルフは鬼の形相になり、右手に持った剣を横へ投げた。詠唱は既に始まっており、魔力が膨らんでいき彼女の周囲に魔力フィールドが形成されていく。残っていた選手達もその異変に気づきエルフへと注目する。
「お気に入りだったのにーーーー!!!!」
その叫び声と共に強力な魔法が放たれた。観客席は魔道具による強力な結界が複数枚張られているため安全だったが、舞台上にいる者たちはそれを直接受けてしまうため、危険に晒されていた。
「これはまずいな、止めるか」
魔法が舞台の中央までいったところで、グレイがアンダインでそれに斬りつけた。エルフが発動した魔法以上の魔力をアンダインに込め、その魔法を真っ二つにした。割れた魔法はそこで爆発したが、本来の威力よりは格段に抑えられていた。舞台の上にいた選手達はその爆発に巻き込まれることになった。
舞台の上は爆風による煙で見えなくなっていた。
「け、煙により舞台が見えなくなってしまいました。皆様、少々お待ち下さい!」
アナウンスの声が響くが、観客席はざわざわとしていた。
煙がはれると、そこには泣いているエルフの魔法使いと仮面をつけた男だけが立っていた。
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