第九十三話
前回のあらすじを三行で
シェフはゴルドンの兄貴
歓迎しよう、何食いたい?
デザートとハニーバード
それからの六日間、蒼太たちはお昼になるとあの店に通っていた。再来訪の初日は道に迷ってしまい、気配察知などのスキルをフル活動しシェフたちの気配を探ることでなんとかたどり着くことができた。二日目はさほど迷うことなくたどり着くことができたが、それは初日の帰りにマッピングを行っていたためだった。それ以外では広場などに集まった大道芸人の芸を見たり、買い物を楽しんだりと大会期間中のお祭り騒ぎを楽しんでいた。
それをやきもきしながら見ていたのは、第一部隊長から蒼太の偵察を命じられた騎士たちだった。
「先輩……あの人、この一週間くらい普通に彼女? とお祭り楽しんでるだけでしたね」
「……あぁ、何かこうやって見てるのが馬鹿らしくなるな」
交代しながら蒼太を監視していたが、得るものは何もなく部隊長への報告も変化なしとしかできずにいた。二人の騎士は自分の仕事に疑問を持ち肩を落としていた。
「……あれ? 先輩、あの人いませんよ?」
「なんだと!? ど、どこいった?」
騎士二人の視線の先にいた蒼太はどこにもおらず、ディーナだけがおり彼女は笑顔で騎士たちへ手を振っていた。
「え、あれ? バレ……」
「よう、お勤めご苦労さん。俺のあとを一週間の間ずっとつけてたのは気づいてたけど、目を離したのは感心しないな」
騎士二人は後ろから声をかけられ振り向くと、そこには蒼太がいた。
「い、いつの間に、あんなに距離があったのに!」
後輩騎士は一瞬目を離した隙に蒼太が後ろに回りこんでいたことに驚き、思わず声をあげた。
「まぁ、その瞬間を見逃したのは残念だったな」
「う、いや、我々は別に通常の哨戒任務の最中なだけで、決して尾行などということは……」
先輩騎士はなにやら言い訳をしようとしていたが、目が泳いでいた。
「まぁいいけど、ずっとつけられててあんまりいい気分じゃなかったんだよ、さてどうする?」
蒼太は笑顔のまま二人に答えを求めた。
「う、いや、それは……」
「えー、その」
二人はしどろもどろになり、汗だくになっていた。
「なんてな、このへんで帰ってくれれば何も言わないさ。ただ、指示したやつにはこう伝えてくれるか? こそこそと部下に嗅ぎまわらせるなんて余程自信がないんだなって」
それだけ言うと、二人の肩を軽くぽんっと叩き蒼太はディーナの下へと戻った。
「お話は終わったみたいですね」
「あぁ、交渉という程のこともなくあっさりとあいつらが引いてくれたみたいだからな。もう明日には大会が開催されるし、これ以上の尾行はないだろう」
尾行開始された当初から気づいていたが、直接的な接触がなかったため蒼太は放っといていた。しかし、大会開催前日になってもその尾行がいなくなることがなかった為、今回蒼太から抗議をすることになった。
「話し合いで解決してよかったですね」
「全くだ」
そう話しながら二人は、お祭り騒ぎの中へと戻戻っていった。
「あ、あいつは一体何者なんだ? 隊長が偵察を命じたのも理解出来るが、あいつが何者なのかは全く理解出来なかった」
「それより先輩、さっきの伝えるんですか……?」
先輩騎士はその質問に眉間をぐりぐりとしながら考え込んだ。
「……いや、止めておこう。何も望んで自らを窮地においやることはないだろ」
「ですね」
報告した際に自分達が被る被害を考え、異常なしの報告に留めておこうと心に誓う二人だった。
騎士二人は、蒼太に言われた通り城に戻ったが何の成果も報告できず、また蒼太からの伝言をうっかり口を滑らして漏らしてしまったため隊長から大目玉を喰らうことになった。
★翌日、大会初日
蒼太とディーナは宿を出た時点で別れ、ディーナは観戦のため、蒼太は変装してグレイとして大会に参加するために別々に闘技場へと向かった。
闘技場受付
「武闘王部門に参加のグレイだ」
仮面越しにややくぐもった声で参加証を出しながら受付嬢に声をかけた。グレイはその顔に見覚えがあった、参加受付の際も彼女が受付をしていたことを思い出す。グレイは少し表情が変わったが仮面のおかげでそれを悟られることはなかった。
受付嬢も内心では動揺していたが、顔には出さず受付業務をこなす。
「はい、参加証をお預かりします。それでは、こちらから組分けくじを引いて下さい」
グレイは言われるままにくじを引く。引いた紙にはDと書かれていた。
「D組ですね、それでは右手の奥の控え室になります。あちらに行くと扉の前にDの張り紙がありますので部屋に入ってください。予選は舞台上での各組ごとのバトルロイヤルになります。最後まで残った二人が決勝トーナメント進出になります」
グレイは受付嬢の説明に頷くと、D組の待機部屋へと歩き出した。相変わらず仮面の奥の表情は読めず、そのことが受付嬢の不信感をより強くしていた。
部屋に入ると、既に参加者が集まっていた。
そこには街でも話題に上がっていたAランク冒険者が数人、そしてエルフの魔法使いが同じ組になっていた。
闘技場では、王による挨拶により大会が始まっていた。
観客席は満員で、闘技場全体が震えるかのような大きな歓声が沸き起こっていた。
王の挨拶を終えると、アナウンス役の男が舞台の中央に立ち各部門の説明を、続いてルールの説明を行っていく。それと同じタイミングで、各組の控え室で同じ説明が行われていた。
アナウンスによる説明が終わると、A組の選手が舞台へと上がっていった。A組には『赤い一撃』のクランリーダーのカルロスがおり、その姿を確認した観客から一際大きな歓声があがった。この大会では国が胴元となっての賭けが行われており、決勝トーナメントの各試合の勝敗がその対象となっていた。
アナウンスによる開始の掛け声とともに、A組の選手達の戦いが始まった。
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