第九十話
前回のあらすじを三行で
テンション高いねディーナさん
装備をどれにしようか?
怪しい男の名前はグレイ
受付嬢は最後まで仮面を外さなかったグレイのことを内心では怪しんでおり、それを上司に報告するが彼に関しての詮索を止めるようにと言われたことでグレイへの不信感が更に高まることとなった。
グレイが登録している頃、ディーナは対戦相手となりうる選手の情報を集めようとしていた。ディーナが最初に向かったのは冒険者ギルドだった。ここの冒険者ギルドはトゥーラよりも大きく、大会間近ということもあって多くの冒険者が来訪していた。
ギルドに来ていた冒険者の多くは依頼受諾ではなく、情報収集や雑談に来ていた。
その話に聞き耳を立てたり、話好きそうな女性冒険者に声をかけて直接情報を聞き出すことで、参加者の中で有望な者の話を聞くことが出来た。
ギルドで聞けた情報としては、個人部門ではSランク冒険者の赤い一撃のリーダーが優勝候補であろうという意見がほとんだった。団体部門でも、ランクの高い冒険者がパーティを組むことの出来る『赤い一撃』が順当に勝ち上がるだろうと予想されていた。それ以外では、Aランクの冒険者が数人出るという情報を聞くことが出来た。
一通り聞き終えると、ギルドを後にし今度は闘技場へと続く道に開かれた露店や出店などで買い物をしながら情報を集めていく。街の外部から来た商人達からはここまでの旅の途中で聞いた噂話を、元々この街に住んでいる商人達からは騎士団の有力株の情報などを聞くことが出来た。
これらの情報は蒼太が優勝するために集めているのではなく、ディーナが大会を楽しむためにしていることだった。おおよそであっても参加者の実力を知っていることで、より試合を楽しめると考えていた。
「この中だと、あの武官の人の息子さんと赤い一撃のリーダーさんが優勝候補なのかなあ?」
手元のメモを見ながら、反対の手に持ったクレープを食べる。その姿からは、エルフの国の元王女という様子は見られず、歳相応の女の子といった雰囲気で街に溶け込んでいた。
また、その容姿からナンパ目的で声をかけられても不思議ではなかったが、持ち前の気配遮断系スキルを使っているため勘のいい者以外の目に留まることはなかった。
そして、蒼太を探しに闘技場の近くまで来るとその勘のいい者から声をかけられることになる。
「おー、あんたはこの間の」
その男とはガルギスだった。
ディーナは声をかけられた方向へ視線を向けずに真っ直ぐ闘技場に進もうとした。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。知らない仲じゃないないんだ挨拶くらいしてもいいだろ!」
「そうですね、こんにちは、さようなら」
ディーナはお辞儀をして、闘技場へと再度向かおうとする。
「はぁ、あの時のことは謝るから勘弁してくれ」
頭を下げるガルギスに、ディーナは笑みを浮かべた。
「嘘ですよ、もう怒ってないです。というか、元々怒ってないです」
「そ、そうなのか? 本気で怒ってるように見えたが、演技上手いんだな」
「多少の演技が出来なければ生きにくい場所にいましたからね……まぁ、それはいいでしょう。それより何か用ですか?」
ディーナは昔のことを思い出し少し表情に影を落としたが、すぐに切り替えてガルギスへと質問をした。
「いや、特にこれといった用があるわけじゃないんだが、一応見知った顔なんで挨拶をしようと思ってな」
「そうですか……そうだ、ガルギスさんって大会に参加されるんですよね?」
ディーナはいいことを思い出したとガルギスに質問をした。
「あぁ、一応な。個人戦にだけエントリーしている」
「じゃぁ、他の参加者のこととか知ってますか?」
ディーナは目を輝かせて、ガルギスへと尋ねた。
「そ、そりゃ少しはな。情報収集は大事だから、何人か目ぼしいやつの話は聞いている」
「よかったら教えてもらえませんか?」
「それくらいは構わないけど、もしかしてあいつが参加するのか?」
ディーナの食いつきが思いのほか良かったので、ガルギスは蒼太の参加が頭に浮かんだ。
「いえ、そういうわけじゃないんですけど。観戦には行こうと思っているので、有力選手のことを知っていたほうが楽しめるかな? って」
ディーナの自然な受け答えに、ガルギスは頷いた。
「なるほどな、だったらあっちにいって話すか」
ガルギスは道の途中途中に設置されている、ベンチを指差した。
「わかりました」
空いているベンチに座ると、ディーナはメモを取り出し聞く姿勢になる。それに対して、ガルギスは思い出しながらもっている情報を提供していった。
「まず、優勝候補と言われているのが二人いる。一人は『赤い一撃』のクランリーダーでS級冒険者のカルロス、こいつは大剣の使い手だがそれを片手剣の速さで扱う。それに加えて炎の魔法が得意で大剣を避けきったところへ魔法が飛んでくるんだが得意なのが炎というだけで他の魔法も一流レベルって話だ」
ディーナは一言一句漏らさないようにメモをとっていく。
「もう一人は、王国騎士団の第一隊の隊長で名前はサンタナだ。今日、急遽参加が決まったみたいだな。手甲を武器にした格闘スタイルだが、豹の獣人で素早い動きに定評がある。また、ここの騎士団の隊長クラスは獣人の中でも頭いくつか抜けた実力を持ってるって評判だ」
冒険者ギルドでは名前すら出なかった最新の情報に驚きながらもディーナはメモをとる手を止めなかった。
「よくそんな新鮮な情報を持っていましたね」
「あぁ、ちょうど受付にあいつが並んでいるのを見たからな」
ガルギスは知り合いのことを話すかのような親しさを言葉にこめていた。
「お知り合いなんですか?」
「あー、いや。前に見たことがあって、ついついな」
ディーナの質問をはぐらかすようにガルギスが曖昧な答えを返した。
「ま、まぁそれより続きだ。他にもAランクの冒険者が数人でるらしい、悪いがこいつらは詳細は調べなかった。それ以外だと、騎士団から数人隊長クラスではないが出るらしい、それとエルフの魔法使いが出るとかなんとかって噂も聞いたな。エルフが出場するのは珍しいから結構注目されているらしい。と、まあこんなところか。そんなに多くなくて悪いが、俺が調べたのはこんなところだな」
数は多くなかったが、隊長の参加とエルフの参加の二つを知ることができ、ディーナは満足していた。
「ありがとうございました。参考になります」
ディーナは立ち上がり、お辞儀をしながら感謝のことばを述べた。
「あぁ、気にしなくていいよ。これで迷惑かけたこともチャラにしてくれると助かるよ」
「ふふっ、いいですよ。これで許してあげます」
ディーナは少しいたずらっぽい笑顔でそう答えた。
「それじゃ、ソータさんを探すのでもう行きますね」
「あぁ、またな」
ガルギスはひらひらと手を振り、ディーナは闘技場へと小走りで向かった。
「……深く知る前に振られてよかったかもな」
ガルギスのつぶやきは誰にも聞こえることはなかった。
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