第八十五話
前回のあらすじを三行で
闘技大会受付
ガルギスとの再会
早めの就寝
翌朝の目覚めは二人ともすっきりとしていた。早めの就寝だったこともあり、旅の疲れも取れ朝食もおかわりするほどだった。
外に出ると朝から既に賑わいを見せていたが、二人はその祭りのような盛り上がりをよそに、図書館へと向かった。街の中心地から少し外れた場所にあり、街全体の喧騒から隔絶されたかのようだった。
扉を開き、中へ入るとそこはトゥーラの図書館の数倍の本棚が並んでいた。受付のカウンターも広く、司書も四人待機している。一番手前の受付に行き、利用規約を聞くが基本的にトゥーラのものと変化はなかった。
中央には閲覧用のテーブルがいくつも並べられており、既に数人の客が利用していた。
「ソータさん、何から調べましょうか」
「そうだな……伝承についての本と、あとは獣人族と他種族との関係あたりか」
二人は他の客の邪魔にならないようカウンター前で小声で相談をしていた。すると、それが聞こえていた司書の一人が声をかけてきた。その姿は白髪まじりで丸眼鏡をかけた彼はヤギの獣人のようだった。
「あのー、お探しの本があるならお手伝いできるかと思いますが」
「あー、それは助かる。千年前の魔王と勇者達の本と、ここ獣人族と他種族の関連や対応なんかがわかるような本があると助かるんだが」
蒼太が司書に探してる本の内容を話していると、その司書の隣で別の司書達がメモをとっていた。
「承知しました、聞いてたな。蔵書のピックアップを頼む」
メモをとっていた司書達は頷くと、棚へと向かう者、蔵書一覧を確認する者、奥の別の書庫へと向かう者に分かれた。
「……なんというか、トゥーラといいここといい司書はレベルが高い気がする」
「おや、トゥーラからいらっしゃったのですか? あそこには仲が良いのか悪いのかわからない男女の司書達がいませんでしたか?」
蒼太とディーナはその表現にぴったりの二人が頭に浮かんでいた。
「知っています。なんだろう、口では色々言ってましたけどお互い認め合ってるんじゃないかなあ? みたいなお二人ですね」
目の前の司書がディーナのその答えに満足したように頷く。
「ふふふっ、懐かしいです。あの二人は以前ここの図書館で働いていたことがあるんですよ。その頃からガイ君はレナ君のことをライバル視していましたね。でもレナ君はそれに気づかず、しかもそれでいてレナ君は優秀で、見ていてガイ君が不憫でしたよ」
「あー、昔からあんな感じなんですね。腐れ縁といった感じでしょうか?」
ディーナは二人のことを思い出し笑顔になりながら質問をする。
「あの二人は幼馴染で、住んでいる場所も近所で、学校も同じで在学中ずっと同じクラスだったそうです。そして二人とも本が好きで、本に携わる仕事ということで図書館の司書を選びました……ここまで来ると腐れ縁という言葉では表せない程の強すぎる運命の糸で結ばれているような気もしますね」
「ふわー、すごいですね。そこまで繋がりが強いと、本当に運命の相手なのかもしれないですね!」
ディーナは司書の話に目を輝かせていた。
「もしそうだとしても、当人は気づいてなさそうですけどね」
司書は二人の顔を思い出し、苦笑いをした。
トゥーラの司書達の話で盛り上がっていると、蔵書のピックアップをしていた司書達が戻ってきた。それぞれが目の前の司書の耳元で何事かつぶやき、メモを渡していく。全て受け取ると、そのメモに目を通していきペンでラインやメモを付け足していた。それらを別の用紙に書き直していく。
「ふむ、こんなところでしょうか。こちらのメモをどうぞ」
渡されたメモにはタイトルと棚番号、そして注視するといい点について記述されていた。
「……あの短時間でここまでの内容を挙げてくるとは、ここの司書たちは優秀なのが多いようだな」
「お褒め頂きありがとうございます」
司書は深々と礼をした。
「それじゃあ、助かったよ。このメモを参考にさせてもらうよ」
蒼太は右手を挙げて礼をいい、ディーナは一礼をした。
メモは二枚に渡っていたので、それぞれが一枚ずつ担当し本を集めていく。
先に集め終わったのはディーナで、空いている席へ着くと先に本を開き読み進めていく。
それに遅れること数分、蒼太も本を揃え終えるとディーナの向かいに座り、メモとペンを二人分取り出し本を読んでいく。
二人は集中しパラパラと次々にページが捲られていき、時折ペンでメモしていく。
それぞれが集めた本を何冊か読み終え、一息吐いた頃に先ほどの司書がやってきた。
「いかがでしょうか、知りたいことは見つかりましたか?」
「うーん、色々とわかるものはあったが明確な答えとなると得られていないというのが正直なところだ」
ディーナも蒼太の言葉に頷いていた。
「どのようなことが知りたいか具体的に聞いてもよろしいでしょうか?」
「……グレヴィンという作者の本。あとは、獣人族と小人族に何か特別な関係がないか知りたい」
蒼太は強い視線を司書に送りながら答えた。
「大丈夫です、他言はしませんよ……ただ、著者がグレヴィンの本となるとここで探すのは難しいですね。あれは王城の書庫にのみ保管されているはずです」
「王城に? それは……何とか読めないものだろうか?」
蒼太の言葉に司書は腕を組み考え込んだ。
「……一つは今度の武闘大会で優勝する方法があります。優勝者には、王へと希望を伝える機会があります。そこで書庫の閲覧を希望すれば、おそらく要望は通るかと思われます」
司書の回答を聞き、蒼太は顔をしかめ、ディーナは喜びの表情になった。
「武闘大会は避けておきたいところだな……」
「そんな! ソータさん、いい機会じゃないですか、出ましょうよ!!」
二人の正反対な反応を見たあと、司書が自らの口元に指を持っていき静かにするようジェスチャーした。
「……とりあえず、案の一つとして受け取っておく。他に方法はないのか?」
「そうですねえ、直接王城に向かい嘆願する方法ですかね。なかなか厳しいでしょうが可能性はあるかと思います、ちょっと時期が悪いですけどね」
現在は武闘大会の準備期間であり、王城もそれ関連で忙しいであろうことは予想できていた。
「一度行ってみるか……」
蒼太はしばし考えた後、その結論を口にした。
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