第七十七話
前回のあらすじを三行で
ランチ、メニューで悩む
ケーキ両方頼む
うますぎ!
図書館に戻ると、受付では司書の二人が競うようにカウンターに資料を積み上げていた。
「えーっと、これは……」
ディーナのその声で司書達は蒼太達に気づいた。
「あっ、お待ちしてました!」
女性の司書が先にカウンターを飛び出し、二人へと近づいてきた。
「いらっしゃ、あー!」
男性司書も負けじとカウンターを出ようとしたが、自分で積んだ本を崩してしまい、それを集めて再度カウンターへと乗せていた。
「あー、あっちは放っておいていいのか?」
蒼太の質問に女性司書はすがすがしい笑顔で頷いた。
「えぇ、本を大事にしない人は自業自得ですから」
彼女の目の奥は笑っていなかった。
「えっと、ご希望の本ですがこれと、これと……あとこれなんかが参考になると思うのですが」
何冊かの本を取り出し蒼太に手渡す。カウンターに大量に積んであった本は、これらの資料を探しだすためにチェックをしたものであった。
「ありがとう、助かるよ。仕事を増やしてしまったみたいで悪かったな」
「いえ、利用者様のご希望の本を見つけるのも司書の仕事の一つですから問題ありません!」
彼女は胸を張って当然のことをしたまでだという風に自信を持って答えた。
「き、君はそれ以外の仕事もがんばるべきだと思うよ」
本を片付け終わった男性司書が遅れてやってくると、レナに苦言を呈した。
「そう言うガイ君はもっと本を大事に取り扱うべきだと思うわ」
レナはそっぽを向きながら彼、ガイを逆に注意した。
「いや、あれはついつい慌てて引っかかってしまっただけで、普段はあんなことは……それよりレナこそ本の探し物の話があると、それ以外の仕事をほっぽりだして行ってしまうじゃないか。確かに利用者様を手伝うのは重要だけど、他の作業だって重要なものだ、探し物が終わったら元々の作業もキチンと片付けないと」
レナの一の言葉に対して、ガイは五も六も返す。レナは自分の言葉が招いてしまったことに、うなだれた。
「そもそもレナは……」
それを見るに見かねたディーナが二人の会話を中断させるように話しかけた。
「あ、あの、お話中申し訳ないんですが私達は調べ物をしたいので行ってもよろしいでしょうか?」
ガイはその言葉に自分自身もレナから話を聞いて資料を集めていたことを思い出した。
「も、申し訳ありませんでした。司書である私が館内で大きな声を出しては示しがつきませんでした」
ガイが謝罪をすると、レナもしょぼんとした顔で頭を下げていた。
「司書でも時にはそういうこともあるだろ。幸い俺達以外に利用客はいないようだから俺達が気にしなければ問題なしだ。資料を探してもらった恩もあることだし、これくらいじゃ文句も言わないさ」
「そうですよね! あいたっ」
嬉しそうな顔で顔をあげるレナの頭をガイが軽く小突いた。
「調子に乗るな、悪いことには違いないんだからな」
「もー、ガイ君痛いじゃない。女性に手をあげるなんて酷いなあ」
そんなやりとりから、二人の仲の良さが伺えたが蒼太達はなんとか話を切り上げようとした。
「あー、続きはそっちでやってくれ。俺達は用意してもらった本を読むことにするよ、じゃあありがとうな」
蒼太は足早にその場から移動しようとしたが、そこへ再度声がかかった。
「あ、待ってください」
蒼太は軽く天を見上げてから振り向いた。
「なんだ? 俺達に調べ物をさせてほしいんだが」
「すいません、これで最後です。私のほうでも何冊か用意したので参考にしてください」
ガイの手には数冊本があり、それをディーナが受け取った。
「ありがとうございます。それじゃいきますね」
ディーナは片手で本を持ち、片手で蒼太の背中を押しながらテーブルへと移動していく。
「さて、ソータさん。せっかく用意してもらったんだから、読んでみましょう」
「そうだな」
それぞれ受け取った本をテーブルに置くと、それを読み始めた。
パラパラとページを捲くる音が辺りに響くが、先ほどと違い蒼太の手は途中で止まった。それはディーナも同じで、手を止めてそのページを何度も読み直していた。気になった内容をそれぞれメモにとり、それを終えると次の本へとうつる。それを繰り返しそれぞれが本を読み終える頃にはそろそろ日が落ちてくるのでは? という時間帯になっていた。
「ふー、何か俺達が午前中に使った時間が無駄に思えるくらいに捗ったな」
蒼太は肩を回しながらディーナに声をかけた。
「そうですね、やはりプロの方はすごいです」
少し前に読み終えていたディーナは二人が読み終えた本をサイズ別に積み重ねていた。
「そう言うってことは、そっちもなにか収穫があったか?」
「えぇ、ということはソータさんも?」
ディーナの言葉に蒼太は頷いた。
「あぁ、いくつか気になる点が見つかったよ。ここで話して分析するわけにはいかない、か。屋敷に戻って話そうか」
蒼太は千年前の話が絡んでくるだけに、誰かに聞かれる危険性を考えて屋敷で話を進めることにした。
「そうですね、じゃあ本は……どこから持ってきたんでしょうか? とりあえず受け付けに持って行きましょうか」
ディーナは借りた本を全て持ち、受付に向かおうと立ち上がる。蒼太はそれを半分以上受け取り受付へと向かった。
受付に向かうと、二人の司書がどうだった? と聞きたそうに蒼太たちのことを見ていた。
「「ど、どうでした?」」
二人は同時に問いかけてきた。
「あ、あぁすごく助かったよ。俺達が知りたかったことを抽出することが出来た」
二人が身を乗り出してきたので少し引き気味になりながら答えを返した。
「それで、どっちの本が役に立ちました?」
レナが更に身を乗り出しながら質問をする。
「あー、俺はレナが用意した本だけを、こっちのディーナはガイだったか? が用意した本だけを読んだからどっちがっていうのは言えない、かな?」
レナはその答えに不服そうな顔をした。
「えー、それじゃどっちが勝ったかわからないじゃないですか。ねぇ?」
唇を尖らせながらガイに同意を求めた。
「レナの言う通りだ……なんとかどっちかに決められませんか?」
なにやら賭けをしていたようで、勝負の決着を是が非でもつけたいといった様子だった。
「やっぱり、お二人は仲がよろしいですね」
ディーナは二人をみてそんな感想を口にした。
「誰がこんなやつと!」
「そうよ、誰がこんな男と!」
「やっぱり仲がいいじゃないか……」
蒼太もディーナと同じ感想を持っていた。
「そ、そんなことはないです。ガイなんて、口は悪いし融通はきかないし、ほんと嫌なやつなんだから」
「なにを! お前だっていい歳して子供っぽいし、真面目に仕事やらないしわがままなやつだ!」
二人のケンカが始まったが、蒼太とディーナは巻き込まれないようにカウンターにそっと本を戻すと図書館を後にした。
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