第七十六話
前回のあらすじを三行で
続図書館で調べもの
女性司書に話しかけられる
女性司書の名前はレナ
二人は図書館を出て、少し歩いた所でカフェを見つけそこへ入ることにした。
それほど大きい店ではないが、華美な装飾もなく店の雰囲気も落ち着いていて二人は一目で気に入っていた。
また、決定打となったのはオープンテラスの席だった。外を眺めながら食事ができるため、天気の良い今日のような日はそよ風を感じながら摂る食事が美味しいと考えていた。
ディーナは案内された席でメニューを見ながら唸っていた。
「俺は、このハンバーグのランチにするが……ディーナは一体何を悩んでるんだ?」
「この二つのケーキをどっちにしようかと思いまして……」
ディーナはデザートで悩んでいた。
「両方頼めばいいだろう?」
「うーん、魅力的な提案なんですが……それは食べ過ぎのような気がして」
蒼太の言葉に一瞬気持ちが揺らぐが、ディーナはその誘惑を振り切り、何とか一つに決めようと悩み続ける。
「ちなみに、メインの食事はどれにするか決めたのか?」
「はい、そっちは決めてます。こっちの料理にしようかと」
指差す先は、パスタ風の麺料理だった。
「なるほどな……すまない、注文したいんだが」
蒼太は手を挙げて店員を呼ぶ。まだ決まっていないディーナはそれを見て焦り始めた。
「はい、ご注文をお伺いします」
「えっと、私は」
「このハンバーグランチと、この料理を一つずつ。それと、こっちのケーキを一つずつ頼む」
蒼太はすらすらと注文を済ませたが、ディーナは悩んでいたのに注文されたことで、不満の目で蒼太をみていた。
「ご注文を繰り返します。ハンバーグランチをお一つ、トマト風味のパスタをお一つ、ホワイトベリーのケーキがお一つ、ホワイトチーズケーキがお一つ、でよろしいでしょうか?」
「あぁ、それで頼む」
店員は注文表を閉じると、奥へと戻っていった。
「もー、ソータさん勝手に注文しちゃって。私だって真剣に悩んでたんですからね!」
ディーナは頬を膨らませ、蒼太に非難の声をあげた。
「悪い悪い、でもあれだけ悩んでたなら両方を食べたいだろ?」
「それは! それは……そうなんですけど」
蒼太に反発したい気持ちと、二つ食べられる喜びと、二つは食べすぎだという三つの気持ちがディーナの中では入り混じっていた。
「安心しろ、二人で半分ずつ食べれば、一人あたり一個になるだろ? そうすれば、食べ過ぎずに二つの味が楽しめるさ」
「あっ、うん。そうですね……ふふっ」
最初は何故そんなことが思いつかなかったという驚き、次に気兼ねなく二つ食べられることへの喜びから笑みがもれた。
「わかってもらえたのなら安心だ。俺が説明を先にすればよかったんだけどな、悪かった」
蒼太は自分のやり方がまずかったことをディーナに謝罪した。
「いえ、こっちこそ気づかずに怒ったりしてごめんなさい」
ディーナも頭を下げた。頭を下げあってる二人は、そんな自分たちのことがおかしくなりどちらともなく笑い出す。
剣呑な雰囲気も和らぎ二人が談笑していると、ほどなくしてほぼ同タイミングで二人の料理が運ばれてきた。
「「いただきます」」
手をあわせ、日本風の挨拶をしてから食事を開始した。その挨拶に他にいた客は不思議そうな顔をしていた。
「うん、美味い。カフェのハンバーグってことで少し侮ってたけど肉汁が溢れてジューシーだし、何よりこのソースがいい」
蒼太はハンバーグを食べる手が止まらずに、次々に口の中へと入れていく。
一方のディーナも幸せな顔でパスタを食べていた。ソースが服にはねないようにフォークでまとめながら口に運ぶ所作は、ディーナが持つ元々の雰囲気も相まってどこか美しさを秘めていた。その証拠に、他の席の男性客はみなディーナに釘付けになっていた。
中には一緒に食事をしている女性に耳を引っ張られたりしている者もいた。
「ソータさん、こっちもすごく美味しいですよ。ほら、食べて下さい」
ディーナはフォークで絡め取ったそれを蒼太の前に差し出した。それをぱくりと口に入れると、蒼太の顔も笑顔になった。
「うん、美味いな。こっちのハンバーグも美味いぞ……ほら」
切り分けられたそれをディーナの口元へと運んでいく。それを見ていた男性客たちは、今度は嫉妬の視線を二人に送っていた。
「美味しい! 今度来た時はそっちにしようかな……」
普段から敬語で話すディーナは、美味しいものを食べた時や興奮した時にたまにこうした素の話し方になることがあった。
「……ディーナはそっちの話し方のほうが気安くていいな」
「んんっ、すいませんでした。お聞き苦しい言葉遣いを」
ディーナは蒼太の言葉にはっとして、居住まいを正した。
「うーん、まぁいいか徐々にそのへんも砕けてくれれば」
蒼太は元の話し方に戻ったディーナに対して、それ以上の言及はせずに流れに任せることにした。
蒼太達の食事がひと段落したのを確認したウェイトレスがタイミングを計りケーキを運んでくる。
「失礼します、こちらデザートのケーキになります」
ディーナ待望のケーキが届くと、蒼太はそれを縦に半分に切り分けそれぞれの皿にとり分けた。
「これでいいだろ。上にのってるフルーツは両方ともディーナにやるよ」
「ありがとうございます!」
ケーキはほぼ同じ大きさで切られており、フルーツももらえるとなったディーナの顔は先ほど以上に綻んでいた。
「んー、美味しい!!」
美味しさを表現する語彙は二人とも乏しかったが、ディーナの蕩けるような顔はその美味しさを言葉以上に物語っていた。蒼太はその顔をみながら満足そうに自分のケーキに手をつけた。
「うん、確かに。いい味だ」
ふんわりとしており、パサパサしておらず少ししっとりとした生地が心地の良い食感を残す。クリームは甘すぎず、かつフルーツの風味が口の中にふわって広がる香り付けがされていて上品な風味を醸し出していた。
しばらくその美味しさに浸っていたが、皿が空になるに連れ徐々に寂しさを覚え、ついには完全に食べ終わってしまった。
ケーキを食べ終わった後も、紅茶とお茶を飲みしばらく座っていたが、蒼太から移動を切り出した。
「……さて、戻って調べ物を続けるか」
「そうですね……」
会計を終え図書館へと戻る二人の足取りは、どこか名残惜しさを感じさせるものだった。
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前半カフェ、後半図書館のつもりだったのに気づけば全編カフェ……




