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再召喚された勇者は一般人として生きていく?  作者: かたなかじ
再召喚された勇者は一般人として生きていく?

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第五十四話

ヒュドラ行動範囲狭い

首一つ目撃破

首二つ目撃破

 蒼太は二つ目の首に止めを刺し、最後の一つと戦闘中のナルアスへと振り返った。

 どうやらナルアスは足を怪我しており、動きに精彩さを欠いていた。片足が動きづらい分をレイピアを杖代わりにすることでカバーしている。


 ヒュドラは口から酸性の液体を出しており、足にそれが当たってしまったようだった。

「くっ!」

 なんとか避けてはいるが、動くたびに傷口はどんどん開いていく。

 首が一つになったことで三つに分かれていた処理能力が統合され、最初よりもヒュドラの動きは良くなっていった。


 ナルアスが避けた先へと酸液が飛んできた。

「いたっ!」

 その場を飛び離れようとするが、足の痛みがその動きを邪魔した。

 ナルアスは祈るように目を瞑り、酸液をかぶることを覚悟した。

 しかし、酸自体は蒼太の障壁によって防がれ、その身も蒼太によって抱きかかえられていた。


「よく持ちこたえたな、あとは俺に任せておけ」

 離れた位置にナルアスをおろすと、蒼太はヒュドラへと再度向かっていった。

 蒼太が近づいてきたことを認識すると、ヒュドラは新たな酸を吐いてきた。


 中央の首のブレスとは違い、酸は溜めが必要ないようで次々と蒼太へ襲い掛かる。

「最初の時には吐いてこなかったが、どういうことだ?」

 一番最初に相対した時には、噛み付き攻撃のみだった左の首の攻撃パターンが変わったことに首を傾げた。

 もちろんヒュドラからは答えがなく、酸による攻撃だけが続いていく。


 ヒュドラの首はそれぞれに吐き出すブレスが異なる。しかしブレスの元となる魔力は胴体から生み出されているため、一つの首がブレスを使用している場合は他の首はブレスを使えなかった。

 七つ首のヒュドラになると、その魔力は膨大になり複数首で同時にブレスを使うことは可能だが、三つ首ではこれが限界だった。


「このままだと足場がなくなるな……さっさとけりをつけようか」

 古龍との戦いの時と同様に竜斬剣へ氷の魔力を込めて走り出す。

 飛んでくる酸を剣で斬りおとすと、それは魔力により凍りつき飛び散ることなく塊となって落ちていった。


 距離が詰まってきたところで、亜空庫から取り出した鉄の剣を口めがけて投擲する。

 右の首同様回避されるが、避けたところへ別の鉄の剣を投擲した。

 これも避けられたが、回避動作が優先され酸液の射出は止まっていた。

 それでもなお蒼太の投擲は止まることなく、亜空庫にあった剣、槍、短剣、片手斧などが次々に投げられていた。

 その投擲速度は常人のそれを遥かに越えており、一つ一つに魔力が込められているそれは止むことなくヒュドラへと襲い掛かっていく。


 ヒュドラはその連続攻撃を避けきることが出来ず、そのいくつかは首に当たりダメージを与えていた。

 蒼太の足は投擲しながらも確実にヒュドラへと近づいていた。


 ふと投擲が止み、左首が攻撃を封じられていることに気づき再度酸を吐こうとした時には眼前に蒼太が迫っていた。

「ブレスと酸が同時に使われたらやばかったよ、じゃあな!」

 蒼太は竜斬剣を口の中に突き入れて、魔力を解放する。

 断末魔の声をあげることもできず、氷漬けにされ、左の首はドスンという大きな音とともにその場に倒れた。


「ふぅ、結構強かったな。複数首の竜と戦ったのは初めてだったが……まぁいけなくはないか」

 そう言い、倒れたヒュドラをしばし見つめてからナルアスの下へと戻った。


 ナルアスは怪我をしていた足に、蒼太からもらった回復薬をかけることで痛みはひいていた。

「ソータ殿、お疲れ様です。申し訳ない、結局全ての首の相手を任せてしまって……足手まといになってしまいましたね」

 そう言うとナルアスは頭を垂れた。

「気にするな、そもそもナルアスが一つ相手をしてくれたおかげで残りに集中できたわけだからな。結果よければ全て良しだ」

 それが現実だったが、相手をしきれず、最終的に蒼太に助けてもらったことはナルアスの心にひっかかりを覚えさせていた。

「……そういってもらえると、少しは救われます」

 だが、蒼太の言葉を否定はせずその言葉を絞り出した。


「次は、ディーナだな。早く解放してやらないと」

 ナルアスは蒼太が差し出された手を取り立ち上がった。

「そうですね、私も話を聞いたことがあるだけなので、お話するのが楽しみです」

 ディーナリウスが封印されたそれは元々王城に安置されていたため、封印解除の式典に出席していなかったナルアスにとってはその姿を直接見るのは初めてのことだった。


 倒れたヒュドラを避け、魔水晶の前に来るとその存在感にナルアスは驚いた。

 まずは、その水晶の大きさに。それは遠くからでは大きさをつかめなかったが床から天井まで届きそうなほどの大きさをしていた。

 次に、封印されたディーナリウスの透明感のある美しさに。どことなく儚げであり、またどことなく生命力にも溢れている。

「これが、ディーナ様……」

 ナルアスはそんな矛盾した二つの印象を受けていた。


「ディーナリウス、久しぶりだな。お前も馬鹿だよな、こんなところに長い間閉じ込められやがって……ソルディアが知ったらエルフの国が滅ぼされるぞ」

 蒼太の顔にはこんなことになったことへの怒り、もう二度と会うことが出来ない友への悲しみ、また会えたことへの喜びなど様々な感情が浮かぶが、最後には笑顔を浮かべ魔水晶へと手を伸ばしていく。

「今、出してやるからな」

 その水晶は封印がなされていたが、その核となっているのはディーナリウスが手にしている記憶石だった。

 蒼太は記憶石に自分の魔力が届くようイメージしながら、魔水晶へとその力を流し込んでいく。


 その魔力は記憶石を中心に、じんわりと魔水晶全体に広がっていく。

 魔水晶の封印はその大きさに比例して解除に必要な人数が増えていくが、蒼太はその魔力を一人でまかなっていた。

 全体に魔力が行き届くと、水晶は音をたてヒビが入っていく。

 徐々に封印が解け、中からディーナリウスが出てくる。

 そう思ったが、眼前で割れている水晶とは別の音が二人の耳へと届いた。


「ぐるああああああああああああぁああああああ!!!!」

 先ほど倒したはずのヒュドラがその身を起こし、雄たけびを上げていた。

 蒼太は魔力を流し続ける必要があり、ナルアスも先ほどの怪我が回復しきっておらずそもそも一人で相手をすることは難しかった。

 ヒュドラの左右の首は既になく、中央の一つに統合されていた。


「こいつは……結構ピンチだな」

 蒼太は額に汗を浮かべながら視線だけヒュドラへと向ける。

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