第五十話
前回のあらすじを三行で
ナルアスはなんで権力者?
錬金術士減った
アレゼル泣いた、けど撫でられて喜んだ
「ソータ殿、お待たせしました……アレゼル、いい加減にしなさい。ソータ殿に迷惑でしょう」
「はう、ごめんなさい」
アレゼルはその場から飛び退いた。
「なかなかしっかりとした装備だな」
ナルアスは腰にレイピアを帯剣し、先ほどの服の上にミスリル銀で編みこんだ鎖帷子を、更にその上に魔力の込められた薄手のコートを着ていた。
篭手は手首までのもので、膝当て、靴などもそれぞれミスリル製のものを装備している。
「私もブランクがあるので装備くらいはそれなりのものを用意してみました。最近は使う機会はありませんでしたけどね」
「そのレイピアだけはミスリルじゃないみたいだな、もっと強いものみたいだな」
ナルアスは驚いた顔をした。
「さすがですね、これはオリハルコンをベースにして、魔力の浸透性をあげるためにミスリルが混ぜられた金属で作られています」
「複数金属を混ぜ合わせるとは……相当な技術の鍛冶師が作ったんだな。こんなものを作れるとなると……」
レイピアを抜き、目の前に持ってくる。
「そうです、これは七人の勇者の一人ドワーフ族の勇者の子孫が作ったものです」
「だったら、納得だな。あいつの血を引いているならいいものを作るだろうさ」
「えぇ、値段も相当でしたけどね……」
ナルアスは値段を思い出し遠い目をしていた。
「ま、まぁ素材が素材だし一点ものだろうからな。それより準備できたなら出発しようか」
「そう、ですね。場所はそんなに遠くないんですが、道中に小さな検問があってそこを通る必要があります。夜間は封鎖されているので、行きましょうか」
部屋を出ると、エドと馬車の準備を始める。
洞窟は工房からさほど遠くない場所にあったが、帰りにはディーナもいることを考え馬車での移動を選択した。
準備を追えると、二人は馬車へと乗り込んだ。
「二人とも気をつけて行って来て下さい」
アレゼルはそれだけ伝えると、馬車から離れた。
「あぁ、ディーナを連れてくるから楽しみに待っててくれ」
「ローリーが戻ってきたら、今回のことを伝えておいて下さいね」
「わかりました!」
工房を出て右手の方へ向かうと街の西門へとたどり着いた。
門でのチェックも問題なく終え、道なりに進むと二又に分かれた分岐へと差し掛かった。
「これはどっちに行けばいいんだ?」
「ここは右ですね、左に行くと小さな村があります」
ナルアスの言葉通り右の道を選ぶと、程なくして詰め所が見えてきた。
「すいません、そこで停まってください」
衛兵に呼び止められる。礼儀をわきまえた態度であり蒼太を見ても表情は変わることはなかった。
「この先は封印の洞窟があるだけですが、どういった用件でこちらまで来られたのでしょうか?」
蒼太が何かを言おうとする前に、ナルアスが説明を始める。
「私は錬金術士のナルアス、こちらは同行者のソータ殿です。その封印の洞窟へ用があって来ました。通してもらえますか?」
衛兵は今までも姿勢を整えていたが、更に背筋を伸ばし姿勢を正した。
「し、失礼しました。ナルアス様とは気づかずに……」
「いえ、あなたは十分な対応をしてくれています。それよりも、我々の通行許可を頂きたいのですが」
「はい、直ちに!」
衛兵は詰め所に戻り、上司に説明をすると連れ立って戻ってきた。
上司の男はやせ細り、どこかおびえているような印象を受ける。
「な、ナルアス様。封印の洞窟へ行くとのことですが、あの場所は……」
「大丈夫です、危険なことも、入る際に手順が必要なことも知っています」
上司の男が全てを話し終える前に、男が告げようとした内容を口にする。
「さ、さすがナルアス様です。それと、その同行者の方ですが、一体何者ですか? 人族のようですが」
ナルアスの機嫌を損ねないようにと言葉に選びながら質問をする。
蒼太は肩をすくめるだけで、説明をナルアスに譲る。
「こちらは私の友人です、今回洞窟へ向かう為に同行してもらっています」
「さ、さようですか」
「それと、人族であることに何か問題でもありますか?」
この場にいる面々で、他種族排他主義なのは上司の男だけであり、ナルアスや衛兵からは白けた視線を送られている。
蒼太はというと我関せずをつらぬいていた。
「い、いえ、ナルアス様のご友人なら問題はありません。どうぞお通り下さい」
上司の男はナルアスの視線に盛大に汗をかき、進路を空ける。
「では、失礼します」
ナルアスは蒼太へと頷き、蒼太は出発の意思を手綱でエドへと伝える。
「ふー、寿命が縮んだよ」
上司の男はその場にへたり込む。
「綺麗でしたけど、凄みのある人でしたね」
「あぁ、全く狼の尻尾を踏んだ気分だよ」
「隊長があんなこと言うからですよ」
蒼太達が立ち去った後も、しばらくの間は妙な緊張感が二人を取り巻いていた。
一方の蒼太達は順調に洞窟へとたどり着いていた。
「これは……さっき言ってたのはこれのことか」
「そうです、これを何とかしないとですね」
洞窟には強固な魔法で封印がなされており、その一帯に結界壁が敷かれていた。
「ナルアスはこの結界を破ることが出来るのか?」
「うーん、時間をかければいけると思いますけど……すぐにというのは私の魔力では難しいですね」
「だったら、俺がやるしかないのか」
そう言うと、一歩前に踏み出し手に魔力を込めていく。
「ちょ、ちょっと待ってください。私の魔力では確かに厳しいですが、これを使えばなんとかなるんです!」
ナルアスは一振りの短剣を取り出すとその短剣を結界へと突き刺す。
すると、結界は何の抵抗もなく切り開かれていった。
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