第四十八話
前回のあらすじを三行で
工房広い
正体ばれてる
なんかオレンジの石
「この石の名前は記憶石。昔、俺と長老で試しに作ったサンプルの一つだ」
「もしかして何か記憶を残しておくアイテムですか!? それはすごい!」
蒼太はそれを手に取り、頷いた。
「ご名答。しかしな……一つ、問題があるんだ。観るための条件がこの石の作者である俺か長老の魔力を通した時だけになっている」
「そ、それは何というか受け手がだいぶ制限されますね」
「記録を残す時は残したい当人が魔力を流すことで出来るんだが……なにぶん試作段階だったからな、あいつが欲しがるからいくつかサンプルをわけてやったんだ」
どこか懐かしい表情で手にした石を見つめる。
「……中身を見てみるか。悪いが一人で見たい、どこか空いてる部屋を貸してもらえないか?」
蒼太はナルアスの父が受け取ったタイミングがタイミングだけに軽い内容ではないと判断していた。
「それならば、ここを使って下さい。我々は外に出ています、いくぞアレゼル」
「は、はい」
アレゼルの手を引きナルアスは部屋を出て行った。
「一体何が映っているんだろうな……」
つぶやきと共に記憶石へと魔力を込めると、それをテーブルの上に置いた。
石は徐々に光を放ち、映像が浮かび上がる。
そこに映っていたのは在りし日のディーナリウスの姿だった。
「ん、うん。あーあー、これでいいのかな? どこかに記録中とか出てくれればいいんだけどなぁ」
魔力を通した石を軽くつつきながら不満を口にしている。
「まぁ、大丈夫でしょう。ソータさんが作ったんだから間違いない、はず。でも、あの人時々抜けてたりするからなあ」
なかなか本題が始まらず、自身のことを言われていたが蒼太は怒ることはなく、むしろ笑顔でそれを見ていた。
「ふふっ、ディーナは相変わらずだな」
「よし、大丈夫と思って始めよう」
決心がついたディーナは気持ちを切り替え録画を開始する。
「ソータさん、あなたがこれを見てる時は私は恐らく魔水晶の中に封印されていると思います。周りには色々な話が伝わっているかもしれませんが、これは私が自ら望んで行うことなので安心してください」
蒼太の顔に先ほどの笑顔は既になく、真剣にディーナの話を聞いていた。
「あなたが元の世界に送還されたのは聞きました、でも私はソータさんが再びこの世界に戻ってくると信じています。だから私は封印され、あなたと再び会う日を待つことにしました」
気の遠くなるような年月を彼女は蒼太と会う為だけに費やすと決めていた。
「もしかしたら、途中で封印を解こうとする人がいるかもしれません。でも、ソータさんにしか封印を解けないように魔水晶の封印の鍵として頂いた記憶石を使うことにしました。そうすればソータさんか、長老さんにしか解除出来ないはずです」
この記録のために使っているものとは別の記憶石が彼女の手には握られていた。
「なぜ俺と会うためだけにこんなことを……」
「ソータさんは、何でこんなことをしたのか? そう思ってるかもしれないですね。ソータさんにもう一度会いたい、もちろんその気持ちはあります。ただそれだけではなく、兄と私のユニークスキルによって得た情報を私は持っています。それをあなたに伝えたい、いえ伝えないといけないのです」
彼女の言う兄とは、蒼太と共に魔王討伐に向かったエルフ族の勇者のことであった。
「ディーナとあいつのスキル……?」
連携の関係から七人はお互いのスキルを明かしていたが、ユニークスキルに関してはそれぞれの判断に任されていた。
そしてディーナの兄、ソルディアはそれを秘匿していた。
「続きはソータさんが封印を解いてくれたら、その時に話したいと思います……だって、全部話しちゃったら封印解いてくれなくなるかもしれないから」
そう冗談を言い、舌をペロっと出した。
「うふふっ、ソータさんならそんなことはしないと思いますけど……本当のところを言うと万が一これを他の人が見た時が怖いんです。だからお願い、これを見たら私を封印から助けて下さい」
その表情からは恐怖心が感じ取ることができた。そして、映像はそこで終わっていた。
「ディーナ……」
映像が途切れても蒼太はその場に立ちつくし、さっきまでディーナリウスが映し出されていた空間を見つめていた。
しばらくすると、部屋にノック音が響く。
「あ、あのーソータさん。だいぶ時間経ったんですが、そろそろ入っても大丈夫ですか?」
部屋から声が聞こえないのを確認しながらアレゼルが恐る恐る扉を開けた。
「ん、あぁ。すまんな、もう終わったから入ってくれて大丈夫だ」
アレゼルに続いてナルアスも部屋へと戻ってきた。
「それで、いかがでした?」
「あぁ、やっぱりディーナからのメッセージだったよ。封印された理由とか、俺に話したいことがあるとかそういう内容だった」
「そう、ですか。しかし、今のディーナ様は……」
言い辛いことであるかのように、そこで言葉は止まった。
「何かあるのか? ディーナに会えない訳が」
ナルアスは言うべきかどうか逡巡するが、蒼太が真剣な表情で聞いていることに気づき話し始めた。
「今から七百年程前に一度ディーナ様の封印を解除しようと、王家は腕利きの魔術師を集めたことがあるのです。ですが、結果は失敗に終わりました」
「その話なら、カレナに聞いたな。ナルアス程詳しくはないようだったが」
「そうですね、彼女が生まれる前の話ですから。今となっては詳細に記憶している者も少ないでしょう」
「失敗したのはわかった、だがそれが会えない理由にどう繋がってくるんだ?」
蒼太は脱線しそうになった話を元に戻す。
「その封印解除を国は一大式典として行ってしまったのです。そのせいで失敗したことは王家の面目を潰してしまいました。何とか場を取り繕おうとした当時の大臣の言葉が『呪われておる、呪いが封印を強固なものにしてしまったのだ!』でした」
「何を馬鹿なことを……」
「そう、馬鹿なことなんですが、当時の王はその言葉に乗ってしまったのです。その結果、呪われているとレッテルを貼られたディーナ様は、ここより更に西に向かった洞窟の奥に封印されることになってしまったのです」
「な、なんてことを……場所を教えてくれ、俺が行って来る」
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