第四十七話
前回のあらすじを三行で
お前が言うなよ
神聖樹
エルフ王国の首都『ギルノール』へようこそ
無事入国出来た三人は、ナルアスの提案によりそのまま工房へと向かうことにした。
工房は街の西地区に位置しているとのことだった。
工房へと進むにつれ、民家や店は減っていき開けた場所へと辿り着いた。
そこには、広い土地がありその手前に縦長の小屋がぽつんと建っているだけだった。
「ここが私の工房です。馬車もそのまま入ってもらって構いません、扉だけは大きいので入れると思います」
ナルアスとアレゼルは小屋のすぐ側まで来ると、馬車から降り鍵を開け扉を開いた。
横開きの扉となっていて、二人がそれぞれ左右に扉を開いていく。
この小屋の大きさでは馬車が入ることが出来ても、それでいっぱいになってしまうのではないか?
蒼太はそう考えたが、二人の誘導に従い中へと入った。
倉庫に入ると地下へと続くスロープがあり、そのまま進んでいくと地上からは想像出来ないほどの広大な空間が広がっていた。
「そちらのスペースに馬車は停めておいてもらえますか? 申し訳ないけど馬君もそちらで頼みます」
「ボクたちは先にあっちの部屋に行ってますね」
何も置いていない一角にエドから取り外した馬車を停め、エドはその隣に毛皮を敷き待機してもらう。
また、いつもの食事も用意し、排泄用の桶も端に置いておく。
「エド、悪いなここで待っててくれ」
エドの頷きを確認し、頭を一撫でしてから部屋へと入っていった。
部屋の中は居住スペースになっており、生活感が溢れていた。
この部屋は工房とは隔絶した内装になっており、錬金術士の部屋だという雰囲気は感じられなかった。
「ソータ殿、そちらにかけてください。アレゼル、お茶は私がいれるから休んでいなさい」
「いえ、大丈夫です。お茶だけは入れるの得意だからボクがやります! 師匠はソータさんと話してて下さい」
そう言うと、キッチンへ向かおうとするナルアスの背中を押し戻す。
「やれやれ、いい子なんですけど思い込んだらテコでも曲げないのが欠点なんですよねぇ」
口では困ったような口調だったが、その表情には微笑みが浮かんでいた。
「今回助かったのもたまたまだ、次はないようにちゃんと手綱を握っておけよ」
「ですね、少しはいい薬になったと思うんですが……こちらでも気をつけてあげないと」
「それがいい……それで詰め所で言ってたことだが、どういうことなんだ?」
蒼太はその場の空気を切り替えるように厳しい視線をナルアスに送った。
「ディーナリウス様の件ですね。カレナからの手紙でソータ殿がディーナ様について何か思うところがあるのは聞いています」
そこまで言うと、ナルアスは咳払いをする。
「さて、それについて詳しく話す前にソータ殿にお願いがあります」
「なんだ?」
ナルアスは蒼太を、正確には蒼太の腕を指差した。
「その、偽装の腕輪を外してもらいたいのです。そうして頂ければディーナ様について詳しくお教えします」
しばし、蒼太とナルアスは見詰め合う形になる。
そこへ、お茶の用意が出来たアレゼルがやってきた。
「あれ? 何かありましたか、無言で見詰め合ってますけど……とりあえずお茶が用意出来たのでどうぞ」
二人の前にお茶を出しテーブルの中央にお茶菓子を出した後、アレゼルも椅子に座り自分のお茶すすり始めた。
「それで、どうしたんですか?」
状況を把握出来ていないアレゼルは首を傾げ、純粋に質問を投げかけた。
その様子に蒼太は息を吐く。
「ふぅ、気が抜けたな。それほど隠すものでもないからいいんだけどな」
袖を捲くり、腕輪を外すと蒼太の身体が一瞬光に包まれる。
それがおさまると、蒼太の髪の色・眼の色が本来の黒眼・黒髪へと戻っていた。
「これでいいな? 早速ディーナのことを聞かせてくれ」
「そ、そ、ソータさん、これは一体!?」
アレゼルは驚きのあまり、立ち上がり目を白黒させた。
一方のナルアスも驚いていたが、それはアレゼルのものとはその種類が違っていた。
「やはり……あなただったのですね。ソータ殿」
自分の正体をわかっていたような反応に蒼太は疑念を顔に浮かべた。
「俺のことを知ってたのか?」
「はい。あ、いえ、直接知っているというわけではないのですが、絵で見たことがあるんです」
「絵? 俺は絵を描いてもらったことなんて……あったかもしれない、確か城に来てた絵描きに……」
ナルアスは頷く。
「そうです、描かれた絵はその後ディーナ様の手に渡りました。それを私の父が譲り受けたんです、ディーナ様が封印される数日前に」
「それで俺のことを知ってたのか」
「ん? どういうことですか? 大昔の絵にソータさんが載ってたんですか?」
「うん、お前が話に加わるとややこしくなるから少し黙ってような」
ナルアスは笑顔でアレゼルに言った。
「え、でも……」
「黙ってような」
今度はアレゼルの頭に手を乗せて有無を言わせない。
「ひっ!」
アレゼルはそのプレッシャーに身をすくめ小さな悲鳴をあげると、口元に手をあてて何度も頷く。
静かになったことを確認すると、鍵のかかった戸棚から一枚の紙を取り出し再び蒼太の向かいに座った。
「さて、それでは静かになったところで話を進めましょうか」
「あ、あぁ、頼む」
蒼太もナルアスのプレッシャーに少し気圧されていた。
「まずは、ソータ殿についてですが、あなたはこの絵に描かれている勇者で間違いありませんね?」
持ってきた紙をテーブルの上に広げると、そこには蒼太とその仲間達の姿が描かれていた。
蒼太はその絵から、絵を描く時にポーズをとっていたあの時のことを思い出していた。
しばししの沈黙の後口を開く。
「……そうだ、今更隠しても仕方ないから認めるよ。俺は千年前に召喚された勇者だ」
「!!!?」
アレゼルは必死に声を抑えながら驚いている。
「やはりそうですか。今ではあなたの名前を知っている者も限られていますが、私が聞いていた名前と同じ、そしてあの絵のままのその顔。まさかディーナ様が言っていたことが本当になるとは」
「ディーナは俺のことを何か言っていたのか?」
その言葉に対して深く頷いた。
「父から聞いた話ですが、ディーナ様はソータ殿が再びこの世界に降り立つ日が来るとおっしゃっていたそうです」
「こうなることを予見していたっていうのか……未来予知の力なんてなかったと思うが」
もう一度立ち上がると、ナルアスは先ほどとは別の戸棚から一つの石のような物を取り出してくる。
「そしてソータ殿が訪れたら、これを渡すようにと言われています」
テーブルの上に置かれた石はオレンジの石で魔力が込められている。
蒼太はこれと同じ種類のものを知っていた。
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