第四十四話
前回のあらすじを三行で
豚汁もどき作る
出発
森抜けた
草原から渓谷まで伸びる街道を馬車でゆっくりと進んでいく。
まだまだ距離はあるが目的地が見えたこと、更にこの先に検問があることを考え、少しでも怪しまれないように早い段階からのんびりとした移動を選んだ。
この提案をしたのはアレゼルだった。
「ソータさん、エルフの検問の人は他種族が来ると厳しい目になることが多いです。それに、かなりの広範囲を見張っていることもあるので、ゆっくりと慌てずにいきましょう」
近況を知るアレゼルの提案を受け入れ、いつもより少しゆっくりめに進むようエドに指示をした。
「それにしてもエルフの国も変わったもんだな。昔はもっとゆったりとした国民性だったと思うが」
「……その発言を聞くとソータさんが何百年も前にこの国に来たことがあるように聞こえますけど……それも深くは聞かないことにしておきます」
アレゼルはジト目で蒼太を見るが、今までのやりとりから聞いても無駄だと諦めた。
「色々あってな。うかつに話すと、アレゼルにまで抱えてもらわないとになるから内緒にしておくよ」
「はぁ、わかりました。エルフは元々他種族を嫌ってたみたいなんですけど、いやしの木の葉事件があってからそれが顕著になりました」
アレゼルは説明を始め、蒼太もそれに耳を傾ける。
「あぁ、それはカレナも言ってたな。結構おおごとになったみたいだな」
「そうですね。でも、それでもなんとか交流を続けようという派閥もいたみたいなんですよ。その人たちのおかげで以前より減ったもののやりとりは続いてたし、検問も今ほど厳しくなかったんです」
「と、言うことは、それ以外にも決定打があったってことか?」
神妙な面持ちでアレゼルは頷く。
「それ以降、いやしの木の葉を狙っての密入国が頻繁におこるようになったんです。せっかく改善してきたのに、そのせいでまた悪化してきちゃって……」
「それで物々しくなってるのか」
アレゼルは首を横に振った。
「それもあるんですが、それだけじゃないんです。昨日のボクのようにここ数十年でエルフの誘拐が多くなっているんです」
「鎖国に近い状態が続いて、他国にいるエルフが減ったことで需要が増えたってところか」
アレゼルは沈痛な面持ちで頷いた。
「そんな状況で一人で素材取りとは、勇気があるというか、無謀というか」
「えへへ」
「褒めてないからな、勇気のほうじゃなく、無謀のほうを受け止めろ」
実際問題アレゼルの行動は不可解だった。
エルフの誘拐が多いのであれば、子供であるアレゼルならなおのこと出国を止められるはずなのに実際は国外に出てきている。
あの誘拐犯達に相応のスキルがあったかというと、そうは見えなかった。
蒼太はそれを疑問に思っていたが、アレゼルの口ぶりから入国の時にはなにかわかるだろうと後回しにしていた。
途中休憩をいれずに、簡単な食事で済ませ昼過ぎには検問に辿り着いた。
「おい、その馬車そこで停まれ!」
エルフの衛兵が声を荒げ蒼太達の乗る馬車を停止させた。
数人の衛兵が馬車を取り囲み、蒼太とアレゼルが隣り合って座っているのを確認すると、蒼太に向けて槍を突きつけてきた。
「あー、これはどういうことだ。アレゼル?」
アレゼルは勢いよくぶるぶると横に首を振り青ざめていく。
「こ、これはどういうことですか? た、例え他種族でも入国審査を受ける権利はあるはずです!」
アレゼルの言葉にも槍を下げる気配はみられなかった。
「アレゼルさん、この男にはあなたの誘拐容疑がかかっております!」
「おいおい、誘拐してたらのんびりと一緒に来るはず……」
「黙れ!!」
蒼太が口を開くと、衛兵の一人は一喝し槍を動かすことで威嚇をした。
「ゆ、誘拐はされましたけど、でも、それは……」
「やはり、そうですか。おい、この男を連れて行くぞ!」
しどろもどろになり説明出来ずにいるアレゼルの言葉の一部を拾って蒼太のことを誘拐犯だと断定した。
「お前らなぁ、いい加減にしろよ。俺は誘拐犯じゃないって言ってる、だろ!」
目の前に突き出された槍を掴み、へし折った。
更にその場にいるアレゼル以外に威圧を放っていく。
「き、貴様!」
衛兵たちの中で、最も頑強そうな男だけはなんとか持ちこたえるが他の面々はその場で膝をついていた。
「まだやるっていうのか? 俺はまだ槍を折っただけだぞ。それに引き換えお前達はほとんどが立ってすらいられない。そんな状態で、それでもまだやるのか?」
蒼太は威圧の威力を一段階上げた。
頑強そうな男も槍を支えにして何とか耐えているにすぎず、今にも倒れてしまいそうだった。
「わ、わかった。わかったからこれを止めてくれ!」
男のその言葉で威圧をふっと解除する。
「あんたらがいきなり武器を突きつけてくるから俺は自分の身を守っただけだぞ」
解除するとともに、その男も膝をついた。
「はぁはぁ、貴様一体何者だ」
「話を聞く気はあるのか? ろくに話も聞かず連行するっていうのなら抵抗もやむなしだな」
「わ、わかった。話を聞こう、あっちの詰め所で聞かせてくれ」
男の案内に続いて、蒼太とアレゼルも詰め所へと向かった。
その途中蒼太は一度振り向く。
「お前ら、馬と馬車に何かあったらただじゃおかないからな。きっちり管理しておけ」
「「は、はい」」
衛兵のうち比較的元気だった二人が馬車を厩舎へと誘導することにした。
詰め所の中に入ると、中央のテーブルの奥にその男が、手前に蒼太とアレゼルが腰掛ける。
入り口は、先ほど外にはいなかった衛兵が待機し外に出られないように封じていた。
「それでは、話を聞かせてもらおうか」
「俺は誘拐犯じゃない、エルフの国に用事があるから入れてもらいたい。以上だ」
蒼太のシンプルな説明に、男は右手で顔を覆い苦い顔になった。
「お前……以上って、それを聞いて、はいわかりましたと言えるわけがないだろ?」
アレゼルはおそるおそる挙手をした。
「あ、あの、ボクのほうからも説明してもいいですか?」
「おー、お願いします。この男の話は説明が足らなくて……」
「はい、まず誘拐の件なんですけど……確かにボクは攫われましたけど、ソータさんにじゃなく別の男達にです。ソータさんはボクを助けてここまで送ってくれたんです」
男は、口を開け驚いていた。
「そ、それじゃあ、我々はアレゼルさんの恩人に手をあげたということですか?」
アレゼルはその問いに対して声を出さずに頷いた。
「そ、それはなんというか……すまなかった」
男が素直に頭を下げたことに蒼太は驚いた。エルフの他種族嫌いを聞いていたため、もっと横柄な態度に出てくると予想していたからだった。
「わかってくれればいいんだ、後は入国のほうも何とかしてもらえると助かる」
「アレゼルさんの恩人ともなれば、何とかしてやりたいんところだが……私が口添えしても入国審査で通るかどうか五分五分といった所だろうなあ」
「そんなに低いのか? そうだ、紹介状を書いてもらってきたんだがそれで何とかならないか?」
「誰からの紹介状か見せてもらってもいいか?」
蒼太がマジックバッグから手紙を取り出し男に渡そうとした瞬間、詰め所の扉が勢い良く開かれた。
やっとエルフ国編が本格的に始まっていきそうです




