第七話
「……声?」
「声、ですね……」
『どこから……』
直接脳に響いた言葉にそれぞれ驚きながらも、三人は周囲を見渡している。
『我は、ダンジョンコアなり』
厳かな声の言うとおりであれば、目の前にあるダンジョンコアが三人に語り掛けてくることになる。
「この青いダンジョンコアが俺たちの頭に語り掛けてるってことか?」
『是』
じっと目の前のダンジョンコアを見つめた蒼太の疑問に、呼応するように光を揺らしたダンジョンコアが肯定する。
ダンジョンは生きていると言っていたディーナも、ダンジョンコアが語り掛けてきたことに大きく驚いている。
「えっと、そのダンジョンコアさん……?」
『何を問う?』
戸惑うようなディーナの呼びかけに対して、淡々とダンジョンコアが答える。
「その、ダンジョンコアさんは私たちがダンジョンコアさんを持っていくと言ったら困るのでしょうか? ダンジョンはコアによって成り立っていると聞いたことがあるのですが……」
不安そうなディーナの質問に、しばしの沈黙したダンジョンコアがゆっくりと答える。
『……漠然とした質問故、我が判断し答える。我をここから持っていくと、確かにこのダンジョンは力を失う。しかし、それが我を困らせるということはない。我には困るという感情はないゆえに』
どう答えたものかと悩んだのか、ダンジョンコアは、自身が消えたのち、結果何を招くのかということを説明する。
「そうなると、ダンジョンはどうなる? 消えるのか?」
『否』
蒼太の質問にはためらうことなく即答する。
『我がいなくなれば、新たなダンジョンコアが生成される。ダンジョンを統括するのがダンジョンコアの役であるが、ダンジョンコアがダンジョンの命というわけではない』
厳かな声がつげるその解答に、蒼太もディーナも驚く。
「そうなのか……ダンジョンが生きていると聞いて、核があるなら魔物と同様にそれが無くなれば死ぬのかと思っていた」
「はい、私も同じことを考えていました……」
二人が当初想定していたその考えが覆された形となる。だがそれは二人をがっかりさせるものではなく、次の問いを浮かばせるものとなった。
「じゃあ、どうなるとダンジョンは死ぬことになるんだ?」
その質問に先程よりも長い沈黙が訪れる。これまで回答してくれているダンジョンコアが自分たちの声を無視することはないだろうと、蒼太たちは焦ることなく答えを待った。
『…………その問いに対する答えは持たない』
どれだけ考えても結論が出ないと判断したのか、そう答えると、ダンジョンコアは最初から何も言わなかったかのようにしんと沈黙する。
「えっと、まあダンジョンが壊れることがないなら持っていくか。かなりの力を持っているみたいだから、装備とかに使えばいいものができそうだ」
少し拍子抜けしつつも、蒼太はダンジョンコアに手を伸ばし、それを祭壇から取り出す。
先ほどまで光を放っていた祭壇はその輝きが弱まっていく。
最後にはほとんど光がないような状態だったが、よく目を凝らすとその中央には指先ほどの小さなダンジョンコアが生まれていた。
「なるほど、こうやってコアがなくなると新しいのが生まれてくるのか。ダンジョン自体の力は弱まるかもしれないが、死なないのはいいことだ」
ダンジョンがなくなった場合、どんな影響があるかわからないため、蒼太は一安心していた。
「ダンジョン自体はわりとあっさりと攻略できましたね。あの人たちのことは気になりますけど……」
ディーナは何か気にかかるといった様子で考え込む。
ダンジョンの途中、水龍のあたりであった騎士たち。
彼らが何者なのかは聞かなかったが、誰かがダンジョンコアを狙っているのは確かだった。
「俺たちがダンジョン周りをしてたら、そのうちまた会うかもしれないな……」
蒼太がボソリとつぶやいたその予感は的中することになるが、それはまだ先の話になる。
「あの人たちのことは次に会った時にまた考えましょうか。とりあえず……出ましょう」
同じ道のりを戻ることを考えるとやや気が重いという様子で、ディーナが部屋の入り口に視線を送った。
「そうだな、とりあえずダンジョンコアをしまって、と」
蒼太が亜空庫にダンジョンコアを格納しようとすると、何かを示すようにダンジョンコアから一筋の光が射出されて、祭壇がある部屋に奥の壁へと到達する。
そして、光は壁に衝突すると、徐々に収まっていく。
「……なんだ?」
何かを察した蒼太が光が指し示す壁に近づき、探るように壁に手を当てると目の前にあった壁が溶けるようにすうっと消える。
そして、壁の向こうには半畳程度のエリアがあり、地面には魔法陣が描かれている。
「この魔法陣は……帰還の魔法陣ですね。もしかして、入り口に戻れるのかもしれませんね」
中に入って様子を確認したディーナが魔法陣を読み解く。
少し会話しただけだったが、あのダンジョンコアには、人を騙すというような考えはないだろうと考える。
「よし、行ってみよう」
物は試しだと、蒼太は先に魔法陣へと足を踏み入れる。
すると、蒼太の身体は光に包まれ、瞬時にその場から姿を消す。
それを確認すると、ディーナ、アトラと順番に続いていき、魔法陣によって全員が転移されていく。
「……ここは」
蒼太が眩い光が収まったのを感じてゆっくり目を開いてみると、ダンジョンの入り口を入ってすぐのエリアにいた。
「ソータさん、よかった……この部屋は入り口のところですかね」
無事に合流できてほっとしているディーナも、近くにダンジョンの入り口があるのを見て、ここがどこなのか理解した。
『あいつはいないようだ』
アトラが周囲の気配を探るも、入り口で蒼太たちの進行を邪魔し、気絶させた男の姿はそこにはなかった。
「仲間のやつらが連れて行ったんだろうな。隊長とか呼ばれていたやつが話のわかるやつでよかったな。無駄な争いは避けたい」
「ですねえ」
そんなやりとりをしながら、一行は洞窟の外へと出ていく。
「……ん? あの目くらましのようなのは解除されたのか」
最初ダンジョンの入り口に施されていた仕掛けがなくなり、普通にぽっかりと存在があらわになっていたこのダンジョン。
恐らくあの仕掛けは彼ら騎士の誰かがやったことであり、帰りに解除していったと考えられる。
「どうしましょうか?」
ディーナが蒼太に質問したのは、このままでいいかというものである。
「ディーナ、あいつらがやったのより少し強力な目くらましをできるか?」
「そう、ですね。なんとかなると思います」
彼らがやったのは遠くから見えづらくするもので、魔力のゆらぎが見えるものであればすぐに変化に気づくものであった。
あれを上回るものを、そう言われて少し思案したディーナはふわりと笑顔を見せて頷く。
「ソータさんも少し協力お願いします。物理的にもやろうと思うので」
「わかった」
その言葉だけで蒼太はディーナがやりたいことを理解し、土魔法を発動させていく。
地下に続く階段のようになっている入り口――それを蒼太は土魔法で直接隠していく。
もちろん、土が掘り起こされたのがわからないように均一化させる。
「あとは、こうしてっと」
蒼太が作業している間にディーナは、周辺の地面にも生えているような草を集めて来ていた。
それを蒼太がならした地面に次々と植えていく。
「更にこれに」
そしてその草にディーナは回復魔法をかけていく。
回復魔法といっても、怪我を直接治癒する類のものではなく、新陳代謝を活性化させるものである。
結果、草は蒼太がならした地面一帯に生えそろい、この下にダンジョンがあるとはだれも思わないだろう。
「もう一つ、最後の仕上げをしておこう」
周囲の草と比べて、長く伸びた草を蒼太は軽く剣で刈って行き、長さを調整する。
もうそこは新たな仕掛けを施した蒼太たちでさえも気づけるか分からないレベルまで違和感のない地面となった。
「これでいいだろ」
「いいですね。うん、これならわからないです」
満足げに顔を見合わせた二人は優しく笑いあう。
ダンジョン探索を目的とし、それを実行した二人だが、ダンジョンコアを持っていくことで、ダンジョンの力が弱まることを気にしていた。
長年かけてあれほどに成長したコアを持っていくとなると、誰かがダンジョンに侵入した場合、それに対抗することができなくなる。
ならばと、入り口を隠すことでその侵入の可能性を少しでも減らそうとしていたのだ。
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