第一話
蒼太のその後をこちらに移しました
各国にある千年前の仲間たちの記憶を辿り、この世界での戦いにケリをつけた蒼太とディーナ。
彼ら二人は、自分たちの過去を追い求めるという目的を達成し、なぜ蒼太が送還されることになったのか、なぜ蒼太の仲間たちが死ぬことになったのか――その理由をついに見つけることに成功する。
それは、蒼太以外にこの世界に召喚された本郷という人物から始まるものだった。
過去に仲間が殺され、自分も地球に戻ることになってしまった蒼太だったが、それでも仲間に慕われる本郷のことを完全に悪だとは断ずることができなかった。
色々な思いを抱えつつ、最後に本郷を許した蒼太は、彼らに小人族の村の再興を託して旅立った。
千年前の仲間たちの墓参りを終えた蒼太とディーナ。
彼らは冒険者としての依頼をこなしながらトゥーラの街の自宅を拠点に穏やかな生活を送っていた。
いま二人の姿は、トゥーラの自宅にあり、エドワルドとアトラは家の外で休んでいる。
ひとまず旅の目的を終えたことで、レイラとイシュドラは、一度蒼太たちとは分かれて竜人族の聖地へと向かい、ここに姿は無い。
真剣な表情で話し合う蒼太とディーナの二人は、この世界の新たな秘密に挑もうとしていた。
その秘密にきづいたのは、千年前の仲間である小人族の長老グレヴィンの調べたメモを読んでいた時だった。
「――ソータさん、このメモなんですが……」
先に気づいたのはディーナリウスだった。少し引っかかる程度の違和感だったが、蒼太に聞いてもらいたいと口を開く。
「これは――俺たちが回った以外の場所についての調べたものか……」
差し出されたメモをさっと読んだ蒼太がぽつりとつぶやく。
長老は千年前の戦いの謎について調べているだけでなく、それ以外のことについても色々な情報を残していた。
二人が旅をしたのは、地上では人族の国、エルフ族の国、獣人族の国、ドワーフ族の国、小人族の集落、帝国、そして空にある竜人族の空中島だった。
しかし、グレヴィンのメモに記されていたのはそれらの国についてではなく、世界に散らばる迷宮についてだった。
「今回の旅でいった迷宮は、ディーナが封印されていた場所、ドワーフの国の鉱山、それと竜人族の宝玉が収められてる遺跡くらいか……」
考え込むように腕を組んだ蒼太の言葉に、ディーナは首を横に振る。
「ソータさん、一般的な洞窟といわゆる迷宮と呼ばれる場所は違いますよ」
不思議そうな表情で蒼太は首を傾げる。彼は洞窟も迷宮もダンジョンも遺跡も全て一緒くたに考えていた。
「どう違うんだ?」
その質問にディーナはどこか自信満々な様子で答える。
「いい質問です! まず、ドワーフの国の鉱山ですが、あそこはドワーフの方々が採掘をしながら徐々に広がっていたもので、人の手によるものなのです。同じく竜人族の遺跡に関しても、恐らくは人の手によって作られたものです。極端な例になりますが、家などと同じですね」
「ふむふむ、人の手によるもの……か」
先生のような雰囲気を出しつつ語るディーナの説明を聞いて、蒼太はなるほど、と頷いている。
「そして、私が封印されていた洞窟、洞窟というと混在してしまうので迷宮と言いましょう。あそこのような迷宮は生きているんです」
「生きている!? それはすごいな……」
蒼太は迷宮は無機物で、ただそこにあるものと考えていたため、ディーナの説明は衝撃的だった。
「はい、大きな生き物で、成長していくものです。体内にいる……と考えると少し不気味かもしれませんが、迷宮が直接入ったものに影響を与えることはありません。しかし、防衛機構として魔物を生み出すようです。それらを倒して素材を手に入れたり、侵入者の魔力を吸い上げて作り出した宝物があったりするようです」
これはディーナも聞いた話ではあったが、この世界ではわりと知られた話であるようだった。
「なるほどなあ、それで迷宮っていうのはどうやってできるんだ? 通常の洞窟とかは、まあ自然にできた穴倉だったり、人が掘ってできたものなんだろ? 生きてる迷宮はどうなってるんだ?」
蒼太の質問に、ディーナはまたもや笑顔になる。
「それもまたいい質問ですね。迷宮は基本的に自然発生するものだと言われています。突如現れるものなので、それこそ街の中に急にダンジョンが現れたという話も聞いたことがあります」
ディーナの話を聞いて蒼太はワクワクしてきていた。
「迷宮にだけ潜る冒険者もいるそうですね、うまくいけば相当な代物が手に入ったりすると聞いたことがあります。ただ……中の状態がすぐにはわからないので、ハイリスクハイリターンといったところですね。そして、そんな迷宮の情報源がグレヴィン長老、というところに何かいわくがありそうですよね」
ただどこかで聞いた話程度であったら、二人ともここまで食いつくこともなかったが、グレヴィンが残した情報ともなればそれを捨ておくこともできなかった。
「――それじゃあ」
「はい!」
二人の次の冒険は迷宮巡りと、この瞬間に決まった。
指針が決まると即行動派の蒼太とディーナはそれからすぐに旅立つための準備をすると、屋敷から外に出る。
すると、エドワルドとアトラが二人のもとへと寄ってきた。
『でかけるのか?』
それはアトラからの質問。平和なこの街も悪くはないが、元々野生で暮らしていたアトラは物足りなさを感じているようだ。日々エドワルドと外で過ごすのも手合わせの意味もあるのだろう。
「あぁ、次は迷宮に行く。とりあえずここから一番近くて行けそうなのは……北に向かった大きな湖のところかな」
話しながらも蒼太は馬車をエドワルドへと装着していく。エドワルドも新たな旅に心躍っているようで、率先して馬車の取り付けがしやすいようにしている。
「さて、目指すは湖畔の迷宮だ!」
「はい!」
『うむ』
「ヒヒーン!」
蒼太は屋敷自体に鍵をかけ、屋敷のエリアに魔法で鍵をかけ、いつものように鍵をフーラの不動産屋に預け、管理を任せると街を出発する。
彼らほどの力を持っていれば、冒険者ギルドや街の有力者などからも依頼がありそうだったが、ここ最近は依頼を受けずにまったりとしていたため、ギルドからの依頼も受けていなかった。
そして、蒼太は以前であればギルドに遠出の報告をしていたが、今となっては報告しなくてもいいだろうと考えていた。
ギルドからの使者が留守となった蒼太の家を訪ねて大慌てしたのは、この二日後の話だった。
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8月27日(火)より、
本作「再召喚された勇者は一般人として生きていく?」コミカライズ開始します!
配信は電子コミックサービス「LINEマンガ」、漫画担当は濱﨑真代さんとなります。




