第四百四話
アントガルたちに見送られてドワーフ国を旅立った大輝たちは馬車で道を進んでいた。
「とりあえずは噂の鉱山に行くことになったけど、その噂だと僕たちの装備の素材になった竜鉄という特別な金属がとれるらしいね」
大輝は防寒具の下にある自身の装備に手を当てながら鉱山に対する思いをはせていた。
蒼太、ディーナ、そしてアントガルが命がけで手に入れた大量の竜鉄――それがある鉱山へと大輝たちは向かっていた。
「うん、埋蔵量はまだまだあるみたいだけど、結構奥深いみたいなのと、今は魔物が多くてなかなか取りに行けないみたいだねえ」
はるなは大輝の対面に座って、ジュースを飲みながらのんびりと返事をする。
「金属が取れれば街の人も助かる。装備が作れれば平和に繋がる」
冬子はみんなの装備を確認しながら、竜鉄が確保できることの有用性を語る。
今回、この情報を集めてきたのは冬子だったため、その思いもひとしおだった。
「竜鉄というのは、個人で採集したもの以外は一部の王族や貴族にのみ使用が許されていると聞きました。我々アーディナル王国は遠方であるのと、他種族であるため、私が知る限りでは流通はしてきていないようですね」
ふわりとほほ笑むリズは自国でも手に入りづらいことを話す。そのことから希少な金属であることがわかる。
「それだけ貴重なものを僕たちの装備に惜しむことなく使ってくれたんだから、しっかりと結果を出さないとだね!」
ぐっと拳を作って意気込む大輝は、自分たちにかけてくれたアントガルたちの気持ちを受取って、自身も熱い気持ちを持っているようだった。
今回の鉱山の情報を聞くやいなや、すぐに城に向かい、ドワーフ王へと上申したのも大輝だった。
「あー、大輝熱くなってるわね……まあ真っすぐな思いだからいいかもしれないけど。力を手に入れても、大輝はそれをただ使いたいっていうより、誰かのために役にたてたいって感じだもんね」
秋は馬車を操縦しながら大輝の反応にくすっと微笑みながら嬉しく思っていた。それは他の女性陣も変わらず、熱く意気込む大輝を支えようと改めて思い直していた。
途中の関所も王の許可をもらっていたため、問題なく通過することができ、ほどなくして一行は鉱山へと到着する。
以前、蒼太たちがここで巨大な炎の竜や黒騎士と戦った。
しかし、蒼太たちが旅立った後、この洞窟にも他の地域と同じように濃い魔素が立ち込めだしていた。
元々魔物の多い洞窟だったが、魔素が濃くなって以降はそれ以上に魔物が増え、誰も立ち入ることができなくなり、全くと言っていいほど竜鉄をとることができなくなっていた。
「聞いていたとおりの魔素の濃さだね……――うん、行こう!」
どろりと洞窟から漂う魔素の濃さに一瞬顔をしかめた大輝は負けないように洞窟の奥を睨み付けて、みんなに声をかける。
魔素を吸い込まないようにはるなの障壁を張りながらゆっくりと進んでいくが、魔素の濃さは魔力感知力が低くてもわかるほど濃厚なものだった。新たな装備のおかげか、以前のように口元に布を当てなくても息苦しさはない。
「うぅ、やっぱこれ気持ち悪いねえ……」
「はい……皮膚がビリビリする感じがします」
だがそれでも特に魔力感知能力が高いはるなとリズは魔素に対して違和感が強いようだった。
「二人ともきつかったら少し下がっていていいよ」
その時、大輝がはるなとリズに声をかける。
しかし、それはいつもの紳士的な気遣いからの言葉ではなかった。
ぬるりと這い寄るように暗闇から魔物が姿を現す。
それはフレイムリザードと呼ばれる炎属性のトカゲ型の魔物だった。魔素に感化されているのか凶暴そうな顔つきになっている。一匹だけでなく数匹飛び出してきている。
「雑魚は……僕と秋が引き受けたよ!」
フレイムリザードから目を逸らすことなく、大輝は口元に薄く笑みを浮かべると、剣を手にして現れた魔物へと向かって行った。秋のように試し切りができていなかった彼にとってはこれが新装備初の実用になるからだ。
「んもう、それでもやっぱり大輝は男の子よねえ――まあ、気持ちはわかるけど、ね!」
呆れた口調ながらも、秋も大輝同様に笑顔になって雑魚に向かって行った。
彼女も大輝と同じく自分の武器を試したいという気持ちが強く、試せることにワクワクしていた。
「せい!」
「やあ!」
二人の剣が魔物をあっさりと両断する。その切れ具合は彼らの想像以上だったようで、フレイムリザードは何も抵抗する間もなくこと切れた。
「これは……すごい」
「えぇ……やばいわね」
初めて新装備を実戦に用いた二人は自分の剣がまるで自分の剣ではないような感覚に陥っていた。素晴らしい武器を手に入れた喜びとその性能の高さに戸惑っている様子だ。
こういった可能性が考えられたため、試し切りと練習を兼ねて、大輝はまずは周囲の問題解決から行って武器を自分たちのものにしようと発案していたのだ。
「二人ともすごいね!」
下がっているように言われたはるなだったが、ちゃっかり自分の装備を試していた。キャッキャとはしゃぎながら自身に向かってきたフレイムリザードに向かって容赦なくメイスを振るう。
「……いや、あんたのほうがえぐいわ」
頬を引くつかせた秋の視界の先では、はるなのメイスで思い切り叩かれたフレイムリザードがぐしゃぐしゃにつぶれていた。
「えへへー、なんかすごく軽いんだよねえ。前に使っていたものをベースに作ってくれたから、持ち具合もしっくりくるし、使い心地がいいんだよねえ」
はるなは嬉しそうにぶんぶんメイスを振り回す。武器に振り回されている大輝と秋に比べて、彼女は既にメイスを使いこなしているようだった。
「……はるなはそういうなんていうか、勘がいいよね。基本的に何をやらせても順応力が高いっていうか」
苦笑交じりの大輝は、幼なじみとして昔から見ているはるなが才能の塊であることを改めて再認識させられていた。
「そんな褒めちゃってー、うち照れちゃうよう。うふふー」
はるなは大輝に褒められていることに喜んで赤らむ頬を押さえつつ、さらに勢いよくメイスを振り回していた。
「――でも、あんたすぐに飽きちゃうし、なんでもそこそこ止まりよね」
「ぐさっ……」
調子に乗るはるなに釘を刺すような秋の指摘は真実であるため、彼女はダメージを受けていた。口で効果音を出しながらがっくりと肩を落とす。
なんでもそこそこにこなすがゆえに、なんでもそこそこで止まってしまう――平均値プレイヤーがはるなだった。
「うーん、でも今回のこれはいけそうな気がするんだよ!! こう、すっごくしっくりくるんだよ。なんていうか……そう! つかいなれた箸を使ってるみたいな! お店とかの箸ってなんか使いづらくない? ね、ねっ!」
気を取り直したように明るく持論を展開するはるなの謎のたとえに、大輝たちは反応に困っていた。
「雑談もいいけど、次が来る。なんなら私が相手をするけど」
冬子は武器を試したがっている様子の大輝たちに気をつかって声をかけるが、既に攻撃魔法の準備をしている。
「あ、ま、待って! 僕たちがやるから!」
「そ、そうよ!」
新装備とうまく共鳴した冬子の魔力の高まりを感じて、このまま彼女に魔法による攻撃をさせては、一網打尽にされてしまうと考えた大輝と秋が慌てて戦線に復帰する。
まだまだ武器を使いこなせていないと感じている二人には、とにかく経験が必要だった。
「あ、あのー、私も武器を試したいんですけど――って誰も聞いてないですね……」
今のフロアは特に戦況を見定めるほどの大きさではないため、言われたとおり素直に後ろに下がっていたリズは、目の前で次々に魔物が倒されていくのをしょんぼりとしながらただただ見つめていた。
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