第三百九十七話
大輝たちは、アントガルが他の職人に話をつけてくると言うため、翌日出直すこととなった。
「……本当に武器以外の職人さんも来てくれるのかなあ?」
朝特有の冷たい風に吹かれてマフラーに顔を埋めたはるなは工房に向かいつつも疑問を口にしていた。
「うーん、自信満々だったから……多分?」
大輝もやや不安そうな面持ちで返事をした。
「大丈夫だと思う」
それは冬子の言葉だった。はっきりと言い切る冬子の言葉にみんなの視線が彼女に集まった。
「なぜ、そう思うんだい?」
その言葉に不思議そうな表情で大輝が聞き返す。冬子はただの憶測で物を話すタイプではないため、なにか確信があるのだろうと思ったのだ。
「あの人、前に武器を作った相手と大輝を比較していた。……大輝には悪いけど、恐らくは前者の方が実力は上」
淡々と告げられる冬子の容赦のない言葉に大輝は少しむっとしながら眉間に皺寄せる。わかっていることではあるが、こうもずばりと指摘されると少し傷ついたようだ。はるなが励ますように苦笑する。
「それでも武器を作ると言ってくれたのは、大輝の中に何か光るものを見つけたから。それがアレを斬った技なのか、それとも別のものなのかはわからない。……それはもしかしたら、彼と同じ何かだったのかもしれない」
いつしか四人は冬子の言葉に聞き入っていた。普段より口数の多い彼女だったからかもしれない。
「だから、他の職人さんも同じものを大輝に、そして私たちに見るのだとアントガルさんは思ったんだと思う」
最終的には相手の気持ちのことであるがゆえ、根拠には乏しいが、冬子は自信があるようだった。
「まあ、その結果は入ればわかるでしょ」
あっさりと締めくくった秋の言葉で一行の会話は〆られ、そして気付けば工房の前に辿りついていた。
そして、中からは声が聞こえてくる。どうやらアントガルたちが集まって話をしているようだ。
彼らが工房に到着する少し前、忙しい合間を縫ってアントガルの工房に招かれたボクディとアリサはアントガルの話を聞き、訝しげな表情をしていた。
「……本当に見込みのある人たちなんだろうね? 彼のような人はそうそういないと思うけど」
「そうね、彼らは特別よね。あれほどの力と素質を持つ人たちなんて……ね?」
アントガルに出された紅茶をすすりつつ、ボグディもアリサもアントガルのいう面白いやつらというのには懐疑的な様子だった。アントガルたちにとって蒼太の存在はそれほどまでに深く刻まれているようだ。
「まあまあ、会ってみればわかるさ。それに、あいつらは国の紹介状を持ってきてるんだ。話くらい聞いてやっても問題はないだろ? 昨日はお前たちの店には行ったらしいが、混雑してたから会えなかったそうだし」
にやにやしながらなだめるアントガルの言葉に二人は閉口する。彼らは国の紹介状ということでひとまず会うことに同意したようだ。
「……っと、来たみたいだ」
その時ちょうど外から声が聞こえてきたため、アントガルは彼らを迎えに工房の入口へと向かった。
「どんな人を連れてくるのかしら?」
「うーん、アントガルの表情を見る限り、面白そうな人ではありそうだけど……」
その二人の疑問の答えはすぐにやってきた。
「二人とも待たせたな! こいつらが異世界から召喚された勇者だ。名前は……えーっと、なんだっけ?」
アントガルは大輝に興味を持ってはいたものの、名前までは覚えてはいないようだった。呆れたように見るボクディとアリスの視線に気まずそうに大輝たちを見る。
彼らはそのことを特に気にした様子もなく、大輝が一歩前に出て挨拶を始める。
「ちゃんと自己紹介してませんでしたね。俺の名前は大輝です。主に剣を使った戦い方がメインになります。あとは、光魔法とかも少し使えます」
人の良さそうな笑顔を浮かべて軽く礼交じりに大輝は自分の特徴を告げる。少しというのは他者から見れば謙遜ではあったが、彼からすればまだまだ使いこなせていないため、少ししか使えていないという考えだった。
「うちの名前ははるなですっ。えーっと、武器はこのメイスとー、あとは光魔法で補助系の魔法を使ったりします」
メイスを取り出し、はるなはにぱーっと笑顔で答える。
「私は冬子。ほとんどの属性の魔法が使える。ロッドは魔法の補助に使うくらいで、それ以外に武器を使った攻撃方法は持たない」
すっと前に出た冬子は表情を変えずに淡々と。話し終えるとすぐ後ろに下がった。
「私の名前は秋。私の武器は剣よ。あとは魔法剣士として、魔法を宿らせて戦ったり魔法で剣を作ったりできるわ」
きびきびと秋は自分ができる能力を無駄なく説明していく。
「えっと、私はエリザベスと言います。みなさんにはリズと呼ばれていますので、気軽にそう呼んで下さい。私の戦闘スタイルは回復魔法とあとは弓が少し使えるくらいです」
自分がいるのは場違いなのではと思いつつ、大輝たちに促されたため、戸惑いながらリズも自己紹介をしていく。
「――あんただけこいつらとは違うんだな」
アントガルのそれは他意のないただの確認だったが、リズの表情に陰を落とした。彼女はきゅっと胸元に手を当てると俯いてそそくさと後ろに下がる。
「あ、あれ? 俺……まずったか?」
それを見てアントガルは慌てていた。まさかそんな悲しげな顔をさせるなど思ってもみなかったようで、どうしたものかと落ち着きなくなった。
「ちょっとちょっと! アントガル! 女の子を傷つけちゃダメじゃない!」
息荒く立ち上がったアリサはアントガルの肩を軽く押すと、すぐにリズの傍に移動して彼女を庇う。リズの身長よりずっと小さいながらも、その身体を目いっぱい使って立ちふさがるとアントガルを叱責する。
「あんな奴の言うことなんか気にしなくていいのよ? この厳ついおっさんに睨まれたら怖いわよねえ……まったく」
ちらりとアントガルを睨みながら嫌みったらしく言うが、むっとしたアントガルは聞こえるか聞こえないかの大きさでボソリと呟いた。
「俺たち、同い年……げふんっ」
そこまで言ったところでアントガルの顔面に近くにあった工具が見事にヒットした。
大輝たちはあんぐりと口を開けて呆然と成り行きを見守る。
「そういうのはわかってて言わないのよ! 全くこれだから男ってやつは」
工具を投げた犯人であるアリサは腰に手を当てて怒りをあらわにしている。
男とひとくくりにされた大輝とボグディは微妙な表情になっていた。
「ぐ、ぐむう。相変わらず手が早い……まあいい、それよりもどうだこいつらは!」
たんこぶができそうなほどの痛みにアントガルは顔を押さえながらもどうだと二人に質問する。
「どう、と言われても……まあ言いたいことはわかるよ。リズさんは、この世界の人だろうから除くとしてもそっちの四人はやっぱり何か違うっていうのはわかるかな」
ボグディは大輝たちから蒼太に近い何かを感じているようだった。
「うーん、わかるけど……リズさんも強い力を持ってると思うわよ? もちろん異世界から来たという四人も、ソ……そ、それだけの力を持っているようだわよね」
腕組みをしながらじっとリズを見て話していたアリサはその途中、突如、額に汗を浮かべ、語尾がおかしくなっていた。必死に何かを誤魔化そうとしてぎこちなさが出てしまう。
それも、彼女がうっかり蒼太の名前を出しそうになり、大輝たちに見えないようにアントガルとボグディにギンッと睨まれていたからだ。
彼らが来る前、アントガルは事前に二人には蒼太の名前は出さないように忠告していた。
それも、蒼太本人に言われていたためだった。
――この先、いつか誰か蒼太のことを知っている人物が来たとしても、匂わすのは構わないが、名前は出さないようにと。
幸い自分たちの力を認められて嬉しそうにしている大輝たちは気づいた様子もないため、このことはうやむやにすることで三人の意思が統一されていた。
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「記憶を取り戻したアラフォー賢者は三度目の人生を生きていく」




