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再召喚された勇者は一般人として生きていく?  作者: かたなかじ
召喚された四人の高校生は勇者として生きていく

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三百九十話


「王様、こちらになります」

 ルードレッドが持ってきた資料――それは蒼太が立ち寄った際に話した内容をまとめたものであり、情報開示の許可を得たものだった。


「おう、これこれ……そうそう、確かドワーフの国だとこいつらがいるんだったな。職人だが、とびっきりの腕利きが三人いる。そいつらの名前は聞いてあるから、それを書状に書いておこう」

 王は蒼太が以前立ち寄った時に話してくれた職人のことを思い出して、早速ルードレッドに指示を出していた。


 蒼太いわく、この三人は腕のいいドワーフの職人の中でも特に腕がたつから何かあったら頼むといいとの話だった。


「武器職人の名前がアントガル、防具職人の名前がボグディ、それからアクセサリ職人の名前がアリサというらしい。この三人は大昔の伝説の職人の子孫らしい――こいつらならきっといい装備を作ってもらえるはずだ」

 二カッと笑う王の話を聞いて、名前を忘れないように秋はメモをとっていた。


「ただ、元々名が売れてる職人だけあって、オーダーメイドで装備を作ってくれるかどうかはお前たち次第だ」

 意味ありげに王がにやりと笑顔で言った言葉の意味を大輝は理解できなかった。


「僕たち次第……ですか?」

 どういうことなのかと首をひねっている大輝を見て、期待外れだと王は少々つまらないものを見るような表情になってしまう。


「ふう、察しがあまり良くないのか、それとも職人の気持ちを想像できないのか……まあいい、ルード、説明してやってくれ」

 先ほどまでの王であったら自分で説明したはずだったが、機嫌を損ねた彼はそれをルードレッドに任せてそっぽを向いてしまった。


「やれやれ、王の気まぐれには困ったものです。――それでは僭越ながら私が説明をいたしましょう。まず、あの国で売れっ子の職人となれば依頼を受けてもらえることはほぼ不可能だと思って下さい。もし受けてもらえたとしても、数か月待つことになってしまいます」

 その説明を聞いて、五人の表情は曇ってしまう。


「その、なんとかならないんですか……?」

 王の権力でごり押しできないか? という大輝の質問に、苦笑交じりのルードレッドは曖昧に首を傾げる。

「そうですねえ……ある程度は王の証書の力でなんとかなるかもしれません。しかし、それは少しだけ早める程度の効果かもしれないませんね」

 一国の王の依頼であっても、それを覆すことは難しい。だがそれほどまでにドワーフ国のその三人の職人の腕がいいということだろう。


 その事実は期待していただけに五人の肩を一層落とすだけの効果があった。


「そこで、鍵になるのが先ほどの王の話に繋がっていきます。……あなたたち次第」

 言い聞かせるようにルードレッドは先ほどの王の言葉を再度繰り返す。

「……おや、まだおわかりになりませんか? ならばもっとわかりやすく説明しましょう。職人が装備を作りたいと思う時はどんな時だと思いますか?」


 その質問を受けて、五人はしばし考え込む。


「……報酬が高い」

 それは冬子の答え。冷静な彼女の非常に現実的な答えだった。

「そうですね、それはもちろんあるでしょう。作るからには、そして生活していくにはお金が必要ですから自分の腕を高く買ってくれる方を優先したくなる気持ちは当然のことです。他には?」


 学校の先生のように問いかけたルードレッドは残りの四人の顔を見回している。


「特別な素材が手に入った時?」

 これは大輝の答えだった。自分もまた特別なものを手にすると気合が入った経験があった。

「良い答えですね、普段扱うことがなかなかできない素材であればそれを使って装備を作りたいと思うのは職人として自然な気持ちだと思います。他には?」


 もっと考えてほしいと、ルードレッドは質問を止めない。

「例えば、王族や有名な騎士の方に依頼された時でしょうか。とても名誉なことだと思いますが」

 考え込むような表情で次に答えたのはリズ。王族の彼女ならではの発想だった。


「なるほど、そうですね。名誉は大事な条件であるかと思われます。自分の力が王や貴族、そして著名な騎士に認められた。それは嬉しいことですからね。他にもありますか?」

 ルードレッドは、これで打ち止めですか? とまとめに入ろうとしていた。これ以上待っても答えが出そうな雰囲気ではなかったからだ。


「うーん、うちはわからないなあ。みんなが言ったやつくらいじゃないかなあ……」

 考えることに飽きたのか、はるなは既に諦めモードだった。


「……もしかして、その、違うかもしれないけど」

「どうぞ、ゆっくりお答え下さい」

 ずっと黙っていた秋は何か思い当たることがある様子で、そっと手を挙げる。だがルードレッドはこれは正解に近いかもしれないと感じていた。


「えっと、なんていうか……やる気が出た時、かなって」

「えー、秋ちゃんもったいつけてそれが答えなのー?」

 当たり前のことを言っているだけにはるなは納得がいかない様子で口をとがらせていた。それくらいなら自分も考えたと言わんばかりの表情だ。


「ちょ、ちょっと待って。まだ続きがあるから! つまりそのやる気を出してもらうために、私たちが何ができるかってことだと思うの」

「ほう、続けて下さい」

 柔らかく目を細めたルードレッドは秋の言葉に興味を示している。先ほどまでそっぽを向いていた王も玉座に座りながらも視線はチラチラと秋に向いていた。


「それで、職人さんがどういう人に装備を作ってあげたいと思うか。もちろん報酬をくれる人だったり、認めてくれる人っていうのも大事だと思うんだけど、むしろ認めた相手に作りたいと思うんじゃないかって……」

「――そうだ!」

 黙っていた王が急に口を開いたことに、この場の全員が驚く。いきなり声を張ったために室内に大きく響いたからだ。


「お、おう、すまん。驚かせたな。……つまりはそういうことだ、そいつらに力を認めさせてやればいい。戦う力なのか武器を扱う力なのか、装備を見抜く力なのかそれはわからんが、それを見せつけてやれば職人なんて生き物はやる気になるもんだ!」

 機嫌をよくして立ち上がった王の宣言に大輝はなるほどと思っていた。そして、王の権力頼みでその答えが浮かばなかった自分に少々の不甲斐なさを感じている。


「まあ、そういうことです。この人になら装備を作ってあげたい、そう思えるだけの何かを提示してあげるのが大事です」

 王の隣で明確な答えをルードレッドが口にした。


 それを聞いた五人は、それぞれ違った表情で納得、疑問、不安といった感情を浮かべていた。


「まあ、後押しはしてやるから頑張れ!」

 それは力強く大きく笑った王からの背中を押す言葉だった。




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配信は電子コミックサービス「 LINEマンガ 」、漫画担当は濱﨑真代さんとなります。

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