第三百八十九話
王の言葉を聞いて動揺した勇者四人は話を聞く余裕を失っており、四人で口々に蒼太の話を始めていた。その表情はみんな真剣で、元クラスメイトの彼の顔を思い浮かべていた。
「……あの、申し訳ありません。皆さまソータ様にそれぞれ思うところがあるようでして、少々普通ではいられないようなのです」
四人が王に返事をしないことに申し訳ないという表情のリズがそっとフォローをいれる。ずっと黙っていた彼女も蒼太のことで思うことがないというわけではないのだが、獣人族の王の手前、内に秘めたようだ。
「ふむふむ、なるほどな。それほどにあいつは四人に影響を与える存在ということだな。……まあ、あれだけ強ければそれもわかるというものだが……」
「――王様!」
顎に手をやり、頷いて話す王の失言をルードレッドがぴしゃりと窘める。
幸い四人は話を聞いておらず、唯一聞いていたリズはその言葉が何を意味するのか理解していないため、慌てたように王を問い詰めるルードレッドを見て不思議そうに首を傾げるだけだった。
「おっと、すまんすまん。それよりも、話を先に進めんといかんな」
王は未だ真剣に話し合う四人の様子を見て、いつこちらに注意を向けてくれるかわからないため、手をパンパンと大きく二度叩いた。
音に反応した四人はびくりとして王に視線を戻した。そこでようやく王を放置してしまっていたことに気づき、それぞれが謝罪の気持ちを込めて頭を下げる。
「あー、構わん。色々気になっているのはわかったが、それよりも話を聞いてもらっていいか? 俺はお前たちに何かしてやりたいと考えている。何か必要としているものはあるか?」
気にすることはないと笑った王に改めて聞かれた四人はどうしたものかと顔を見合わせる。
日本で生活していて、権力者になんでもいいから要望を言え――などといわれることはありえなかったため、今も何を頼んだものかと思案するだけで、良い案は浮かんでいなかった。
「……あの、僭越ならが私から提案してもよろしいでしょうか?」
このままでは話が進まないと考えたリズが遠慮がちに手を挙げながら口を開く。
四人は助け船がきたと何度も頷いていた。
「ふむ、人族の王の娘か。いいだろう、こいつらが思いつかないようだから、あんたの提案を聞こう」
聞いたからといって、それを受けるかどうかを決めるのは勇者四人であるため、腕組みをした王はリズの話を聞くことにする。
「それでは失礼して……――我々は魔王を倒すために旅をしています。お金に関しては大会の優勝賞金もありますし、元々の路銀もあるのでさほど困っていません。戦闘訓練の相手ももちろん必要だとは思います。ですが、私たちには元々の目標があってこの国に来たので、その一助をして頂ければと思っています」
王族の気品を漂わせたリズの言葉に秋と冬子は頷き、大輝とはるなは首をかしげていた。
「あれ……えーっと、元々の目標って何かあったっけ?」
それはすっとぼけたようなはるなの質問だった。大輝も同様であり、その質問の答えを聞きたいと身を乗り出していた。
「はあ、あんたたちねえ……私たちがこの国に来たのは、その先にあるドワーフの国が目的地だったからでしょ。じゃあ、なんのためにドワーフの国に行くのよ?」
ため息交じりに頭を押さえた秋が呆れたように二人に質問を投げかける。
「あ、装備」
落ち着いたように椅子に座り直した大輝が思い出したように言ったことで、他の面々は頷いていた。
「そのとおり、つまりあれね。リズは私たちが、ドワーフの国に行った時に困らないようにしてほしいとお願いしてくれたのよ」
そうよね? と秋がリズを見ると、彼女はにっこりとほほ笑んで頷いて返す。
「はい、そのとおりです。ドワーフの国にはたくさんの凄腕の職人がいます。ですが、一度も会ったことのない私たちが急に訪れて装備を作って欲しいと依頼したところで、忙しい方々ですから対応してもらえるとは限りません」
リズがここまで言って、やっとはるなもなんのためにその依頼をするのか理解ができてきた。
「そっか、だから王様にお願いしてドワーフの国の偉い人やその職人さんに圧力をかけて私たちの装備を優先的に作らせるってことだね!」
しかし、ぱあっと表情を明るくしたはるなの愛らしい口から出てきた言葉は、身もふたもないものだった。
「え、えっと……それはそうなのですが、そのっ、なんと言いますか、もう少しオブラートに包んだ物言いをして頂けると……」
あまりの言葉にリズは苦笑いしながらはるなに言葉を返す。当のはるなはきょとんとした表情で首をかしげているだけだ。
「はっはっは、いいじゃないか。そういうの嫌いじゃないぜ? まあ、俺の方から言ってどこまで効果があるかわからんが、ドワーフの国の王への書状は作ろう。最高の職人に装備を作らせてくれとな」
食堂に大きく響くほどに笑った王は明け透けのないはるなの態度を気に入ったようだった。
「ありがとうございます! 今の装備も悪くないけど、それでもやっぱり不安が残るので……」
立ち上がった大輝は頭を下げると、自分の装備を見ながら頭を掻く。いい武器があっても使いこなせなければ意味のないことは彼自身もわかってはいるが、それでもより良い物をと求めてしまう。
「ふむ……そういえばルード、あいつはここからどこに旅立ったか知ってるか?」
考え込む王が言ったあいつ――つまり蒼太が大会を優勝したあとどこに向かったのかという質問だった。
「……なるほど。そういうことであれば、少々お待ち下さい。調べてまいります」
すっと目を細めたルードレッドは王の質問から何を回答するのが一番望ましいのか、それを先読みして足早に別室へと調べものに向かっていた。
「あ、おい、ルード!」
王が呼び止める言葉には軽く会釈を返すだけで、足を止めることなくルードレッドは出て行ってしまった。
「ふう、すまんな。あいつが何かを思いついて動いたなら悪いようにはならないと思うんだが……なにせよ、あいつが戻ってくるまではまだ時間はある。少し冷めてしまったかもしれんが、帰りを待っている間、食事を続けてくれ」
王の言葉でそういえば今は会食の最中であったと思い出した五人は、目の前の食事に戻った。少し冷めてもご馳走の味は何ら衰えるものではなく、大輝たちはパクパク食べすすめていく。
それから数十分後、ルードレッドが何やら書類を持って戻ってくることとなる。
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