第三十八話
蒼太は着替え終わると、旅の準備をするため街へでる。
買う荷物も多くなるため、エドを連れて馬車で出かけた。
店は既に開いており、街には活気が溢れていた。
蒼太は果物・野菜・肉などの生鮮食品を始め、屋台の料理などの食料から買いためていく。
次に、洋服屋へ向かい加工された毛皮をエド用に買った。
その他、夜間の灯り用にランタンなどもいくつか購入する。
この間とは違い、長い旅になるため他者と接触する可能性も考え、カモフラージュのために通常の旅仕様の道具も購入していった。
買い物をしている間も、荷物のいくつかは亜空庫ではなく馬車に積んでいた。
一通りの買い物を終え、フーラに鍵を届けた帰り、その足でカレナの店へと向かう。
店に入ると、カレナとエルミアが揃って店番をしていた。
扉が開いた音に気づき二人の視線が蒼太に集まる。
「ソータ、やっと来たかい。紹介状のほうは書きあがってるよ、ほら」
カレナは二通の紹介状を蒼太に渡す。
「茶色の封筒のほうは検問で、赤色の封筒のほうは会えたら私の師匠に渡しておくれ。名前はナルアスだよ」
「わかった、助かるよ」
「それから、この子が話があるって言うんだ。聞いてやっておくれ」
カレナの言葉にエルミアがおずおずと前に出る。
「あの、ちょっとお願いがありまして……。この手紙を、私の母に渡して欲しいんです」
「それは構わないが、会えるかどうかはわからないぞ?」
手紙を受け取りながら蒼太は答えた。
「はい、それで大丈夫です。さっき祖母が言ったナルアス様の元で修行しているはずなので、会えたらお願いします」
「わかった、カレナには色々世話になってるからな。これくらいはお安い御用だ」
「そろそろ行くのかい?」
手紙をしまいながら蒼太は頷く。
「あぁ、昼前には出ようと思ってたからな。移動しながらの食事もなかなかいいもんだぞ」
「気をつけてお行きよ。入国もそうだけど、それまでにも森を抜けたり、谷を越えたりと大変な場所はあるからね」
「ソータさんの下に幸運がありますように」
エルミアは旅立つ相手の無事を祈るエルフ特有の言葉を祈りのポーズでかける。
「ありがとうな、そろそろ行くよ。また帰ってきたら挨拶に寄らせてもらうから、その時に手紙の話もしよう」
買い物、紹介状、家の管理の全ての用事を終えた蒼太は、そのまま西門へと向かおうかとする。
しかし、その途中で『雛鳥のやすらぎ亭』が目に入ったため宿へと寄り道をすることにした。
宿屋へ辿り着き、中へ入るといつもとは違いミリではなく、ミルファーナが迎える。
「あら、ソータさんお帰りなさい……じゃないですね。いらっしゃいませ」
蒼太はミルファーナの間違いは気に留めず、あたりを見回す。
「今日はミリはいないのか。珍しいな」
宿に来るといつも迎え入れたのはミリだったため、疑問に思う。
「お昼前の買出しをお願いしてるんです、あの子意外と力持ちなので」
「そうか、今日は挨拶に来たんだが……」
ミルファーナは首を傾げ考えたあと、ぽんっと手を打つ。
「あー、なるほど。引越しの挨拶ですね、お引越しおめでとうございます」
「ありがとうな。だが、挨拶ってのは別にあるんだ……今度しばらく街を出ることになったんだ。それで、あんたらには世話になったから挨拶をしようと思ってな」
蒼太の言葉にミルファーナは驚く。
「そ、それはいつからでしょうか?」
「準備が出来たから、もう出発しようと思っている」
「そんなに早く……」
「色々と世話になった、二人にもよろしく伝えておいてくれ。今回の旅もゴルドンの料理を持っていきたかったが少し時間がないな、そっちも忙しくなる時間だろ」
「そう……ですね」
ミルファーナは少し考え込んでから顔を上げる。
「差し支えなければどちらに行くのか教えてもらえますか?」
「エルフの国だ。しばらくは帰って来れないと思う……みんなも元気でやってくれ、それじゃあな」
「遠いですね……お気をつけて行って来て下さい」
蒼太が手を差し出した手を握り、握手をし二人はそれを別れとした。
宿を出ると、今度こそは西門へとまっすぐ向かう。
門へ着くと、ダンとエリナが見送りに来ていた。
蒼太は二人の横で馬車を停める。
「ソータ様、寂しいですけど帰ってきたらまた会いに来て下さいね。これ、旅の途中で食べてください」
エリナはそう言うと小さな包みを差し出す。袋からはほのかに温もりと甘い香りが感じられた。
「お菓子、か?」
「はい、クッキーです。メイドさんに手伝ってもらったので多分美味しくできたと思うんですが……」
蒼太は包みを開け、一枚つまむ。
「うん、いけるな。ありがとう、道中に食わせてもらうよ」
包みを閉じて鞄にいれ、エリナの頭を撫でる。
「えへへ、喜んでもらえてよかったです」
目を細めながら頬を赤らめる。
「ソータ殿。エルバス様は所用の為、見送りに来られませんでしたが、必ず無事に帰ってくるように、と伝言承ってきました」
「あぁ、ダンもありがとうな」
ダンとは握手を交わす。
「待ってーーーーーーーー!! ソータさーーん!!!」
遠くからミリが大きな声で走ってくるのが見えた。
その声に驚いた三人はその場に立ち尽くし、ミリが近づいてくるのを待っていた。
「はぁ、はぁ、待って、はぁ、下さい、はぁ、はぁ」
側まで来ると、言いたいことを伝えようとするが、呼吸が乱れて会話にならなかった。
「待ってるから、呼吸を整えろ」
ミリはそう言われると、深呼吸を何度かして呼吸を落ち着かせる。
「お母さんにソータさんが遠くに出かけちゃうって聞いて、急いで来たんです」
「さっき寄った時に声をかけようと思ったんだが、買い物中だったみたいなんでな。言づけだけ頼んだんだ」
「もう、びっくりしましたよ。急にエルフの国に行くなんて……あれ? エリナちゃんも見送りに来てたんだ、二人って知り合いなの?」
二人は知り合いなようで、手を振り合っていた。
「領主の依頼を俺が受けたことがあってな、その時知り合った関係で見送りに来てくれたんだ」
蒼太が薬を持ってきたことを口走ることのないよう、エリナの代わりに蒼太が回答する。
「そうなんです。おじいちゃんとお話してるとこに私がお部屋に入ってしまって」
エリナも蒼太の意図を理解し話をあわせる。
「へー、そうなんだ。私のほうはソータさんがうちに泊まった時に知り合ったんだよ」
今度は、何故自分が知り合いなのかを説明する。
「それで、ミリも見送りに来てくれたのか。わざわざ悪いな」
「そうだ、お父さんに頼んだものを渡さないとだった。ソータさん、これお父さんに急いで作ってもらった料理です。ソータさんはお父さんの料理を気に入っていたから喜ぶかなと思って」
ミリは手に持った包みを蒼太に渡す。こちらもまだ温もりが残っていた。
「おー、それは嬉しい。ありがとうな、昼飯がまだだったから助かる」
先ほどエリナにやったように、ミリの頭を撫でる。
「ふふっ、どういたしましてです」
蒼太は撫でた後に、内心で子供にやる感覚でやってしまったと失敗を嘆いたがミリは喜んでいるようなので良しとすることにした。
「ふたり、いや三人ともわざわざありがとうな。それじゃ行って来るよ」
二人から受け取った荷物を御者台に載せ、別れを告げる。
「はい、お気をつけて」
「また食堂にも来て下さいね」
二人はそう声をかけ、ダンは敬礼を挨拶とした。
蒼太は手綱を握りエドに声をかける。
「エド、長い旅になるが頼むぞ」
ヒヒーンと大きく鳴き、二人は街を後にする。
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ついに旅立ちます。




