第三百七十八話
一対一を二組。
これがC組の最後の戦いとなった。
大輝の相手は彼の提案に最初に賛成した男だった。名前をガンド。対決前に二人は名乗りあっていた。彼の顔には傷があり、歴戦の戦士といった様子で巨大な大剣を構えている。
それに対して大輝は、通常片手剣と呼ばれる剣を両手で持って構えていた。
「それじゃ――」
「――いくぞ!」
二人は開始のタイミングを互いに理解しており、ほぼ同じタイミングで動き出す。
真正面から突っ込んでくる大輝、それをタイミングをはかりながら迎え撃とうと武器を構えるガンド。
しかし、ガンドが大剣を振り下ろす速度よりも、大輝が相手の懐に入り込む速度のほうが上だった。
「なにっ!?」
想像以上の速さにガンドがそう声を出した時には大輝の攻撃は男に届いていた。
「ぐはっ!」
ろくに受け身も取れずにガンドは後方に吹き飛ばされる。大輝はあえて武器で攻撃せずに片手でつくった拳に魔力を纏って殴りつけることで、速さを優先させていた。
吹き飛ばした程度で決着がつくとは大輝も思っていない。大輝の動きは止まらずに、吹き飛んだガンドを追いかけていく。
「せい!」
そして姿勢が崩れたままのガンドに向かって、今度は再び剣で攻撃をする。
「くそぅ!」
しかし、その攻撃は大剣によって防がれてしまう。攻撃が当たる寸前に体勢を立て直したガンドは盾のように大剣を構えていた。
剣と剣がぶつかり合う音が大きく会場内に響く。
「ぐあああああああああ!」
拮抗していると思われた瞬間、それに少し遅れて苦しむガンドの叫び声が響き渡った。
大きな音に一瞬目を閉じた者には何が起きたのかわからず、まばたきせずに見ていた者たちは一瞬で決着がついたことに驚いていた。
「お、おぉっと! ガンド選手は場外に吹き飛んだ模様! い、一体何がおこったのでしょうか!!」
会場内に興奮状態のアナウンスの声が響き渡る。
大輝の視線の先でガンドはただ場外に吹き飛ばされただけでなく、強烈なダメージを受けており気絶していた。
一体あの時何が起こったのか、それを理解できたのは大会に参加している実力者、そしてはるなたちのような特別な戦う力を持っている者だけだった。
「だいくんすごいね。この間の戦いの時よりも動きが良くなってる。自分の身体の使い方が戦いをとおしてわかってるって感じ!」
嬉しそうに微笑むはるなは大輝が何をやったのか理解しており、何が変わったのかを分析していた。
「うん、魔法の発動も滑らか」
こちらは相変わらずの無表情の冬子の言。
大輝は魔力で自分の肉体を強化することで、今までよりもはるかに効率的な動きを行っていた。
「最後の魔法も強烈でしたね」
手を合わせて微笑むリズには最後の大輝の攻撃がなんだったのか見えていた。
ガンドが吹き飛んだ理由。
大輝はまず右手に持った剣で攻撃し、ガンドに剣で防がせる――これは防がれたのではなく、わざと防げるように速度を抑えていた。
そして次の瞬間左手から、腹部に向かって爆発魔法を発動させていた。元々は光魔法しか使えなかった大輝だったが、冬子に教えを受け、火の系統になる爆発魔法を習得していた。
「大輝がずっと剣で戦っていたから、相手の注意がそっちにそれていた。だから、左手の魔法に気づかなかった」
「うん、最後まで魔法は隠していたよね。だいくん、色々考えながら戦ってるなあ」
冬子とはるなは、爆発魔法の直撃を成功させた大輝の動きについても分析していた。仲間の成長を感じて胸が熱くなる。
「す、すげーな」
周囲にいた元酔っ払いたちは想像もしていなかった状況にすっかり酔いもさめ、三人の話を聞いて驚いていた。
一見すれば、自分たちよりも身体が小さく、強さを感じない女の子が三人。しかし、何がおこったのはほとんどの者が理解できなかった先ほどの戦いについて冷静に話しているのだ。
「ふっふーん、すごいでしょー! あれが我らのリーダーだいくんだよ!」
「あ、あぁ。すげーな」
男たちの反応が聞こえてきたはるなが豊満な胸を張って言うが、男たちは頷きながらも内心で、すげーのはお前らだよ! と突っ込んでいた。
「ふう、なんとかなったね」
当の大輝は攻撃がうまくはまったことに安堵していた。戦闘中に剣と同時に攻撃魔法を組み込んで戦った経験が少ないため、ここで試せたことが収穫だった。
「……向こうはどうなったかな?」
大輝が視線を流した先、C組の最後の一人を決める戦いは大輝たちとは別の場所で続いていた。
残った二人はどちらも剣の使い手であり、火花が散ると思わせるほどの激しい勢いで剣と剣がぶつかりあっている。
「二人とも強いな」
決してガンドが弱かったわけではないが、彼と眼前の二人を比べると明らかに一段、二段上の実力を持っていた。
大輝はどちらが勝っても、さらに強い者と戦えるのだという高揚感に包まれていた。
いまだ戦いを続ける二人の集中は最高潮に高まっており、どちらもミスなく相手の攻撃を防ぎ、更に相手に攻撃を加えていく。
違いと言えば、細身の男はスピード特化で手数で勝負をしている。反対に厳しい表情でその攻撃を受ける精悍な顔立ちの男は、隙を見つけると強力な一撃を撃ち込んでいた。
特徴の違う二人だったが、実力は拮抗していた。
「あっちの人が勝つな。――あと数合」
だが、大輝にはどちらが勝つのか予想がついていた。
一合、二合、三合、そこまで撃ち合ったところで変化がみられた。よく見ると細身の男の表情が明らかに曇っていた。
「くそっ――せやああああ!」
そして、今まで細かく攻撃を繰り出していた細身の男が大ぶりの攻撃に転じた。自分の特徴を殺してしまっているその攻撃に気づいた厳しい表情の男は眉間に皺を寄せると、剣を弾き飛ばした。
「あー……私の負けです。武器があれじゃ、もう勝てないです」
弾き飛ばされた剣の行方を見てみると、闘技場床に突き刺さっていたがその刀身にヒビが入っていた。
「……もう少し続いていたら、わしの負けだったかもしれない」
渋い声音で呟かれたその言葉のとおり、厳しい表情の男の剣も刀身に細かな欠けがみられていた。
「お、おおおぉ! 決着しました! なんと、あまりにも多くの打ち合いをしたため互いの武器にヒビが入っていたようです!」
熱気そのままに大きく響くアナウンスによって弾けるように会場も湧き上がる。
こうして、C組の決勝進出者が決まった。
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