第三百七十三話
これで謁見を終わろうかというところで、大輝と秋は顔を見合わせてから質問をする事を決めた。
「あの、質問よろしいでしょうか?」
遠慮がちに手をあげた大輝がそう発言する。
「おう、質問の一つや二つ構わないぞ」
元々獣人国の王はフランクで知られており、今回の謁見は勇者一行を迎えたものであるため、大輝の言葉を無礼だという者もいなかった。
「この国だと、日ごろから大会が開かれていると聞きました。大きな大会は終わったそうですが、その小さな大会に参加してみたいのですが」
大輝の申し出を聞いた王はにやりと笑う。
「お前たちも戦いが好きなのか? あぁ、いい、皆まで言うな。わかっている、ここに来た時からお前たち二人は何か聞きたそうな顔をしていたからな。この国では強いことこそ正義だからな、大会に参加して優勝でもすれば、この国での発言力は高まるぞ」
楽しげに笑って答えた王の言葉に、意図していることが違うと感じた大輝と秋は首を横に振る。
「王様、僕たちはただ力を試したいんです。発言力は求めていません」
「……かっかっか! そうだな、そうこなくてはな! いいぞ、気に入った。……ルード、そっちの情報も提供してやってくれ。大会に参加する時はできる範囲でいいから城に報告してくれ。あぁ、もちろん義務じゃないから大ごとに捉えないでくれよ?」
吹き出すように大笑いしたあとの王の発言にまた始まったかとルードレッド並びに重鎮たちはうっすらとした頭の痛みを感じながら、ため息交じりに首を横に振っていた。
「わ、わかりました」
王は自分の趣味で言っていることだったが、それがわかっていない大輝はやや緊張気味に返事をする。
「あの、本当に報告はしなくて大丈夫ですから。王様は少し自分の発言の重さというものをご理解なさって下さい。そのせいであの時も大量の本を……」
「あー、うるさい! わかっている。あー、勇者たちも気にしないでくれ。ただ大会に参加するとなった場合どんな戦い振りなのかをみたかった俺のわがままだ。聞き流してくれればいい」
ルードレッドに小言を言われた王はうっとおしいものを振り払うように手を顔を前で振って、大輝たちへの説明を付け足した。
「は、はあ? えーっと、一応大会に参加することになったら入り口の衛兵の方に言付けを頼めばいいですかね?」
「おー! 来てくれるのか、うむうむ、衛兵には伝えておくゆえ、もし期間に余裕がある場合はぜひ報告してくれ」
大輝が素直に報告を承諾したことに気をよくした王は、満面の笑みだった。
「それでは、両方の一覧を用意しますので、皆さまは客間で待機なさっていて下さい。誰か、案内を頼みます」
ルードレッドは話を切りあげて、近くにいた兵士に大輝たちの案内を依頼する。
請け負った兵士は無駄口をたたかずに、あくまで案内だけを役割と考えて無言のまま部屋へと案内していった。到着したところで兵士は頭を下げる。何を聞いても答えてくれそうにない雰囲気を感じ取った五人は黙ってついて行くしかなかった。
「それでは失礼いたします」
それが兵士の声をちゃんと聞く最後の機会だったが、すぐに立ち去ってしまったため、ついぞ雑談をすることは叶わなかった。
案内された部屋でしばらく待っていると、書類を抱えたルードレッドがやってきた。
「お待たせいたしました。こちらがここ最近報告があった魔素が濃いと言われている場所です。数としてはそれほど多くないのですが、人々が近づくことができなくなっていまして……率直に言うと、少々困っております」
話していく内にルードレッドの表情は厳しいものになっていた。
「確かに、あの状況になっている場所は魔物が強力になっていますからねえ」
トゥーラの状況を思い出した大輝がルードレッドの心情を察っする。
「すぐにどうこうはできないかもしれないけど、順番に潰していくつもりなのでこの情報は助かります」
秋もこの情報があれば、問題を解決していけると暗に話す。
「みなさんはお強いようですね、それならこちらの一覧も役に立つでしょう」
勇者たちの頼もしさを感じながらルードレッドが次に彼らへ手渡したのは本日以降、闘技場で行われる予定の向こう一カ月の大会一覧だった。
「おぉ! これは助かります! ……ほら、秋、すごいよこれ!」
「こんなにやってるの!? 条件とかも詳細に書かれてるし……これはすごいわね!」
一緒にその書類を見ている大輝と秋はすっかり語彙が不足してしまい、ただただすごいすごいと喜んでいた。
「どれどれ……うわっ、こんなにやってるんだー。小さい大会があるって言ってたけど、こんなにあるなんて」
はるなは二人が見ている用紙を横から覗き見て驚いていた。
「確かにこれはすごいですね。さすが力の国といった感じです」
はるなとは反対側から用紙を見たリズも感心したように驚く。
「それで、二人が参加できそうな大会はあったの?」
冬子は大会の数よりも、大輝と秋が参加できるのか? それを気にしていた。実際に二人が見ている用紙には獣人のみ参加可能、Aランク以上の冒険者のみ参加可能などなど参加条件が書いてあったからだ。
「うーん、そうだなあ……このへんなんかは参加条件が緩そうだけど」
もう一度用紙へ視線を落とした大輝が指し示したのは五日後に行われる大会だった。
「ふむふむ、そちらなら確かにみなさんでも参加できますね……ただ、参加条件が緩いので参加人数も多くなると思われます」
指し示されたそれを見たルードレッドはあまりお勧めはしないといった表情になる。
「何か問題でもありますか?」
「えぇ、他の大会は条件をつけることで振り分けをしているのですが……こちらの大会ですと誰が出てくるのかわからないのであまり素行の良くないものなども出場する可能性があるのです」
それを聞いて引く大輝ではなかった。
むしろ、望むところだという表情になっていた。
「よし、これに参加しよう!」
その決断は秋たちには予想できたものだったため、揃って苦笑していた。
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