第三百七十二話
「ふえー、ここが獣人の国かあ。当たり前だけど、獣人の人が多いねえ」
無事に検問を終えた一行は馬車で中に入る。馬車から顔を出したはるなは街中を行き交う人を見て、そんな感想を口にした。
「確かに、トゥーラやお城ではここまで多くなかったので、これだけいると圧巻ですね」
目移りするようにリズもキョロキョロと周囲を眺めていた。
「ほらほら、二人ともそんな風に見たら失礼でしょ? じゃあ、まずは宿に向かうわよ。武闘大会のシーズンじゃないから、宿もとりやすいと思うけど……」
秋が宿屋を探しつつ周囲を見渡すと、シーズンから外れているはずであるにもかかわらず街には多くの人がおり、何か大会でもあるのかと思われるほどの賑わいだった。
「この国はドワーフの国と人族領との中間にあって、商業的な意味でも人と行き来が盛ん。大小さまざまな大会があることから冒険者や武人も多い」
戸惑う秋のために淡々と冬子が本で読んだ情報を共有する。実際そのとおりなのだろうと信じられるほどに周囲には多くの人がいた。
「つまり?」
「つまり、人が多いのはいつものこと、だから武闘大会が終わった今なら宿はとりやすいと思う」
不安そうに聞く秋に対して冬子はそう結論付けた。
現状、冬子の情報通りであり、一行は中ランクの宿にすんなりと部屋をとることができた。部屋数は三部屋で冬子とリズ、秋とはるな、そして大輝が一人部屋というふりわけになる。
「さて、少し街を見て回ろうか」
部屋に荷物を置いて鍵をかけると、五人は宿のロビーで落ち合った。みんな少し装備を緩めて動きやすい恰好になっている。
「そうね、目的別に行きたいところだけど、まだ街の様子が掴めてないからまずは順番に回っていきましょう」
秋の提案に全員が頷いた。
外をぶらついてみると、やはり獣人とすれ違う比率が高かった。
「なんかみんな強そうだねえ」
獣人族は冒険者や騎士など戦いに身を置くもの以外でも、基本的な身体能力が高いものが多く、他種族の冒険者などよりも一般の住民のほうが強いこともある。筋肉質な体つきにはるなが目を奪われる。
「うん、楽しみだね!」
これだけ強者が多くいるのであれば、開かれているという話の小さな大会にも期待できる。そういう意味を持った大輝の言葉だった。
「武器はトゥーラで買ったばかりだけど、この街の装備のレベルを確認するためにもお店も回りたいわね」
秋は色々な武器を見ることがいつの間にか楽しみの一つとなっていた。彼女自身、意外なことだと思っていたが、現実世界では見ることのなかった戦うための武器は彼女にとって非常に魅力的であるようだ。
「大きな図書館があると聞いているから、そこに行ってみたい」
「うーん、美味しいものたべたいなあ」
冬子とはるなも自分も希望を口にする。
「あのー……」
その中で一人、リズは少し違う様子で遠慮がちにおずおずと挙手をしていた。
「リズも何かあるの?」
「えっと、その、私個人というわけではないのですが……我々は勇者パーティですので、お城に挨拶に行った方がいいのでは、と」
自分たちの立場を忘れていた大輝たちは、リズの言葉でそれを再確認させられる。つい新しい国に入って浮足立っていたようだと大輝たちは反省した。
「そう、だったね。僕たちはただの旅人じゃない、本来の目的を忘れないようにしないと……よし、それじゃあまずはお城にいってから街を散策しよう!」
まるでお祭りの時に神社でお参りしてから出店を回る。それくらいの気軽さでいう大輝にリズはどうなることかとハラハラしていた。
城内 謁見の間
大輝たちは入り口で王への謁見を求め、自分たちの身分をあかすとすんなりと謁見の間まで案内された。ずらりと兵士たちが両壁に整列し、王座の周囲では大臣をはじめとした重鎮たちが立っている。
「ほう、お前たちが召喚された勇者か。四人もいるとは驚きだな……それで、そっちの嬢ちゃんが人族の王女か、五人ともなかなかいい面構えじゃないか」
獣人国の王は王座に腰かけ、しげしげと大輝たちを眺めて値踏みしていた。だがその視線は道中で出会った盗賊たちから感じたようないやらしさなど微塵もなく、ただ大輝たちの実力を見ているだけだった。
「ごほん、王様。他国の王女に対して失礼かと」
それでも相手に不快な思いをさせるのは良くないと大臣ルードレッドが王を窘める。
「おう、悪い悪い。お前たちも気を悪くしないでくれ、なかなか強そうなやつらが来たから嬉しくなってな。……それで、ここに来たのは挨拶だけか?」
にかっと気持ちの良い笑顔を浮かべた王の質問に大輝たちは顔を見合わせてから答える。
「はい。この国の周辺で何かあった場合、私たちが動くこともあるかと思いますのでまずは王に挨拶をと」
一歩前へ踏み出して答えたのはリズ。これは事前に相談してあったことで、王に対する対応は基本的にリズが行うことにしていた。彼女は王族の気品漂う振る舞いで優雅に話した。
「ほうほう、なるほどな。俺のところにも不穏な情報は入ってきている。森や山や洞窟などで、魔素が高いところが増えてきている。そして、そこの魔物は軒並み強力になってきている、とな」
ここに来てから常に冷静を保っていたリズの表情にわずかだが変化がみられた。王族の者として表情の変化は見せないように振る舞っているが、王を相手には誤魔化せなかったようだ。
「はっはっは、王女様もなかなかいい表情をするじゃないか。冒険者ギルドからの情報は俺のところにも入ってくるんでな、人族の勇者が魔素が濃い場所の調査をしているって話は聞いている」
「だったら……」
ここに来て初めて大輝が口を開いた。失礼にならないようにそっと大輝が願い出ると、王は笑みを深めて頷いた。
「おう、別にそんな情報でいいなら教えてやろう。ルード、あとで一覧を渡してやれ。ふっ……なんでそんなに協力してくれるのか? って顔をしているな。俺だって世界の無事を願う王だから、それくらいの協力は安いものだ」
それからも王は大輝たちが必要と思われる情報をルードレッドに指示をだして用意してくれた。
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