第三百七十一話
冬子はまず、盗賊を逃がさないように広い範囲で障壁を張っていた。ようやく視認できるようになった盗賊たちは自分たちが追い詰められているような感覚に襲われ、焦りだす。
「お、おい、なんかやべーぞ!」
「あ、慌てるんじゃねー、さっさとこの女たちを捕まえるぞ!」
だがまだ自分たちに直接の被害が及んでいるわけではないため、盗賊たちは早く冬子たちを倒してしまおうと武器を振り上げる。
「がっ!! ……な、なんだ!?」
勢いよく襲いかかろうとした盗賊だったが、動けないことに気づいて困惑しながら自分の身体を見回した。
「さっきも言ったけど、やっぱりおめでたい頭をしてる。まさか、逃がさないだけだとでも思った?」
ひやりと冷たさを感じさせる口調で問いかける冬子は盗賊の足元を凍り付かせ、動きをとれないようにしていた。
「冬子ちゃんすごいねえ、いつの間にやったのか、うちにはわからなかったよー」
「そういうはるなこそ」
にこにこ笑いながらはるながのんびりと冬子を褒める。だがよく見ると、盗賊と冬子たちの間には、はるなによって薄い障壁がはられている。
「お二人ともすごいです!」
リズは二人が既に魔法を使って男たちの動きを封じている手際の良さに驚いていた。
「リズだって、もう戦闘態勢に入っている」
冬子の指摘のとおり、リズは弓を構えていつでも撃ちだせる準備をしていた。
「そ、その、魔法ではお二人のように役に立てませんので、これくらいは」
言葉では照れ交じりに焦っているが、リズによってギリギリとひかれた弓の弦がいつ放されるのかと盗賊たちはごくりと唾を飲んでいる。
「それで、そいつらどうするの? ここまで抵抗できない相手を殺すっていうのもさすがに抵抗があるけど……」
それは大輝の声だった。はるなはぱあっと笑顔になって軽く振り向く。
「そっちは片付いたんだね! こっちももう捕まえた感じだけど……どうしようね?」
はるなも冬子も捕まえたあとどうするかまでは考えていなかったようで、きょとんとした表情で見合う。
「普通だったら最寄りの街に連れて行くのがルールだけど、ここからだと戻るか先の獣人の国になっちゃうのよねえ……どうしようかしら」
どちらに行くにしても長い道のりであるため、秋も男たちの扱いに困っていた。
「とりあえずはこれでよしっと」
女性陣が話している間に大輝は男たちの武器を奪って縛り上げていた。彼が近づいてくるのを感じ取れなかった盗賊たちは目を大きく見開いて驚いている。
「大輝、そいつらどうする? そこらへんに放っておいてもいいけど……」
盗賊は秋の言葉にやめてくれと首を勢いよく横に振っている。そして、この中で一番柔和そうな表情の大輝に救いを懇願する視線を送っていた。
「うーん、どうしようかなあ。ここに放置も可哀想だけど……」
「大輝、そいつら私たちのことを値踏みして、誰が誰をもらうとか話してた」
追い打ちをかけるような冬子の言葉を聞いた瞬間、大輝の目つきは途端に鋭くなる。盗賊たちはひやりとした物が背を伝ったような感覚に襲われた。
「へー、そんなこと言っていたんだ……どうしようかなあ」
無表情になった大輝はいつの間にか剣を鞘から抜いていた。ぬらりと立ち上がった大輝からは殺気が放たれている。
「ちょ、ちょっと大輝止めなさい! 無駄に人を殺さないの、冬子もわかってて煽らないで!」
この状態の大輝は危ないと、秋が慌てて止めに入ったため、最悪のケースは免れた。
それからしばらくどうするか五人で話し合っていると、一台の馬車が進行方向からやってきた。
「おーい、どうしたんだ? 何か困っているのか?」
その馬車は冒険者のもので、道の途中で止まっている大輝たちに声をかけてきた。
「……しめた!」
それは大輝の言葉だった。ついその言葉が出てしまうほど現状を打開する存在を渇望していた。すぐに表情を困ったように変えて冒険者に近づく。
「あぁ、盗賊に襲われてね。幸い被害はなかったんだけど、捕まえた盗賊をどうしたものか悩んでいてね。僕たちはこれから獣人の国に向かうから、彼らを連行するわけにもいかなくて……」
本当に困った様子の大輝の話を聞いた冒険者は笑顔になる。
「だったら、俺たちがそいつらを連れて行ってやるよ。ただ、報酬は俺たちがもらう形になるが、それでも構わないか?」
願ってもないその申し出に全員が頷く。
「それで構わない。このまま放っておいて、魔物にこいつらが食われるのも寝覚めが悪いし、うまく抜け出されて他の旅人が被害にあるのも嫌だからね」
互いの意見が一致したため、盗賊は冒険者たちに引き渡されることとなった。
大輝たちは余計な荷物を増やすことなく獣人国に向かうことができ、冒険者たちは帰りの土産を手に入れることができてホクホクだった。
「さあ、余計な邪魔が入ったけど気を取り直して獣人の国に向かおうか……今度からはぱぱっと魔法か矢で攻撃したほうがいいかもね」
自分で飛び出していったことを思い出して、無鉄砲だったかと反省した大輝は頭を掻いていた。
「そうね、私も反省しないと……冬子が冷静でよかったわ」
秋も自分の行動を省みて、大輝に引っ張られたとはいえ安易な行動をしてしまったことを反省していた。
「お互い様。普段は二人がみんなを引っ張ってくれているから、たまには私もやらないと。それに、私だけじゃなくはるなとリズも私の言葉を信じて良く動いてくれた」
緩く首を振った冬子は自分だけの手柄にせず、はるなとリズのことも忘れずに秋に伝える。
「うん、やっぱりこういうのっていいね! パーティって感じで。城ではそれぞれ自分のことで精いっぱいだったし、森での戦いの時もまだ連携始めたてって感じだったからね」
にこにこと爽やかな笑みを浮かべた大輝はパーティが一体感を持ててきていることを実感して嬉しそうだ。今回のことも大輝と秋が魔物を担当して、他三人は盗賊の相手をすると役割分担ができていた。
実はリズは初めて見た盗賊たちがとても怖かったが、冬子とはるなが落ち着いていたから慌てずに済んでいた。大輝と秋は試し切りができて満足している、などなど色々な話をしながら大輝が御者をつとめる馬車に揺られていた。
それから数日後、獣人の国に一行は到着する。
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