第三百六十七話
「これから武器を作ってもらう予定なのに、別の武器を見るっているのも贅沢な気がするね」
「まあ、気持ちはわかるわ。でも、新しい武器っていうのもわくわくするじゃない」
一部の冒険者たちから噂されていることなど全く知らない大輝は秋と共に武器屋へ向かっていた。
大輝の言葉に理解を示しつつも、秋は新しい武器を選ぶということに気分があがっていた。
「それは僕も同じだよ。この剣も決して悪くないんだけどね……」
笑顔で大輝は腰にある剣の柄を軽く叩く。
それは城で支給された剣で、城の兵士が使うものの中でも上位にあたるものだったが、あくまでも一兵士が使う中ではというレベルのものだった。
「悪くない、程度じゃこの先大変かもしれないわね……武器に対する目も鍛えて、良い武器を選んでいかないと」
これから向かう武器屋に二人は胸をときめかせていた。
しかし、武器屋に辿りついた二人は並べられた武器を前に難しい顔になっている。
「……ねえ大輝、どれがいいと思う?」
「……僕に聞かれても」
困ったような表情で互いを見合う秋も大輝も、どれがいいのか武器の差がわからずにいたのだ。
「あのー、よければご説明しましょうか?」
店に来てから何十分も悩んでいる二人を見かねて、苦笑交じりに店員が声をかける。大輝たちより少し年上に見える彼は柔らかい笑みを浮かべている。
「えっ!? いや、その、えっと……」
「その、僕ら……お願いします!」
急なことに驚いた二人だったが、顔を見合わせて頷くと素直に返事をした。
「ふふっ、はい、わかりました。どういった目的で使用するかにもよるんですが、当店では武器を三つに大別しています」
そう言って店員は指を三本立てる。
「一つは戦闘用、一つは儀礼用、もう一つは採集用になります。お二人が求めているのは恐らく最初の戦闘用になると思われますので、こちらからこちら側を見て頂ければと思います」
店員が示す場所は、大輝たちが見ている場所と大きく外れていなかった。
そのことに二人は内心で安堵した。ほっとした雰囲気を出す二人に店員は柔らかく微笑む。
「次に武器の種類になりますが……お二人は片手剣を求めていらっしゃるのでしょうか?」
二人が腰につけている剣を見て店員はそう判断したようだ。
「えぇ、僕たちは二人とも片手剣をメインに戦っているので、今のものより上の武器を見つけられたらと思っているんですが……」
大輝の話を聞いた店員は少し考えたのち、これならと考えた武器のもとへと向かう。大輝たちはそのあとを追いかけた。
「それならば、こちらの剣はいかがでしょうか」
案内した先で店員が差し示した剣は青みがかった刀身だった。ガラスケースの中に陳列されていて、他の剣と比べて格が上なのだということは大輝と秋にも伝わって来た。
「これは……なんというか、高そうですね」
どう言葉にしようか迷う大輝の様子に店員はにっこりと笑顔になる。
「そう見えますか? それなら、お客様の目利きも十分だということです。陳列の方法によってそう見えるというのはもちろんですが、見る目がある人は刀身を一目見ただけで他の剣とは異なる特殊な力を持っているのがわかると思います」
安心させるように語りかける店員はこの剣の力がわかれば十分であると言っていた。
「こ、これは確かにいい剣だとわかりますよ。でも、他の剣を見てもどれがいいのかわからないんです……」
特別な剣のことだけがわかっても目利きができるとは言えないんじゃないのか? 不安げに告げた大輝はそのことを疑問に思っていた。
「お気持ちはわかります。ですが、そこらへんに並んでいる剣を見てなんの金属でできていて、どちらが切れ味がいいのか? それをわかるには、それこそ何十、何百、何千もの武器をみなければなりません。ともすれば、どちらも同じだけのものかもしれません……ですが、とても良い武器であればそれは見ただけでわかるのです!」
安物の武器を見比べてどちらがマシか? それがわかるには多大な労力が必要であり、それを知る意味があるのか? そう店員は問いかけていた。
「確かにそのとおりね。普通の武器とほんのちょっといい武器で、後者を選んだとしてもそれは大した差にはならない。だったら、本当に良い物への理解を深めるのは大事ね」
秋は店員の言葉に納得して頷いていた。
「秋!?」
大輝はいまだ納得しかねており、置いてけぼりを喰らったように感じて秋に対して驚きの声をあげる。
「だって、ずっと見ていたって大輝だってわからないでしょ? だったら、詳しい人の言葉に乗っかったほうがいいでしょ。あっ、これ下さい」
驚きかたまる大輝をよそに、秋はあっさりと店員が勧める剣の購入を決めていた。
「ちょっ!」
「はい、ありがとうございます! 他にも良い武器のご紹介ができますが、いかがでしょうか?」
慌てたように動き出した大輝のことはこれまた無視して、秋と店員は話を進めていく。
「お願いします。大輝の武器も探さないと」
一人ついていけない大輝は自分がおかしいのかと思いながら、二人のあとについていく。店員が紹介する武器は値段が高かったが、それ相応の強力な武器だった。
「いいわね、これ下さい。大輝、支払いよろしくね」
そして、秋は大輝の反応も確認せずに武器を選び、その支払いだけを大輝に任せていく。この行動は彼女には彼女なりの考えがあってのことであり、大輝も秋が選んだのであればと渋々ながらも支払いを行う。
支払いを終えて店員と秋は満足顔で挨拶をかわす。
いまだどこか納得のいっていない大輝は軽く会釈をして、店の外に出たところで大きなため息をついた。
「はぁ……結構な出費だったね」
「そうかしら? 値段に見合ったものを買えたと思うわよ。ギルドマスターが言っていたでしょ? すぐに作ってもらえるとは限らないって。だから、それまでの間、主力として使える武器を持っていないでどうするのよ」
軽くなった財布代わりの袋を落ち込んだ様子で持つ大輝の背を励ますように何度か叩いた秋は、今後のことも考えての選択だと言う。
「……そうか、そうだね。やっぱり秋は秋だね! 何も考えずに買っていたように見えて、ちゃんと色々考えてたんだ!」
どこか馬鹿にされているような言葉に秋は、すっかり機嫌を直して笑う大輝のことをジト目で見ていた。
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