第三百六十話
リズが泣き止んでからも彼らはゆっくりと歩を進めていき、うまく連携していきながら色々なタイプの魔物と戦って経験値を増やしていく。
数をこなしていくうちに五人の連携は精度を増していき、最初は危うかったところもあった戦いも楽に行えるようになっていく。
「ふぅ、これなら結構戦えるね。あとは、集団戦の時も同じように落ち着いて行動できるかどうか、それに周りに目が行き届くかどうか……かな?」
大輝の発言に秋も同じことを考えていたらしく、深く頷いていた。
「全員が他の人の状況を把握できるのが一番いいけど、それは難しいわね。だから……リズ!」
「ひゃ、ひゃい!」
リズは急に呼ばれたことに驚いて変な声が出る。秋は別にしかるつもりで名前を呼んだつもりはないので、身を竦めているリズに訝しげな視線を向ける。
「何変な声を出してるのよ……それよりもリズ、あなたは遠隔攻撃が主体よね。それに目もいいわ。だから……」
「だから……なんでしょう……?」
何を言いたいのかわからず、不思議そうにリズは首を傾げる。
「あなたが全体の調整役になるのよ!」
「ちょ、調整役ですか?」
まだわかっていない様子のリズに、秋は言い方を変えることにした。
「あなたが私たちの指揮官ってこと! 全体の状況を把握して、動きを指示するの。もちろん、毎回というわけじゃないわよ? 集団戦や私たちに余裕がない時に一歩引いているあなたが状況を見て指示をしてほしいのよ」
全てを説明されてリズは合点がいくが、それは彼女にとってひどく驚くことだった。
「む、無理無理! そんな大役無理です!」
勢いよく首と手を横に振って否定するが、秋はリズの両肩に手を置く。
「できるかできないかじゃないの……やるのよ」
にっこりと笑顔で言う秋だったが目は笑っておらず、そのプレッシャーはすさまじいものだった。
「あ、秋ちゃんが本気だ!」
「あれは断れない」
「リズがんばってくれ……」
秋と長い付き合いのはるな、冬子、大輝は彼女がこの状態になってしまっては諦めるしかないと考えていた。
「わ、わかりました、わかりましたから! 開放して下さい~っ!!」
「うん、わかればよろしい」
焦った様子のリズから肯定の返事を聞けたことで満足げに頷いた秋は彼女を開放する。
「まあ、秋の人の能力を見る目は確かだからね。僕もリズならできると思うよ」
「うんうん、秋ちゃんの得意技だからね!」
「適材適所判定能力……」
秋から開放されるためという理由で引き受けたリズをどこか気の毒に思いながらも、三人ともが秋の判断なら大丈夫だろうと思っていた。
「なんか褒められてる気がしない能力ね……まあ、リズなら大丈夫よ。王族だけあってなのかどうかはわからないけど、大局を見る目をもっているわ」
ジト目ではるなたちをみたあと、リズに視線を向けた秋は彼女のことを褒め、どんどん乗せていく。
「……わかりました! どこまでできるかわかりませんが、できるかぎりのことはやらせてもらいます!」
基本的に素直なリズは自分にも他人にも厳しい秋に褒められたことでまんまと乗せられ、頼られていることに感激し、力強く宣言した。大輝たちと城で出会った当初に比べて本来の彼女の性格が顔を出すようになったのも関係あるのかもしれない。
実際にどこまでやれるのかわからないが、それでもこの中で全体を見るとしたらリズが適任だろうとはみんなが思っていた。
「さて、そんなことを言ってたら想定してた通りの展開になってきたみたいだよ」
武器を構え始めた大輝の言葉にハッとして全員が周囲を見渡す。大輝たちが進んできた道は何もいなかったが、空から前から横から魔物が集まってきている。
「どうやら、そのようね。……リズ、いきなりうまくはできないと思うから、私たちが敵を見落としている時に声をかけてくれればいいわ。あとは弓で援護よろしくね! さあ、みんな、行くわよ!」
自分から指定したため、秋は今回の戦いにおけるリズへ求めるものを簡単に説明すると、武器を構えて魔物たちに向かっていった。
「リズ、肩の力抜いていこうね!」
「リズちゃん、がんばっ!」
気持ちのいい笑顔をリズへ向けた大輝とはるなも秋に続く。
「リズ、私も近くにいるから一緒に見ていこう」
ぽんとリズの肩に手を乗せた冬子は彼女の負担を減らすために動くからと声をかけた。
「はいっ! がんばります!」
弓を片手にリズは元気よく返事をしながらも、視線は魔物たちからそらさずにいた。
「さあ、背中はリズに任せて僕たちは倒していくよ! ……せやあああ!」
秋を追い越して先陣を切った大輝は剣を手に魔物へと斬りかかっていく。それも、常に自分の立ち位置を意識しながらの攻撃になる。森での戦いでは一か八かでがむしゃらに突っ込んでいき、その無鉄砲な動きのせいでダメージを喰らうことになってしまった。そうならないために大輝自身も視野を広げることにしていた。
「私も!」
大輝の少し後ろを追いかける秋は右手に剣を持ち、左手には魔力剣を生み出し、二剣での戦いを行っていく。その攻撃はしなやかで、まるで舞を踊るかのように美しくも華麗に敵を斬りつけていく。
「二人とも恰好いいなあ、っと!」
三番手についたはるなは、そんな二人をかいくぐって向かってくる魔物へメイスを思い切り振り回して次々に魔物たちを吹き飛ばしていた。たわわに揺れる胸と愛らしい見た目に反して最も威力の高い攻撃を放っているはるなだったが、その理由は腕力でも、武器の威力でもなく、己の一番得意な光の魔力を大量に武器に込めているからだった。
「なんか、このメイスちゃんすごい使いやすーいっ!」
思っている以上に吹き飛んでいく魔物を見送ったはるなは楽しいといわんばかりに笑う。実はここに来てメイスが持つ本来の性能を使いこなしつつあった。彼女の持つメイスは流し込まれた魔力を増幅して攻撃に転換するというものだからだ。
これまで誰もこのメイスについて詳しく知らなかったため、その性能について伝えることができなかったが、はるなは本能でその性能を使いこなしていた。
「“フレアボム”!」
ロッド片手に冬子は大輝たちとは別の場所に広範囲魔法を放って戦力を削っていく。それで倒しきれない魔物や大輝たちの視界外から攻撃しようとする魔物を弓を使ってリズが攻撃していく。
「やらせません!」
自分の役割を考えつつも、今は指示はできないが仲間の危機を救うことならできるとリズは考えていた。自信を身に着けて自ら考えて動くように意識したことで、攻撃力、状況に対する対処力が上がっているリズは確実に勇者パーティの戦力になってきていた。
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