第三百五十六話
翌日
大輝たちは前日もらった報酬を元手に装備を揃えていく。
それを終えた一行は、冒険者ギルドに立ち寄った。
ギルド内に足を踏み入れた瞬間、フロアにいた全員の視線が一気に大輝たちへ、正確にははるなに集まっていた。
「えっ? えっ? な、なにかな? うち、何かしたかな?」
きょとんとした表情で周囲を見回すその反応は女の子らしいもので、はるなの愛らしい顔立ちと相まって男性の冒険者と職員は表情がでろんと緩んだ。
しかし、昨日のはるなを見た女性たちは頬がひきつった笑顔を浮かべていた。
「はるな……あんた昨日の自分の行動思い出しなさい。そりゃみんなもどう扱っていいのか困るでしょ」
女性たちの気持ちを察した秋はやれやれとため息をつきながらはるなに言う。
「あー、ね。昨日は疲れてたからついつい爆発しちゃったんだよねえ……うち、機嫌悪くなると我慢できなくて、ごめんなさいっ」
小動物を思わせるように可愛らしく謝るはるなに、今度は女性の職員もきゅんとして許しても良いかと思えていた。
「空気が変わったみたいだね。とりあえず、ギルドマスターさんに挨拶させてもらおうか……受付で話してくるよ」
苦笑交じりだった大輝はギルドマスターグランへと取り次いでもらうために受付に話をしに行った。
しばらくすると大輝が一行のもとへと戻ってくる。
「なんか、ギルドマスターさん忙しいみたいで今は取り次げないってさ。どうやらお客さんが来ているらしい。何か情報があるか、なければ挨拶をして次の街に行こうと思ってたんだけど……とりあえず街中で情報を集めて、何もなかったら言付けだけお願いして出発しようか」
「そうね、恐らくああいうことが起きてるのはあの森だけじゃないでしょうから」
大輝の言葉に秋が賛同する。はるなも冬子も頷いていた。
「えっと、どういうことなのでしょうか?」
さすがに大輝の幼馴染たちのように察することができないリズが困ったような表情で説明を求めてくる。
「あの森は場所として重要性が低い。近隣の者が向かうといっても、その頻度は低いはず」
端的に冬子が説明するが、それでもいまいちピンとこないリズは首を傾げていた。
「つまり、あれを仕掛けたやつにとってあの森は重要じゃない、恐らくは実験的に行われたんじゃないかと思うんだ。もし近隣の街や人に被害を出したいなら、もっと人が多く来る場所にしたほうがいいからね」
大輝は予想を口にする。それを聞いてリズはようやくなるほどと頷いていた。
「それにしても……みなさん、四人ともその予想ができていたみたいですが、みなさんが住んでいた場所はそれだけ色々なことが起こる場所だったのでしょうか?」
心配そうにリズが大輝たちに聞いてくるが、今度は四人が首を傾げる番だった。
「いや、いたって平和だったかな。たまに事故とがあったりするようだったけど、私たちが住んでいる場所は事故も少なかったからね」
「そう、ただ情報を集めるのはとても簡単だった。ゲームや漫画や小説もたくさんあった」
自分の知識の源とがそれらであるため、次々と冬子が列挙していく。相変わらずの無表情ではあるが、懐かしさがにじんで見える。
「げえむ? まんが? ……よくわかりませんが、私とそれほど歳の変わらないみなさんがこういった状況を分析できるのですから、高度な教育がなされていたんでしょうね」
聞き覚えのない言葉は置いとくことにしても、彼らの状況分析力にリズは感心しているが、大輝と秋は気まずい表情だった。裏のない素直なリズの感心っぷりにまさかこれら全てが遊びや趣味の事だとは言えなかったのだ。
「ま、まあ、それはいいから早速情報を集めに行きましょうか。最近になって魔物が強くなった場所や、珍しい魔物の目撃情報あたりを集められるといいわね。ほらほら、行くわよ」
気まずさから秋は誤魔化すように早口で話すと、背中を押してギルドから出るように促した。
ギルドを出た大輝たちは街で買い物をしながら情報を集めていく。人の多いこの街では、ちょっとした商店の店主が意外な情報を持っていたりすることを彼らは知っていたからだ。
それを求めて、雑貨や食料を買いながらの情報集めとなった。
いくつかの店を回り、ある果物屋に立ち寄った時に耳寄りな情報を得ることができた。
「あー、東の山の山頂あたりでドラゴンを見たっていう話は一時期良く耳にしたねえ。最近はとんと聞かなくなったけど……あと、あの山の魔物はドラゴンの話を聞く前も今も強いままだという話は聞くよ」
「なるほど、それでお姉さん。魔物が強いっていう話はいつ頃から聞くようになりました?」
好青年といった笑みを浮かべている大輝は女性店員のことをお姉さんと呼んだ。
これは大輝が相手に対して気をつかったりお世辞で言っているのではなく、いつもある程度の年齢の女性までを全てお姉さんと呼んでいる。自然と身についているこれらによって大抵の場合、大輝は人に嫌われることはなかった。
「んもう! あんたいい男だね! ……そうねえ、確か半年、いえもう少し前だったかしら。もしかしたら一年前くらいだったかもしれないわね。昔は薬草採りに行く冒険者もいたみたいだけど、魔物が強くなってからは物好きや危険を省みない冒険者くらいしか行かなくなったみたいだよ」
大輝の言葉に気を良くした女性店員はうろ覚えの記憶を思い出しながら話をしていく。
「なるほど、そうですか。お姉さん、ありがとうございました、この果物買わせてもらいますね!」
アイドル顔負けの笑顔を浮かべた大輝は陳列された果物を一ケース買うことにする。
「あらあら、お兄さん顔と性格だけじゃなく気前もいいんだね。……気に入った、これも持っていきな! あんたたち、このお兄さんの仲間なんだろ? だったら、これもこれも持っていきな!」
この男ならモテるのも当然だろうと思った女性店員は気前よく、大輝が買おうとした量の倍以上の果物を押し付けるように渡してきた。秋はまたか、と疲れたようにため息をつきながら、大輝の腕から今にも落ちそうな果物を受け取っていく。
「い、いえいえ、そんなことしていただかなくても……」
「いいんだよ! あたしが気に入ったんだから、持っていってちょうだい! あと……山に行くならくれぐれも注意してちょうだいね。実際、山に向かって戻らなかった冒険者は多いからね……」
神妙な顔で忠告する女性店員に今まで戻って来なくなった冒険者たちを思い、大輝も真面目な表情で頷いた。
このあと一通り買い物を終えると、山に向かう報告をするため、彼らは一度冒険者ギルドへと向かった。
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