第三百五十四話
正義感溢れる大輝の宣言を受けて、またいつものアレかと女性陣は苦笑いだった。
「ということで、僕たちはそれも任務の一つとして行動をしていきます。恐らくですが、あれは魔族に関連するものだと思いますので、勇者である僕たちが動いたほうがいいと思います」
そう力強く断言する大輝にこの場に居た面々はそれぞれ別の意味で驚いていた。
「そ、そのようなことを個人で請け負うのは無理があるのではないか? それに何もお主たちだけがやる必要もないことだろうに」
いくら勇者といえども彼らだけで成し遂げるのは大変だろうと、グランは決意の固い大輝に対して気遣う言葉をかけた。
「まあ、そうだね。君たちは五人のパーティなんだろ? それだけの人数で対応するのは難しいんじゃないかな?」
勇者うんぬんは知らなかったため内心とても驚いたが、たった五人では心もとないだろうし自分たちも手伝おう。そうカルロスは言外に言っていた。
「リズ、それにみんなもいいよね?」
何か意味を持たせた大輝の確認に、躊躇いを一切見せずに三人は頷く。リズの名前だけあげたのは、彼女が王族の者だったからだ。
「……あまり広めることではないのですが、ここにいる方に限ってなら良いと思います」
視線が集まる中、静かに目を伏せたリズも大輝の考えを支持する立場だった。
「僕たちは……僕とそこにいる秋、はるな、冬子は別の世界から召喚された勇者です」
それを聞いてガルギスとカルロスは動揺した。何をわけのわからないことを、そんな突拍子のない話だがあの力を見せたのはもしかしたら……、とそれぞれの反応がみられた。
「僕たちは神より与えられた特別なユニークスキルを持っています。それは魔族と戦うことに特化したものです。魔王と魔族と戦うために僕たちはこの世界に呼び出されたのですから」
大輝が告げるその言葉は真剣な言葉であり、それにつられるように他の面々も真剣な表情になっていく。与えられたその勇者としての力をこの世界のために使いたいという大輝たちの気持ちが痛いほど伝わって来たからだ。
「……わかった。お主たちのことを信じよう。実際に、その剣の魔物を倒したのもお前たちだ。それならばお主たちに任せるのも選択肢の一つだろう。ただ、我々は我々で動かせてもらう」
彼らが勇者だと知っていたグランはグランでギルドマスターとしての考えを宣言する。
「それならば、俺たちもそうしよう。我ら赤い一撃も情報を得たらギルドに流すようにする。君たちもギルドで情報を収集するようにしてくれ」
これはぱちんとウインクをして見せたカルロスの言葉だった。彼らのクランで解決するには、それを相手にできるものが少ない。しかし、人数はいるため、情報集めは行えると考えていた。
「助かります! 僕たちだけじゃ手当たり次第聞いた情報をあたっていくしかありませんからね」
グランとカルロスは自分たちの提案に対して大輝が反発すると思っていたが、思っていた以上に彼が素直に受け入れたことに肩透かしをくらってしまう。
「すいません、こいつはこういうやつなんです」
そう言って一歩前に出た秋が大輝の代わりに頭を下げた。ガルギスからはやっぱりあんたが一番苦労をしているんだなという視線を送られている。
「ふむ、わかった。共に問題解決に繋がるよう、がんばっていこう」
「俺たちもそのつもりだ」
しかし、グランとカルロスは大輝と意思を共有しているらしく、力強い握手を交わしていた。
「よし、僕たちもがんばろう!」
グランたちの協力を得ることができたことに気をよくした大輝は彼女たちに振り返ると、意気込んで声をかけた。
「うんっ、だいくんがそう決めたならうちもがんばるよ!」
「大輝が決めたなら仕方ない。どうせ曲げないだろうし」
胸のあたりでぎゅっと拳を作って同意したはるなと読んでいた本をぱたりととじた冬子は既に大輝の意見を受け入れていた。
「みんながやるっていうなら私もやるしかないわよね。リズもいいわね」
「はい! 正義のためにがんばりましょう!」
ため息交じりに秋がリズに同意を求めようと声をかけて返って来た言葉は、大輝に触発されたのか正義の味方モードになっていた。
「はあ、あなたもだいぶ染まってきたわね。……私がしっかりしていないとよね。こうなったら私も踏ん張りますか」
なんだかんだ言っても秋は秋で他の四人とは違う形でやる気になっていた。
その後もしばらく、ここにいる面々でどうやって今後活動をしていくのかを話し合った。
それが一通り終わると一同は揃って一階に戻って行く。
「あー、やっと降りてきました!」
嬉しそうに弾んだ声をあげたのは受付のアイリだった。その声につられて一階を見渡すと、冒険者たちがいまかいまかと大輝たちの登場を待ちわびていた。
「こ、これは一体?」
冒険者たちの期待に満ちた視線が一気に集まって動揺している大輝が質問すると、にっこりと微笑んだアイリが答える。
「みなさんを待っていたんですよ。今回の大規模依頼で一番活躍したのはみなさんなんですから、こういう依頼の場合報酬は活躍度の高い人からお渡ししていくのです」
そう笑顔で言い切った彼女は仕事が滞っていることに少し不満そうな口ぶりだった。
「す、すいませんでした。少し話し込んでしまったので……」
ぺこぺこと頭を下げて謝りながら大輝は急いで降りていく。カルロスたちも、そういえばそうだったなと慌てて一階のフロアに降りて行った。
「それでは、順番にお渡ししていきますね。まずは今回一番活躍されたダイキさんですね。出現した中で一番強力な魔物を倒されたようですね、お疲れさまでした!」
それを皮切りに活躍度が高い順番に報酬が渡されていく。最初、大輝たちは報酬を受け取るのを断ろうかとも思っていたが、それでは冒険者ギルドとしてのシステムに不具合が出てしまうようだった。また、そういう報酬を断るという行為は他の冒険者に良くない影響が出てしまうと押し切られ、受けとる事になる。
「ははっ、あの受付嬢さんには敵わないみたいだな」
そんな大輝たちのもとに、同じく報酬を受け取ったガルギスがやってきた。
「えぇ、あの剣幕ではさすがに断ることはできませんでしたよ……」
「まあ、そう邪険にするなって。みんな合わせたらそれなりに報酬をもらえたんだろ? だったら装備を新しくするといい。冒険者というのはそうやって自らを強化して、更に上の依頼に挑戦していくんだからな」
ガルギスにそうアドバイスされて、報酬の多さに悩んでいた大輝は納得する。
「なるほど、そうやって考えればいいのか。なんか急にぽんっと大金を渡されたので戸惑ってしまいましたよ……」
活躍したことを褒められるのは悪い気がしないが、これだけの大金を今まで得たことのない大輝は苦笑交じりに頭を掻きながら、新しい装備に思いをはせた。
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