第三百五十三話
一同が街に戻ると、それをみつけた住民たちから弾けんばかりの歓声があがる。戻って来た冒険者たちの表情がみんな明るく、その雰囲気から察して依頼を達成してきたのだろうと容易に予想できたためである。
「おかえりなさーい!」
「よく帰ったな!!」
彼らがどんな依頼に向かっていたかは住民たちも知っていたため、そこにいた全員が彼らの凱旋を喜んでいた。
歓声を浴びながら冒険者たちは手を振ったり、思い思いに返事を返して街の中へと入って行く。
「すごい歓迎だね」
大規模依頼を迎える住民たちはどこか祭りのようであり、紙吹雪も舞っていた。周囲を見渡しながら冒険者としての活躍を褒められたような気持ちになった大輝は嬉しそうに顔をほころばせている。
「それだけ大きい依頼だったってことよね」
秋は自分たちがこなしてきた依頼の重要性を感じて、どこか誇らしげである。
「まるで城の騎士たちが遠征に出て凱旋した時のようですね。まさかそれを当事者となって味わえるようになるなんて……」
眩し気に目を細めたリズは感慨深い様子で歓迎する住人たちを見ていた。
「ねー、こんなパレードみたいなのなんてスポーツ選手でもなかったら一生味わえなかったよね!」
興奮交じりに腕を広げるはるなは以前にテレビで見たメダリストの凱旋パレードなどを思い出していた。
他の冒険者もこういった経験は少ないようで、照れながらも歓声に応えていた。
歓声が人を呼び、人が新たな歓声を巻き起こし、それによってまた次々と人が集まってくる。それは一行が冒険者ギルドに辿りつくまで続いていた。依頼の受注がストップしていたことも歓声に拍車をかけていたようだった。
全員がギルドについたところで、グランが詳細な報告をまとめるために主要メンバーを部屋に呼んだ。
「まずはみんなご苦労だった。特にお主たちは中心となって活躍しくれたからな。特に感謝している」
感謝の気持ちを込めてグランは部屋にいるメンバーに深く頭を下げた。
部屋の中にいたのは、カルロス、ガルギス、そして大輝たちのパーティ一行だった。
彼らが戦いの中心であったため、報告するのも彼らが行ったほうがいいという冒険者たちの総意であった。
「ガルギス、ダイキ、頼む」
大きなクランのリーダーをやっているカルロスは自分が説明しようかとも一瞬考えたが、最前線で戦ったのは大輝たちであるため、戦況を詳しく話すのであれば彼らが適任だと彼らの背中を押す。
「じゃあ、僕から説明します。ガルギスさんいいですか?」
「あぁ、頼む」
ガルギスの同意を得たことで大輝が説明役を担当する。
「僕たちは森に向かいました。森に向かうまでの道中は特に問題はありませんでした。ここまではギルドマスターも知っていると思います」
表情を引き締めた大輝は時系列順に説明をしていく。グランは時折相槌をうつように頷いている。
「森の中を進んでいると魔物たちの襲撃を受けました。ここで混乱して瓦解するかとも思ったんですが、カルロスさん率いる赤い一撃の方々が抑えに回ってくれたので、戦線は維持できました」
チラリとカルロスに視線を送るが、彼は力強く頷いて話の続きを促す。
「僕たち五人とガルギスさんが最前線にいたのですが、僕たちも同様に魔物に襲われました。最初は普通の魔物たちが……中には強い魔物もいましたが、倒せない敵ではなく撃破できました。問題はそのあとに出て来た魔物です。……それはオークでした」
なんだオークか。とはこの場にいる誰も思わなかった。
こんな話をするのであれば、そのオークはただのオークではないのだろうということは誰もが予想していたからだ。
「そのオークの身体は真っ黒で今までに見たことのあるどのオークともことなっていました。こちらの攻撃は、剣も魔法も効かず、手詰まりだと思われました。僕も剣で斬りかかったのですが、全くといっていいほど手ごたえがなかったです」
あの時黒オークと対峙した他の面々も同意とばかりに頷いている。そのことにグランとカルロスがぐっと眉を寄せた。
「それで、どうやって倒したんだ?」
オークを倒したからこそ街に全員が戻ってきている。ならば、どうやって撃破したのか、それが最大の着目点だった。この街の近くでそんな魔物が出現したとなればギルドマスターとして知っておかねばならないという気持ちがグランにはあった。
「やつの持っていた剣です。それが本体でした。元々は普通のオークだったのかもしれませんが、あの大剣を持ったことで変異したのではないかと予想しています」
これは馬車の中で話し合って出した結論だった。
「その点について補足する。おそらく大剣がオークを操っていたのだと思う。ただし、身体をそのまま操っていたのではなく、大剣が発する強い魔素を送り込んで同化することで細かい動きまで命令できるようにしていたのだと思う」
すっと手をあげて話に入って来た冬子の説明だった。冷静に淡々と話す彼女の話に皆が聞き入っている。
「つまり、同様の剣が存在すればそれを持ったものは精神も身体も操られ、果てには身体を剣の使いやすいように変化させられてしまうということね。更には恐らくだけど、元々の能力よりもかなり強い力を持つことになると思う」
さらに補足を秋が行う。オーク種として見ると尋常ではない戦い振りをしていたため、狂化だけでなく強化もされたと彼女は判断したのだ。
「な、なんということだ!」
思っていた以上の深刻さにグランは驚いて思わず立ち上がってしまう。今回は剣を手にしたのがオークだったからよかったが、それがより強力な魔物であったならどうか、いや魔物だったのであればそれはまだましだった。
「人が手にした場合、どうなるか……」
唸るようにぽつりとカルロスはそう呟く。
「その通りだ、あの森からは魔素が消えているから大丈夫だとは思うが、他の場所の調査も進めていかないと危険だな……」
またこんなことが起こらないとはいえないため、グランの表情は厳しいものだった。
「ギルドマスター、これは既にこの街だけの問題ではないと思います。他の街のギルドとも情報共有して下さい。そして、怪しげな黒い武器を見つけたら決して手に取らないようにと冒険者に広めて下さい」
そんな中、口を開いた大輝は何か決断した目をしていた。
「う、うむ、そうだな。わしのほうで至急手配しておこう」
彼の瞳に宿る力強い何かを感じ取って圧倒されつつも、その意見を聞いて、なるほどとグランは納得していた。
「……だいくん?」
どうしたのかと心配そうにはるなが声をかける。彼女だけでなく、パーティのメンバーはリズも含めて全員が大輝が何かを考えていると察していた。
「その剣、僕たちで壊して回ろう!」
大輝が振り返って彼女らに宣言したそれは相談ではなく、決定事項を告げているかのようだった。
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