第三十四話
蒼太は会釈をするとそれ以上は声をかけずに、静かに部屋を出て行く。
店を出ようとすると、エルミアにぶつかりそうになった。
「おっと、すまない」
「あっ、ソータさん。こっちこそごめんなさい!」
エルミアは大きく頭を下げる。
「おばあちゃんに御用ですか?」
「ん? あぁ、エルフの国のことを聞きたくてな」
エルミアは身体をびくっと震わせる。
「え、エルフの国に行くんですか?」
「そのつもりだ、入国するのに色々手間取りそうだがな」
「そう……ですか。あの、えっと……やっぱりなんでもないです」
何かを言おうとしていたが、それをやめエルミアは俯いてしまう。
「おい、何か気になることでも……」
エルミアに蒼太は疑問を持ち声をかけようとする。
「ソータさん、気をつけて行ってきてくださいね」
しかし、エルミアはそれだけ言うと会話を打ち切りそそくさと店の中に入ってしまった。
「あー、あの態度は何かありそうだったな……まぁ、言いたくなさそうだし気にしても仕方ないか」
しばらく扉を見ていたが、頭を一度かき店を後にする。
日も完全に落ちていたが、蒼太はまっすぐ家には帰らず冒険者ギルドへと向かった。
ギルドに入ると、酒場からの賑わいが聞こえてくる。
ホールにも冒険者はいるが、依頼報告を終えて情報交換などをしているのがほとんどで、受付はすいていた。
あたりを見回し昼間の冒険者がいないのを確認すると、蒼太はアイリの受付へと向かう。
「あ、ソータさん。いらっしゃいませ、図書館にはいけましたか?」
蒼太が近寄ってきたのを確認すると笑顔になり、挨拶をしてくる。
「あぁ、助かったよ。色々と知りたいことが調べられた。ありがとうな」
「い、いえ、あれくらいどうってことないです! またいつでも聞きに来てください!」
蒼太が笑顔を浮かべ礼を言ってきたので、アイリは驚きどもってしまった。
「それで、今度はどんな御用ですか?」
「それなんだが、冒険者ってのは街を離れる時にはギルドにつげてからいったほうがいいんだろ? その報告に来たんだ」
アイリは眼を見開いて驚く。
「えっ! そ、ソータさんこの街から出て行っちゃうんですか?」
蒼太は自分の口元に人差し指を当てる。
「しっ、声が大きいぞ。多少ばれるのは構わないが、広める気はない」
アイリは慌てて口に手を当てる。
「あっ! ご、ごめんなさい」
「この街に家を買ったから戻って来る予定だが、しばらくはあけることになると思う」
「しばらくってどれくらいですか? あと、どこに行くんですか? それに家を買ったってどういうことですか?」
アイリはさっきまでの自分の失態を忘れ、矢継ぎ早に質問をしていく。
「ちょ、ちょっと待ってくれるか。一気にそんなに聞かれても答られない、少し落ち着け」
蒼太は身を乗り出さんばかりのアイリを落ち着けと、両手で制する。
「うー、すいません。つい……」
「順番に答えさせてもらうが、まず期間だがどれくらいになるかはわからん。すぐに戻るかもしれないが、その後に行くところが出来るかもしれないからな」
アイリに落ち着いてもらうために、蒼太は少しゆっくりと話していく。
「次に行く場所だが、エルフの国に行く予定だ。入れるかはわからないがな」
「それじゃあ、下手したら年単位で戻らないかもしれないじゃないですか……」
エルフの国は他種族の国に比べ、ここから近いがそれでも辿り着くまでに長い期間が必要で、更に入国審査で数ヶ月待たせることもあるという。
「まぁ、どうなるかわからないさ。それから家のことだが、ちょっとしたツテで安く手に入れたんだ。といっても、ついこの間の話だけどな」
「……なんか、聞いてはみたものの家のことは割りとどうでもよく感じてきました。普通なら驚くところなのに」
「そ、そうか……とりあえずそういうわけだから、上の人には言っておいてくれ。他にも行くところがあるから、もう行くぞ」
蒼太はギルドマスタールームに呼ばれるのを避けるため、そう言うとアイリの返事を待たずにギルドから出て行く。
次に向かったのは不動産屋だった。
扉をあけ入ると、まだ灯りはついておりフーラが事務作業をしている。
「いらっしゃいませ、でも今日はもう店じまいですよ。また明日お越し下さい」
顔をあげず、作業を続けながらそう声をかけてくる。
「すまないな、店じまいしたあとにきて。少し頼みたいことがあったんだが」
聞き覚えのある声にフーラは顔をあげた。
「お、ソータさんじゃない。長い間売れなかったあの家を買ってくれたあなたなら大歓迎よ、頼みって何かしら? あ、そこにかけて」
カウンターにある椅子に腰をおろすと蒼太は話を始める。
「売れなかったのか……まぁ、それはいい。その家の話でちょっと相談があってな」
フーラは書類をまとめると横に置き、蒼太の話を聞く姿勢になる。
「何かしら? 何か不備があったとか?」
蒼太は軽く首を横に振る。
「いや、そんなことはない満足してるよ。そうじゃなくて、今度遠出をすることになってな、その間の管理を頼めないかと思ってきたんだ。もちろん管理費は支払う」
フーラは口元に手をあて、肘立ち姿勢になりながら考えている。
「うーん、別にいいんだけど、それってどれくらいの期間、どれくらいのことまでやればいいのかしら?」
「期間はちょっとわからないんだ、長くなると思ってもらっていい。管理としてはたまに様子を見に行って、窓をあけて空気の入れ替えをしてくれれば十分だ」
フーラは今度は腕組みをして考え込む。
「期間がわからないのはちょっとねえ……料金の支払いの関係とかもあるし」
「管理してくれたら、ひと月あたり金貨二枚払おう。一応前金として金貨十枚渡しておく、もし早く戻ってきたら余った分は返してもらえればいい」
「やるわ! 週二回の見回りと、風通し、簡単な掃除でいいかしら」
元々それくらいのことをやってきていたため、フーラにとっては負担はあまりないに等しい。それで破格の報酬をもらえるとなれば受ける以外の選択肢はなかった。
蒼太もそれをわかっていたため、受けたくなるような条件をだしていた。
500万PV達成!
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