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再召喚された勇者は一般人として生きていく?  作者: かたなかじ
召喚された四人の高校生は勇者として生きていく

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第三百四十七話

「なかなか良いパーティだったな。……彼らが勇者か」

 大輝たちを見送ったあと、ゆっくりとソファの背ににもたれかかったグランは息を吐いた。

 若さゆえの強情さはみられたが、大輝たちに対してグランは将来への有望さを感じとっていたのだ。

「どことなくソータさんに似た雰囲気のある方々でしたね」

 メガネの位置を指で直しながらのミルファの言葉に、何かを思い出したのかグランは口をへの字にまげてむすっとしていた。


「ふん、確かにソータは優秀だが今のやつらのほうが素直でいいわい」

 拗ねたように吐き捨てたグランは蒼太の実力を認めてはいたが、一番最初にやりあった記憶が今でも強く残っており、どうも素直にそれを口にすることは憚られるようだった。


「ふふっ、ソータさんもマスターのことは苦手みたいですから、互いに素直になれないのかもしれませんね」

 クスクスと楽しそうに微笑んで見せたミルファの指摘にグランの機嫌は更に悪くなっていた。




 一方でギルドをあとにした大輝たちは歩きながら、どうしたものかと相談を始める。

「城を頼るというのはあまりしたくないわね……」

「そう?」

 悩ましい表情をしながらも秋の判断に、不思議そうにきょとんとしながらはるなが首を傾げた。


「城のみんな、騎士団のみんななら事情を話せば力を貸してくれそうな気もするけどなぁ」

 自分たちに良くしてくれていた彼らの顔を思い出したはるなの言葉に、眉を下げながらリズが首を横に振る。

「いえ、それは難しいでしょう。もちろん騎士団のみなさんだけで判断できることならば大丈夫かもしれませんが、今回のようなギルドが絡んだ作戦ともなれば上の判断が必要になります。更に言えば、城からは我々五人を戦力として出しているという言い分があるでしょうから……」

 自国のことであるがゆえに、リズは内情をよくわかっていた。父である王がどういう動きをとるのか大体予想がつくのだ。


「なるほど、じゃあここは僕たちで何とかするしかないのか。あとはギルドのほうでどれだけ人を集められるかだね」

「むー、なんか納得いかないなあ。うちたちは城の命令でこの作戦に参加するわけじゃないのに、城が提供した戦力みたいに思われちゃうのかあ」

 特にそれを気にした様子もなく大輝は現状を分析している。一方でぷくりと頬を膨らましたはるなは城のやり方に対する不満を口にしていた。


「仕方ない、私たちは城で鍛えられた。この装備もその間の食事も全て城で提供されたものだから、そう思われても仕方のないこと」

 膨らんだはるなの頬をぷすりと刺して空気を抜いた冬子は冷静な回答をする。


「うーん、そうだけどねえ」

 刺された頬を両手でぐにぐにと揉むはるなはそれでもどこか納得できない様子だった。

「なんにせよ、私たちだけじゃどうしようもないものだから、ギルドの集める戦力に期待しましょう」

 そんなはるなをなだめるように頭を撫でながら秋は解決することのない不満を霧散させるために、そう言ってまとめた。



 ここからの数日はトゥーラの街が騒がしくなる。

 ギルドマスターであるグランが他のギルドに連絡したことによって、そこから戦力が派遣され、更には冒険者登録をしていなかった元騎士や元傭兵なども集まっていた。


 そして一週間後、ギルドが派遣した偵察の結果が知らされることになる。

 その結果はやはり芳しいものではなく、森のとあるエリアに魔素の高まりがあり、それに伴って魔物が大量に集合していることが報告される。


 それを受けたグランが他の依頼を全て停止し、森の攻略の依頼を出す。

「この依頼はギルドからの依頼であり、参加した者全員に参加報酬を出す。そして、討伐した魔物次第で更に追加報酬を出そう。これは各戦果に合わせたものとなるが、相応の報酬を出そう。戦果の確認はギルドカードで行うこととする。登録していない者には簡易的なカードを配布するので、そちらを使ってくれ」

 今回の依頼について詳細を設定し、その依頼を受諾することで倒した魔物の数がカードに記録されていく。

 少し高い位置に立っているグランが周囲に聞こえるように声を出しており、それに合わせるようにミルファを筆頭にした職員たちがカードの処理を行っている。


「かなりの人数が集まったね」

 周囲を見渡しながらの大輝の言葉通り、ギルドのホールには収まりきらないほどの人数が集まっていた。今回の森の異変はそれだけの事態であることがわかる。

「そうね、見たことがない人ばかりだわ」

 秋はこの街に所属している冒険者の顔はほとんど覚えていたが、これだけの人数が集まったせいか全く見たことのない者が多くいた。


「あそこにいる赤いマークが入っている一団が大きなクランの人たち。……確か名前は『赤い一撃』」

 冬子は個人的に情報を仕入れており、今回集まった中で有望なメンバーについて説明していく。彼女が視線を流した先には確かに揃いの赤いマークの入った装備を身に着けている集団がいた。

「そしてリーダーが大剣を二本持っている人で、その隣にいるのがこの間の獣人国の大会で準優勝した人。名前は……ガルギスだったと思う」

 その集団の中でもひときわ目立つ二人がいた。端正な顔立ちに長い髪の男と白虎の獣人だった。

 獣人国の武闘大会で出会った二人は意気投合して、ガルギスは赤い一撃の客人という扱いを受けていたのだ。


「すごい、よくそんなすごい戦力が集まったもんだね!」

 一目見ただけで強さのわかる二人を見た大輝は素直に感動していた。

「ちなみに、その大会で優勝したのは仮面をつけた男で名前はグレイ。参加から表彰式まで一度として仮面をとることはなかったみたい」

 さらりと冬子が何気なく付け加えた一言に秋がぴくりと反応する。


「……それ怪しいわね。そいつもしかして近衛じゃないの?」

「はははっ、秋ってばいくらなんでもそれはこじつけすぎだよ。近衛が実力を隠していたからといって、そんな大会で優勝するほどの力があると思うかい?」

 じとりとした目つきでいる秋の突拍子もない予想を大輝が笑い飛ばそうとするが、それでも彼女の表情は真剣だった。


「秋ちゃん、顔怖いよー。そんなに怖い顔をしてたら、皺が消えなくなっちゃうよ?」

 眉間に皺を寄せている秋に対して、そこをほぐすように指で撫でながらはるなが茶化すように言った。

「も、もう……はるな、私は真剣なんだからね?」

「秋は近衛のことになると過剰に反応する。確かにこの世界に近衛も召喚された、それでも私たちとは別の道を選んだのだから彼のことは無視するべき」 


 そんな話をしていると、先ほど名前が出たガルギスが大輝たちのもとへ近づいて来た。

「……盛り上がっているとこ悪いな。あんたたちは冒険者か?」

「あぁ、ランクは低いけど今回の依頼に参加させてもらおうと思っている」

 気さくに話しかけてきたガルギスににっこりと答えた大輝の言葉を聞いて彼は歯を見せてにやりと笑った。


「冒険者の街って聞いて来てみたが、どいつもこいつも実力が低そうなやつばかりでがっかりしていたところだ。……だが、あんたたちはそれなり、いやかなりやるみたいだ。これなら依頼も達成できるかもしれないな」

 ガルギス自身、この依頼に対して何か嫌な予感を感じていたが、野生の勘というべきなのか大輝たちに蒼太と似た空気を感じ取っており、これならいけるかもしれないと考えていた。


「急に声をかけて悪かったな。この依頼、がんばろうぜ」

 まぶしいまでの笑顔でガルギスはそれだけ言うと、ひらりと身をひるがえして再び赤い一撃のもとへ戻って行った。

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