第三百四十六話
「しかし、それほどの魔物たちがどうして一か所に集まっていたというんじゃ?」
蒼太について話している大輝たちをよそに、グランはオークキングまでもが現れた理由についてミルファと話し合っている。
「前にソータさんが言っていたように魔素が濃いというのが関係しているんでしょうか?」
顎に手をやっているミルファの言葉に、ぴくりと秋が反応する。
「私たちがオークたちと出くわした場所は、普通の森と変わらない場所で特に魔素が濃いといったことはありませんでした」
さらりと秋が答えたそれを聞いて、予想と違うのかとグランとミルファは再び難しい顔をする。
「あ、あのー、これは予想になるんですが」
遠慮がちに手をあげた大輝はあくまでこれは予想であると前提をおく。
「ふむ、言ってくれ」
それでも何かしらヒントになればとグランは彼の言葉を聞こうとする。
「魔素が濃いというエリア、そこから魔物が移動したのではないでしょうか?」
大輝が言ったのは誰もが思いつく当たり前のことであり、それを聞いたグランは拍子抜けして背もたれに身体を預ける。
「そりゃそうじゃろ。魔素の多いところにいたやつが、移動する。そんなのは当たり前のことだ」
しかし、大輝の話はここで終わらなかった。
「……もしかして、魔素が濃い場所、危ないんじゃないですかね?」
「当たり前じゃろうが!」
またしても当然のことを口にした大輝に対してグランは苛立ちを見せる。そのせいかギルドマスターとしての彼から普段の怒りっぽいところが少し顔を出していた。
「大輝、言葉が足らないわよ。つまり、そのオークたちが魔素の濃いエリアから移動してきたというは、そのエリアの魔物の数が飽和していてとても危険な状態にあるのではないか? ということです。もっとわかりやすく言うと、魔素の濃いエリアには私たちが倒した魔物の比ではないくらいの数の魔物がいるんじゃないか? 大輝はそう言いたいんです」
呆れ交じりの秋の補足にそれが言いたかったといわんばかりに大輝はうんうんと頷いている。
「……なるほどな。さっきは怒鳴ってすまんかった。確かに、目先のオークにとらわれておるとそいつらが元々いた場所の危険性を見落としてしまいそうじゃな」
グランは大輝に謝罪をしながら、冷静さを取り戻し、現状を整理していく。
「しかし、それならば困りましたね」
ミルファの言葉だったが、その意味を理解している秋はぐっと頷いて返した。
「私たちが倒したオーク、それ以上の魔物たちがそこにいるということです。それを私たちだけで倒すのはなかなか厳しいです」
彼我戦力を考えての判断を秋が口にする。驕らずに自分たちの実力を過不足なくはかれる彼女だからこその答えだった。
「幸い、一部の魔物が他のエリアに移動するだけで済んでいるのが現状です。であるならば、他の魔物たちが出てくる前にギルド側も人数をそろえるべきではないでしょうか?」
大輝は言葉が足りないと先程叱られたばかりであるため、今度は言葉を選んで発言した。
「しかし、今この街を拠点としている冒険者でランクの高い者や実力の高い者は離れておるからのう」
「とりあえず現状いる方たちには街で待機してもらうよう声をかけておきましょう」
早く動くに越したことはないと、ミルファは下にいる職員たちにその旨を伝えにいく。
「あの、他の冒険者ギルドに頼るというのは難しいですか? この街を拠点にしている方が少ないのであれば、よそから戦力を借りてくるしかないと思うのですが……」
状況を考えれば大輝の案を採用するしかないが、そう簡単にもいかないようでグランは眉間に皺を寄せている。
「ううむ、一体どれだけの戦力を派遣してくれるか……」
「他にも現役を引退した冒険者や、どこかの騎士団に所属していた者にも声をかけるといい」
淡々と告げる冬子のその案は引退したグランが動くと言っていたことから思いついたものだった。
「うーん、お城の人たちに頼めないかなあ?」
たわわな胸を支えるように腕組みしたはるなは前に座るリズに向かって問いかける。
「頼んでみてもいいですが、あまり良い顔はされないかもしれませんね。外のことを私たちに任せて城の守りを固めたいというのが本音でしょうから」
我が父ながら情けない、それがリズの思いだった。保守的な考えに拘る父親とは表沙汰にしないだけでリズの内心では対立しているところもあるのだろう。
「騎士団のほうは仕方あるまい。国ごとに方針もあるだろうからな……。しかし先ほどの引退した者たちという案には乗らせてもらおう。わしのほうのツテも使って声をかけていく、もちろん他のギルドにも相談を持ち掛けてみる」
このまま大ごとになるのを待つというわけにもいかないので、グランは若い彼らの案を採用することにした。
「問題はもう一つある。大輝が言ったのはあくまで予想。それを裏付けられるだけの情報が必要になる。ここの冒険者たちに待機してもらうのはオークのこともあるから念のためでいいと思うけど、それ以上に声をかける範囲を広げるなら、まずは状況を確認しないと」
冷静に話す冬子の考えは最もなものだった。他国から戦力を借りてきて、それで何もありませんでしたでは困るのはギルド側になってしまう。力を借りるにしてもどれだけ必要なのか聞かれるだろうことは予想できた。
「むむむ、その通りじゃ。しかし、偵察に行けるような冒険者がいるかどうか……」
そう言いながら思わせぶりにチラリと大輝たちのことを見るが、申し訳なさそうに大輝は首を横に振る。
「正直、僕たちは偵察向きではないと思います。火力を持って敵を潰すのには向いていると思いますが、そういう細かいことはちょっと……」
苦笑交じりの大輝の意見に他の面々も同意しているらしく困ったような表情で頷いている。
「ふむ、そうそううまくはいかんか。あい、わかった。偵察に関してはわしのほうでなんとかしよう。だが、動くとなったらお主たちにはぜひ参加してもらいたい。オークキングを倒す腕前を持つものたちを遊ばせておきたくはないからな」
ここまで話を進めていくうちに、グランは自然と大輝たちの実力を信じさせられていた。これだけ状況をわかる者たちであれば、嘘をつくこともないだろうと考えたがゆえだった。
「もちろんです。僕たちの方でも何か戦略はないか相談してみます」
「うむ、期待しておるぞ」
ぐっと力強く二人は握手を交わし、挨拶をして大輝たちは部屋をあとにする。
そのままギルドを出たところで大輝は振り返ってがばっと頭を下げる。
「なんか勝手に決めちゃってごめん!」
その様子に四人は驚いた。街にいる人も何ごとだと一瞬振り返るが、揉め事ではなさそうな雰囲気にすぐ気に留めるものはいなくなった。
「うーん、いつものだいくんだったから別にいいんじゃないかなあ」
「むしろこの状況で見捨てるわけにもいかないわ」
人差し指を顎のあたりに当てて首を傾げているはるなは元々反対する気はなく、きりっとした表情で見ている秋にいたってはたとえあそこで大輝が断っても自分だけは力を貸すつもりだった。
「大輝一人じゃ不安」
「が、がんばりましょう!」
相変わらず表情筋が仕事していない冬子は思ったことをぽつりと口にして、おろおろとしていたリズはなぜ謝られたのかわかっておらず、ぐっと拳を胸元で作るとなんとかそれだけを口にした。
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。
再召喚された勇者は一般人として生きていく? 発売中です。




