第三百四十三話
彼らの目の前に残ったのはジェネラルオーク三体、オークキング一体。仲間をやられたことでギラギラとした目つきで鼻息荒く辺りを警戒している。
「みんな、ジェネラルオークを頼めるかい?」
一人でオークキングを相手にするという大輝の言葉にリズを抜かした三人は頷く。
「ダ、ダイキ様!」
リズは一人戸惑いながらそんな危険なことを、そう大輝に言おうとしたが、はるなと秋に肩に手を置かれて止められる。振り返ったリズにはるなと秋は緩く首を振った。
「だいくんも、うちたちもこれくらいやれないと今後やっていけないよ」
「そういうことね」
二人の発言を肯定するように冬子も無言で頷いていた。
「リズ、それが勇者なんだよ。君が召喚したんだから、もう少し僕のことを信じてくれ」
大輝は既に剣を構え、動き出す準備ができていた。その横顔は普段の優しいものではなく、一人の勇者としての凛々しいものだった。
「ダイキ様……わかりました、早くジェネラルオークを倒してダイキ様のもとへむかえるようにがんばりましょう!」
その表情にごくりとつばを飲み込んだリズの決断にみなが笑顔になる。誰もがこの戦いを勝利で終えると信じている。
「さて、それじゃいくよ! うおおおおおおおぉ!!」
先陣を切る大輝は声をあげながらオークキングへと一直線に向かって行く。
すると、ジェネラルオークが大輝を迎え撃とうとオークキングとの間に入り込んでくる。ボスを守るために部下が出てくるのは以前のフォレストウルフ戦と変わりないようだった。
「邪魔を、するな! フラッシュ!」
目くらまし用のフラッシュの魔法を使い、オークたちの目をくらませる。
だがレベルの高いジェネラルオークに大きな隙を作らせることはできないものの、大輝が横をすり抜けてオークキングのもとへ向かうくらいの時間は作れた。その一瞬さえあればいいと思っていた大輝は躊躇うことなく真っすぐオークキングへと向かって行く。
「さて、お前の相手は僕だ!」
再度剣を構え直してオークキングに向かって宣戦布告をした。ジェネラルオークたちはすぐに自分たちの王を守ろうと動こうとする。
「させない、ファイアアロー!」
自分たちにすっかり背を向けたジェネラルオークに向かい、冬子は三つの炎の矢を生み出して放った。大輝が注意を引き寄せているおかげで狙いを定め、魔力を練る時間もあったため、威力は十分だった。
「そうそう、あなたたちはうちたちが相手するよっと!」
その矢を追いかけるように三体いるうちの一体の頭部へはるなのメイスによる一撃が繰り出される。強く振りかぶったその攻撃は愛らしいはるなの顔立ちに似合わず、ジェネラルオークの頭部に深く叩き込まれていく。
「隙だらけよ!」
はるなと同時に飛び出した秋は彼女とは別の個体の足に斬りつけた。ジェネラルオークの巨体が痛みでぐらりとふらつく。
「わ、私だって!」
勇者たちに置いて行かれまいと意気込んだリズも同様に三体目のオークの足に斬りつける。秋ほどの威力はないにしても何かが当たった感覚を与え、ジェネラルオークの意識を大輝から逸らすことに成功していた。
「こんな雑魚に構ってられないからさっさとやるわよ!」
味方を鼓舞するような秋の提案に、はるなはにっこりと笑い、冬子もぐっと頷いた。
「わ、私は」
強敵相手に一人慌てるリズだったが、既に戦いは動いていた。
ジェネラルオークたちが彼女たちを視界に捉え、反撃をしようと大きくその片手剣を振りかざしているのがリズの目の前に迫る。
「リズ避けて! 冬子!」
まずいと思った瞬間に出された秋の指示を冬子は理解しており、すぐに魔法を放ってジェネラルオークの攻撃を阻止しようとする。
「フリーズアロー!」
今度は氷の矢を放ち、ジェネラルオークの腕を一瞬で凍りつかせた。突然自分の腕が冷たく凍ったことに驚いたジェネラルオークのその隙を狙ってはるなが飛びかかる。
「くらえええええええええええ!」
大きな声とともに凍り付いた腕にはるなのメイスが強く振り下ろされる。
「グアアアアアア!」
ガラスを床に強く叩きつけたような音と共に腕を破壊されたジェネラルオークはのけ反り、たたらを踏む。あまりの痛さに反撃をすることすらできずにいる。
「とどめよ!」
すぐさま秋がジェネラルオークの首を両断し、遠くへ吹き飛ばしたところで一体は絶命し、大きな音と共に倒れる。連携のとれた攻撃に残りの二体の警戒が強まる。
「あと二体」
流れるような動きであっという間に一体を倒した三人の視線は既に残りの二体に向いていた。
「は、早い!」
息の合った三人の攻撃にリズは圧倒されているようだった。少し前まで戦う術を知らなかったはずの異世界から来た彼らがランクの高い魔物相手にここまで動けていることに驚きを隠せなかった。
「私もがんばらないと……」
そう呟くと、とにかく戦わなければという一心でリズは残されたうちの一体に向かって行く。体勢の整っている一体は向かってくるリズへと拳を振り下ろすが、ちゃんと相手の行動を見てそれを予想していたリズは素早い動きで避けて、先ほどと同じように足に斬りつける。
最初の一撃は傷が浅かったため、ジェネラルオークも気に留めなかったが今度の攻撃は同じ場所に繰り出されており、その傷を深くすることに成功する。深く切り込まれた傷口からは体液が流れ出している。
「ガ、ガアア」
「フレアランス!」
痛みに片膝をついたジェネラルオークに追い打ちをかけるように冬子の魔法が降りかかる。槍の形をした炎はオークを背中から串刺しにした。
「ブアアアアアア!」
炎の槍に身を貫かれたことで聞いたことのない声をあげるオークの首に硬い表情をしたリズは勢いよく斬りかかり、そのまま絶命させる。こと切れたオークは目から光をなくして砂煙をあげながら地面に倒れた。
「ふうふう、はあ……」
自身の手で魔物を倒したことを確認すると、緊張が途切れたのかリズは乱れている自分の呼吸に気付いて一度深呼吸をした。一気に心臓が激しく脈打つのを感じ、血が指先まで通っていく温かさを感じた。
「リズ、よくやった」
「あ、ありがとうございます!」
冬子がぐっと親指をたててリズを称賛する。シンプルな一言だったが、リズは自分がやっと認められたような気がして嬉しかった。
「でも喜ぶのはあとで、まだ戦いは続いてる」
すっとそらされた冬子の視線の先をリズが見ると、秋とはるなの攻撃が同時にジェネラルオークに決まり、ちょうど倒したところだった。自分たちの戦いは終わったのでは? と首を傾げたリズは冬子が何を指しているのだろうかともう一度彼女に視線を戻した。
「違う、その先。大輝のほうを見て」
言われるままに冬子が指し示す方へ視線を向けると、苦しげな表情の大輝がオークキングと対峙していた。
「てええええい!」
大輝が上段から斬り下ろす、しかしそれはオークキングの持つ槍によって防がれてしまう。悔しさに大輝の表情が歪んでいるのが見えた。
「ブフフフフ」
オークキングはいやらしい笑みを浮かべながらその攻撃を受けている。実力に差があり、余裕がある様子だった。体格差も相まってまるで子供と大人が戦っているかのようにさえ見える。
「まずい、あれは強い。リズいこう!」
オークキングの強さを改めて感じとった冬子が慌てて動く。既にはるなと秋は大輝の救援に向かっていた。
「はい!」
自信を持つことができたリズもあとに続く。戦うたびに成長するのを彼女自身実感するが、それも彼らがいてこそのことだと強く思った。
「みんな! こいつ、強いよ!」
様々な強者と戦ってきた大輝が、額に汗を浮かべながら強いと断ずる。その言葉には重みがあった。
「わかってるわよ!」
加勢した秋の攻撃も軽々とオークキングに避けられていた。うまく攻撃が決まらないことにいら立ちが募るのか語気が荒い。
「フレア、レイン!」
冬子が放ったのは空から降り注ぐ炎の雨だった。これは避ける余裕のない、面での攻撃であり、降り注ぐ炎がオークキングの皮膚を焼いていく。
「ブオオオオオオ」
これはオークキングもたまらないとばかりに声をあげ、やみくもに手で振り払おうとしていた。
空からの攻撃に注意が向き、大輝たちから視線がそれる。その隙を逃す大輝たちではなかった。
「くらえ、魔を断つ剣!」
魔族ではないが、魔物としてランクの高いオークキングにはこのユニークスキルを発動させることで与えるダメージ量を増やすことができる。振りかぶった大輝の剣が淡い光に包まれた。
「魔剣創造! 雷の剣!」
秋も同じくユニークスキルを使い、生み出した雷の剣でオークに斬りつける。この剣は切り口から雷の魔力を伝導させ、内から身を焼いていく。
「「くらええええええええええ」」
二人の声が重なり、攻撃を避けられずにいるオークキングに同時に攻撃が放たれる。
「ブアアアアアアオオオオオオオ!」
強力な攻撃を一身に受け、森に響き渡るほどの断末魔の声をあげると、オークキングは支えを失った巨体を揺らしたのち、その場に倒れた。
「ふう、障壁解除っと。みんなお疲れ様」
降り注ぐ炎の雨が大輝と秋にかからないように、二人の上にはるなは障壁を張り続けていた。
戦いを終えたメンバーが互いを見合っていると、はるなの胸に隠れていた森ウサギがぴょこんと顔を出したことで緊張から解放された彼らには笑顔が戻っていた。
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