第三百二十五話
前回のあらすじを三行で
すさまじい威力
ダグラス再登場
選択肢
「いや、その、えっと」
ダグラスは蒼太に突き付けられた二択にしどろもどろになっている。
「すまん、こいつの分も俺が罰を受けるから許してやってくれ」
本郷は困惑するダグラスの前に立つ形で彼を庇った。
「そんな! エルダード様!」
自分の罪を被ると言った本郷にダグラスは驚いて声をあげる。自分が勝手に逃げ出したというのにそれでも庇ってくれる本郷にダグラスの胸は熱くなる。
「あー、まあそれでもいいけどな。どうせそいつはアトラたちと戦っただけで、俺や知り合いに大きな迷惑をかけたわけではないしな」
ついでに言っただけだったため、そこまでダグラスにこだわりのない蒼太はそう答える。
「い、いや、私が罰を受けます!」
崇拝する本郷が身代わりとなりそうな事態にダグラスは慌てて蒼太にそう言った。
「どっちでもいいし、これってのも浮かばないからなあ……まあ、あれだ。こいつらと一緒に小人族に謝ればいいさ」
「わかりました!」
敬礼するかのような勢いでうなずいた彼自身は小人族の集落に攻め込んだことはなかった。だが襲撃の話を黙って聞いていたため、それを止めなかったのは自分の罪だと理解していた。
「あと、そいつエルなんとかじゃなく、本郷な」
蒼太が指をさして本郷の名前を訂正した。
「わかりました!」
先ほどと同じようにはっきりと返事をしたダグラスは、自分に染み込ませるようにぶつぶつと本郷の名前を繰り返していた。
「すまんな、こいつは普通に貴族の出なんだが、なぜか俺を慕って直属の部隊に入ったやつなんだ」
貴族のお坊ちゃんがどこか他の騎士と毛色の違う本郷に憧れたというよく聞くパターンだった。
「まあ、いいさ。それよりもさっさと族長のところへと向かうぞ。本郷も一緒に謝罪な、さっきのディーナが与えた罰だと軽すぎる」
蒼太の声掛けに本郷は緊張した面持ちで頷いた。彼自身も長年かけて作った塔が破壊されたことで気持ちに踏ん切りがついて、より謝罪に前向きになったようだ。
「もちろんだ」
シンプルな返答だったが、彼の決意は強いものだった。
「イシュドラ頼む」
『了解したのう。お主は自分で飛ぶとよいのう』
元の姿になって蒼太たちを背中に迎え入れるが、同じ古龍種のブラオードには自力でついてくるよう言う。
『そうだな、お前の背中に乗るのは少々気味が悪い』
馬の合わない二人はバチバチと視線がぶつかり合うが、さっさとしろという蒼太の気配を感じ取って飛行体勢に入った。
一気にはるか上空へと飛び立った彼らは超高高度を飛んでいくため、地上から発見されることなく一行は小人族の集落へと向かう。
最初に見つけた集落で族長の情報を集め、次の集落でも情報だけで、三つ目の集落でやっと族長を見つけることができた。
そして、いま小人族に囲まれて族長の前で本郷たちは全員正座している。
どういった経緯でここまで来たのかは蒼太が事前に説明をしており、それは周囲の小人族も聞いていた。
「ふむ、それで我々に謝罪をしに来たというわけですな」
その言葉は小人族の族長ザムズのものであった。この千年の間、一族は定住することができず、各地に散らばることになった。それもこれも本郷が小人族を自分の目的のために狙ったことがすべての原因だった。
長老グレゴールマーヴィンの対応が早かったため、全滅することなく今日まで生き抜いた彼ら。しかし、今までに仲間や大事な家族、恋人を失った者も少なからずいたため、当然彼らの怒りは強い。それは怒りという言葉すら生ぬるいほどに。
「どう謝っても足りないくらいのことを私はしでかしてしまった。申し訳なかった……」
本郷は土下座して謝罪の言葉を述べる。それに本郷の仲間たちも続いた。しかし、小人族からはなんの反応もない。どんな顔をしているのか、なぜ反応がないのか確認のために顔をあげたい気持ちもあったが、それでも彼らは小人族への謝罪の気持ちを込めて頭を下げ続ける。
小人族はといえば、彼らの処遇に困っていた。いきなり彼らが現れ、自分たちが全ての原因だといい、頭を下げて謝罪に来た。
この千年間苦しめられたのは事実ではあったが、本郷の事情を知ってしまうと責めづらい気持ちも沸いてきていた。
「どうしたものか……」
面倒なことになったものだと族長は困ったような表情で蒼太に視線を送る。
「そうだな、お前たちの気持ちを汲んだうえで適当な裁定を俺が下すことはできる。しかし、それで納得できるのか?」
蒼太の問いはザムズにだけ向けたものではなく、周囲にいる小人族、ひいては他の場所にいる小人族も含めたうえでの質問だった。族長が下した判断に従うものは多いだろうが、それでも納得できない者もいるだろうという蒼太の気遣いがあった。
「これから言う言葉が一族の総意というのは難しいですが、少なくともこの場にいる者の多くは彼らの事情にも同情する部分があるとは思っています。だからといって我々にしたことが許されるわけではありませんが……それゆえに、どう答えるのが、何をしてもらうのが正解なのか判断を下せませんじゃ」
ザムズの言葉に多くの小人族が頷いていた。基本的に彼らは心優しい種族であり、誰かに強い敵意を向け続けるのは本来得意ではなかった。
「ただ恨みのためだけにこいつらに罪の償わせたとしても、多少気が晴れる程度にしかならない。だったら、小人族が前向きに生きていけるための協力をさせるのが一番なんじゃないか? もちろん故人のことは偲ばれるべきだし、忘れろとも言わない。なかったことにもできないだろうさ。だから、これから一族が全員寄り添って共に暮らすための協力をこいつらにさせるんだ」
蒼太の言葉に本郷たちは顔をあげ、驚きと困惑の表情で彼のことを見ていた。
「それはどういう?」
具体的な内容を口にしたわけではないため、ザムズが質問を投げかける。
「あくまで一例になるが、俺の案はこうだ。まず、一族が全員住める場所を探す。もちろんこいつらがな」
その言葉に本郷はもちろんだと大きく頷く。彼らにしてきた償いができるのであればと思っていた彼の本心からの頷きだった。
「それから……その場所の整地、必要な建物の建設、水路などの整備、他の街と繋がる道の整備、一族がしばらくゆっくりと暮らせるための資金と食料の準備」
次々に出てくる蒼太の提案に本郷たちは徐々に顔色が青ざめていった。出来る事ならなんでもするつもりであったが、予想以上の規模になりそうだったからだ。
「ちょ、ちょっと待って下され。ソータ殿、そ、そんなにですかの?」
ザムズは慌てて言葉を止めるが、蒼太はなぜそんなことを? と首を傾げるだけだった。
「これくらい普通じゃないのか?」
蒼太が考えた普通は他の面々にとっては普通のことではないようだった。場所を確保してもらえるくらいだろうと小人族たちは思っていたようだ。
「い、いや、さすがにそれは……」
ザムズが遠慮するようにそう言うため、蒼太は本郷に向き直る。
「できるだろ?」
その言葉にはノーとは言わせない圧力があった。
「や、やります。いや、やらせて下さい」
ここで頷かないわけにはいかないと本郷がザムズに向かって出した答えは蒼太を満足させるものだった。
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