第三百二十二話
前回のあらすじを三行で
全員エルダードについていく
各人の処遇
本郷をどうするか、ディーナに任せる
「そう、だな。俺はお前の兄の命を奪った。お前の判断に従おう」
答える本郷に仲間たちは声をかけようとするが、何も言えずにいた。
「……私の兄はとても優しい人でした。仲間に対しても優しく、私にも優しく自慢の兄でした」
そっと目を閉じて兄のソルディアに思いを馳せながらのディーナの言葉をみんな黙って聞いている。
「そんな兄の死はとても悲しいことです。そして、私はスキルの関係でその瞬間を見てしまいました」
本郷は自らの手でソルディアの命を奪った時のことを思い出して苦い顔をする。あの時は己の感情に囚われて行動を起こしたが、自分の家族が目の前で殺されるところを見てしまったら、その犯人を目の前にしてこんなに冷静でいられただろうかと思えば、ディーナから目をそらすことはできなかった。
「でも、兄は復讐なんて望んでいないと思います。今回あなたがたと戦ったのも真実を知りたかったというのが一番の理由です」
そう言ったディーナの表情は悲しそうだったが、笑っていた。
「しかし!」
それでは自分の気が済まない、と言おうとしたがそれは傲慢な言葉であると思い、本郷はそれを口にすることをやめる。
「ただ、他のみなさんは何らかの罰則を受けているのにリーダーのあなたが何もないというのはあまりよろしくないと思います。ですから、一つだけ罰を与えることにします。あなたは今後エルダードという名前を名乗るのを禁止にしましょう。ソータさんと同じ、母国の名前を使って下さい」
「そんな! ぐっ、わかった……その言葉に甘えることにしよう」
今の名前を捨てる。それは帝国から出るためには考えうる選択肢であり、罰則といえるようなものではなかった。しかし、それを選んだディーナの言葉を本郷は受けることにした。
「まあ、ディーナがそれでいいと言うんだったら俺も別に反論する気はないさ。さっきこいつらに言ったのは全てやってもらうけどな」
自分たちもなんとか許してもらえないか。そんな甘い考えもチラホラ頭をよぎっていた者もおり、びくりと身体を震わせていた。
「そういえば、もう一人いなかったか? 俺たちを城で案内してくれて、ここでも案内してくれたやつ、名前は……」
「ダグラスさんのことですか?」
ディーナは名前を憶えておりそれを口にすると、ブルグが顔を手で覆った。
「そういえば忘れてた。あいつどこに行ったんだ?」
ブルグが目を覚ましたあと首輪の説明をするとダグラスはいつの間にか姿を消していた。そのため彼は一人でこの場にやってきていた。
「……まあ、いいか。まずはお前たちにはさっきいった罰をうけてもらうところからだな、さっそく小人族の族長のとこに向かおう」
蒼太の言葉に全員頷いた。
「っと、その前に……」
立ち上がったブルグの元へと蒼太は近づく。
「な、なんだよ」
それに身構えるが抵抗はしないようにしていた。
「動くな……これで、よし」
カチンと金属音がすると、ブルグの首から首輪が零れ落ちた。
「お、え? とってくれるのか?」
逃げないように、抵抗しないように首輪をつけられたと思っていたブルグは蒼太の対応を意外に思っていた。
「あぁ、別にただの首輪だからな」
『なんと!』
アトラはダグラスに説明する時に外し方を間違えたら爆発すると言っていた。蒼太から聞かされていた言葉をそのまま口にしていたため、その事実が覆されたことに驚いていた。
「敵を騙すにはまず味方からっていうだろ? いや、言わないのか。俺の国ではそう言うんだ。真実を教えていた場合、アトラには演技をしてもらうことになるわけだが、それを怪しく思われる可能性もあったわけだ」
蒼太の言葉に納得するものはあったが、それでも真実を伝えられなかったことにアトラは不満そうな表情になる。
「一応補足させてもらうが、彼がいった言葉は俺たちの国ではよく使われる言葉だ。俺たちの常識でそうした彼の落ち度はもちろんあるが、それでもこいつらが騙されたわけだから実に効果的だったとは思う」
敵である本郷の言葉に納得したわけではないが、複数人がこの意見を持つということはもしかしたら自分の頭が固いのではないかと考え、アトラは黙ることにする。
「それじゃ今度こそ移動しよう。イシュドラの背中に乗っていけばいいか」
「?」
蒼太の言葉に首を傾げていたのはレイラだった。
「いしゅどら?」
「あー、そういえば名前を付けた時にはいなかったか」
アトラも同様にイシュドラを命名した時にはいなかったが、彼は予想がついているらしく涼しい顔をしていた。
「イシュドラというのはこいつ、古龍の名前だ。別れる時に俺が名前をつけたんだ」
蒼太の発言にレイラは驚き、イシュドラに視線を送った。
「いしゅどら、いしゅどら、イシュドラかあ……うん、似合ってる!」
彼女のなかで何かの折り合いがついたのか、笑顔になりイシュドラに自分の感想を伝えた。
『うむむ、そう面と向かって言われると照れるのう。ソータがつけた名前でのう、我も気に入っている』
嬉しそうなイシュドラの返事には蒼太も満足していた。
「ということだ……他には何かあるか?」
蒼太の確認に全員が首を横にふったため、塔の外へと向かうことにする。
「そういえば、これ空を飛ぶとか言っていたがこれまだ必要なのか?」
蒼太の質問に本郷はしばし考えたのちに答える。
「いや、竜人族のいるところに向かうために作ったが……今の俺には無用の長物だな」
どこか寂し気に言った本郷にナルルースとフレアフルが寄り添う。
「そうか、わかった」
何がわかったなのか。それは蒼太と他の面々で差異があることに誰も気づいていなかった。
一行は、イシュドラたちが戦ったフロア、レイラが戦ったフロア、アトラたちが戦ったフロアを抜けて塔の外に出た。
「やっと外に出られたな」
そう言うと蒼太は塔を振り返った。ふわりと風がそれぞれの髪をなびかせ、ここが外であることを象徴していた。
「それじゃあ、後始末としゃれこむか」
その言葉が何を意味するのか、誰もわかっていなかった。蒼太以外には……。
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