第三百二十一話
前回のあらすじを三行で
エルダードこと本郷の目覚め
憑き物が落ちた本郷
彼らの今後の道
「私はエルダード様についていきます」
「あたいも! あたいもだよー!」
ナルルースが最初に発言し、慌ててフレアフルも続いた。
「ふむ、こやつらだけついて行かせたらエルダード様に迷惑かけそうだな。監督役として私もついていこう」
そう言ったボーガは半分は本気で、もう半分は彼についていきたいという自分の望みからの言葉だった。
「僕はどうしようかなあ……」
ブルグは決めかねているような口ぶりだったが、素直に自分も行くと言えないだけだった。
『本当は行きたいのであろう? ならば、そのような強がりはやめることだな』
「うぐっ」
ブラオードの言葉は図星をついており、ブルグの心に突き刺さったようで思わず妙な声を出してしまう。
「……僕も、ついてくよ」
観念した彼はフードを深く被り直すそぶりをしたが、隙間から見えた顔は恥ずかしさからか赤くなっていた。
『ふむ、だったら私もついていこう……ここに残ってもやることはないしな』
ブルグに注意したブラオードだったが、自分自身が付け足した言葉も言い訳じみたものであることに気付き、言ったあとに顔をそらしていた。
「お前ら……すまんないな、あてのない旅に付き合わせることになって」
本郷は頭を下げるが、いつも自信満々な様子の彼を知っているナルルースたちは意外なものを見たことに驚いていた。
「盛り上がってるところ悪いが……そのまま旅立てると思うなよ?」
蒼太の突っ込みに本郷たちは口をあけて驚く。
「おいおい、その顔はなんだ。お前たちは俺たちとの戦いで負けたんだ、全戦全敗だからな?」
全員が負けた時のことを思い出して苦い表情になる。
「まずお前、フードのお前だ」
蒼太に指差されびくりと身体を震わせる。
彼は自分が手も足も出ない本郷に勝った相手に指さされ、一体何を言われるのかと気が気ではなかった。
「お前は魔物を操れる能力で間違いないな?」
鑑定すればたやすいことだったが、この場にいる全員にわかるようにあえて本人に答えさせる。
「そ、そうだ。僕の能力は魔物たちを使役して僕のいう事を聞かせるものだ」
「ということは、小人族の村を襲ったのは主にお前ということでいいか?」
蒼太は畳みかけるように質問する。
「それは俺が!」
本郷は自分が命令したことだと言おうとするが、蒼太に強い視線を送られて黙ることになる。
「今俺が質問しているのは、こいつだ。あんたじゃない。それでどうなんだ?」
「そ、そうだよ。一人で動かせる数が多い僕が小人族の村の襲撃を行っていた」
その言葉に強く反応したのはアトラだった。殺気を放ち、ブルグのことを睨み付けている。
「じゃあ、お前小人族の族長のところに連れていくから謝れよ。その後、お前のことをどうするかは小人族が決めればいい。旅に出るのはそのあとだな」
ブルグは何かを言おうと息を飲んだが、襲撃を自分自身楽しんでやっていたこともあったと思い出し、何も言わず素直にこくりと頷いた。
「次、そっちの鎧のやつ。お前もあの場所にいたってことは、小人族の襲撃に加わっていたな?」
「……そうだ。毎回ではないが、私もブルグに同行していた」
ボーガも覚悟を決めているらしく、素直にそれを認める。
「じゃあ、お前もそいつと一緒に謝罪な」
ボーガも何も言わずにその言葉に対して頷いた。
「次、そっちのダークエルフ。お前は長距離の攻撃で邪魔をしたな、まあそれはどうでもいいんだが……闇の精霊の使い方が下手すぎる。あんな使い方をしていたら、自分自身の身を滅ぼすし、何より精霊の負担も大きい。精霊に乗っ取られて暴走させられてると思っているかもしれないが、乗っ取らせて暴走させてるのはお前だからな」
「そ、そんな……まさか……」
蒼太の言葉にナルルースは衝撃を受けていた。あれ以上の使い方があるとは思ってもいなかったようだ。
「というわけで、お前はディーナに精霊魔法の使い方を教われ。それがお前の罰だ……念のため言っておくが反抗的な態度は厳禁だからな」
「ぐっ、わかりました」
彼女も自分の立場を理解しており、そして自分の実力不足を指摘されたため、大人しく頷くしかなかった。
次に蒼太はブラオードに視線を送った。
「そっちの黒い古龍。お前はこいつらが間違った道にいかないように監視役な。もし見逃そうとしたら、お前から魔石を引っこ抜いて素材もあわせて売り払うからな」
まさか冗談を言っているのだろう? とイシュドラの顔を見るが、首を横に振られたことで本気だと悟る。
『しょ、承知した。まさか私が人族に脅される時が来るとは……』
『言っておくが、そいつは我よりはるかに強いからのう』
イシュドラの言葉に嘘がないことを感じ取り、見逃した時のことを思うとブラオードは恐怖にごくりと唾を飲んだ。
「そして、お前……本郷。お前は俺のかつての仲間たちを殺した」
蒼太の言葉は冷たく、本郷を貫くような強い目つきで見ていた。今までよく抑えていたと思えるほど強い感情を露わにしている。仲間想いの彼だからこそのものだろう。
「お前が殺したのは俺の師匠であり、俺の友であり、俺の戦友だった。そして、ディーナの兄だった。わかってるよな? お前フランシールの兄貴、デルバートに転生していたんだからな」
蒼太の言葉は全て本郷の胸に刺さっていた。自分の目的のためとはいえ、冷静になった今では自分の仲間が同じような目にあったら……と考える余裕さえあり、蒼太の気持ちが痛いほど伝わってきた。
「どんな目的があったとしても、そのことは許せないことだ」
「で、でも、エルダード様も苦しんだんです」
ナルルースが本郷をかばおうとするが、蒼太に鋭く一睨みされすぐに口をつぐんだ。
「どんな理由があったとしても、俺の仲間を殺したことは許されないことだ。お前たちだって本郷が殺されたとして、理由があれば許せるなんて思えないだろ?」
その言葉に反論できるものはいなかった。皆同じように仲間を傷つけられたらと考えたらきっと許せないと思ったからだ。
「俺にこれだけ言われたわけだが……お前はどう償ってくれる?」
蒼太はその答えを本郷自身に尋ねた。
「……今更何をしても許されないだろうし、償いにもならないだろうな。命をもって償えるものでもない、んだろうな」
本郷は身体から力が抜けており、言葉にも力はなかった。
「答えが出せないなら、どうするかディーナに決めてもらおう」
彼女の兄を奪った張本人、そして彼女はその場をペアコネクトで目にしていた。だから、彼の処遇はディーナに託すのが一番だろうと蒼太は考えていた。
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




