第三百十九話
前回のあらすじを三行で
身体が透けてる本郷
話を聞く本郷
蒼太は化け物……
『これでわかったかい? 蒼太君を敵に回したのが失敗だったってことが』
蒼太の強さの理由を理解した本郷は言葉が出なかった。
『ふむ、それで話を戻そうか。彼は二度目の召喚だから二つ目のユニークスキルを持っているんだ。その名前が魂斬る剣というものなんだよ』
その名前を聞いて本郷は驚いていた。そのスキル名通りであるならば自分の魂はあの最後の一撃時に斬られてしまったのだろうかと思ったのだ。
『安心してくれていいよ。このスキルの名前はとりあえずつけたものだから、名通り本当に魂を斬ってしまうものではないんだよ。このスキルの力は魂に紐づくユニークスキルを斬り、その力を発動できなくするものなんだ。だから、君がさっき驚いたように転生スキルが君のステータス欄から消えたんだ』
女神は楽しそうに言うが、ある意味での永遠の生を失った本郷は沈痛な面持ちだった。
「つまり、俺はもう二度と転生をすることはできず、このまま死を迎えるだけということか」
部下を残し、自分の野望も途中で潰えて、当たり前のようにあった自分のユニークスキルが消えてしまった。その現状にただ単純に肩を落としていた。
『ん? 何か勘違いしていないかい? 蒼太君は誰も殺していないよ? 彼がユニークスキルを使って斬ったのはあくまで君のユニークスキルさ。あー、でも剣が当たった部分は切れてるかもしれないか……まあ、大丈夫だと思うよ?』
女神の言葉には根拠がないように聞こえたが、それでも彼女は自信があるようだった。
「それはどういう」
ことなのか? そう聞きたかったがふと思い直し、別の質問をすることにする。この機会を逃せばそう簡単には彼女に話を聞けないと思ったのだ。
「いや、それよりも聞きたいことがある。こう言ってはなんだが、この世界に来て何度も転生をしたが俺は不幸なことが多かったと思う……それはお前が仕組んだことなのか?」
女神は本郷の言葉を受けて、しばらく考え込む。
『……確かにそうだね。言われてみれば確かに君は不幸だった……君がこの世界に転生した時に僕が急がせるように転生させたのを覚えているかい?』
自分の質問に答えない女神に苛立ちつつも本郷は頷いた。
「あぁ、覚えているさ。俺が銃弾を受けてそのまま死ぬところをあんたが俺の生きたいという意思を聞きつけて転生する道を提示したんだったな」
女神のおかげで今の自分がある。などという殊勝なものではなく、少し苛立ちまじりに言った言葉であった。
『あれには理由があったんだよ。どうも君の魂は元の世界、地球と何らかのひも付きを死後のあの段階でも持っていた。これは僕の予想になるんだけどね……どうも君はそうなるように仕向けられたんじゃないかと思っている。今になってみればだけど』
女神が何を言っているのか本郷は理解しかねていた。
「それは一体どういう?」
『君はここに来る前から何らかの制約をつけられていた可能性がある。もちろんそれは僕とは関係ないところでね。その繋がりというか制約というかは君が地球で死を迎えた時点で薄らいだんだよ。だから、あのタイミングで僕は急いでこちらの世界に転生させたのさ。ただ、その制約はこちらに来てから復活したみたいでそれが君の人生に影響したんだと思うよ』
女神の説明にどこか本郷自身、納得いくものがあった。
「地球にいた時から……もしかして俺が銃で撃たれて死んだのもそこが関係するのか」
本郷は自分の死の瞬間を思い出してそう呟いた。
『そう、かもしれない。そうじゃないかもしれない、それはわからないけどこちらに来てからの君の不幸はおそらくそれが関係してると思う』
女神には確信があったわけではなく、また彼のステータスにそれが表示されていたわけではなかった。しかし、彼女はそうであると考えていた。
「じゃあ、俺は……俺の恨みの方向はとんだ勘違いってことか。それじゃ生きていても仕方ないな。俺が何かを成そうとしてもそいつのせいで止められるんじゃな……」
この世界に来る前からの制約となればどれだけこの世界であがいてもどうにもならないのだと彼は理解した。長年抱いてきた憎悪や怒りの方向を見失ってぐったりとした彼の言葉には、既に力がなくなっていた。
『君の仲間が倒され、君の野望が打ち破られたことを考えれば蒼太君との戦いは君にとってとても不幸なことだったかもしれない。だけど、蒼太君が相手だったことが君にとって不幸中の幸いだったのかもしれないね』
女神は優しい笑顔で本郷に言う。
それを皮肉と受け取った本郷は女神のことを睨み付けている。
『そんなに怖い顔をするもんじゃないよ? 今のは本当にただ事実を言っただけなんだからねぇ。君たちは蒼太君たちとの戦いで、敗北し続けた。それは大将である君も同じだ。そして君に至っては頼みの綱のユニークスキルまで失うこととなってしまった』
先ほどまでの会話であがった話題を蒸し返されることで本郷は更に苛立つ。
『だ・け・ど、そのおかげで君はさっきも言ったあの制約から解放されたんだよ。君を初めて見た時の違和感、それは蒼太君と戦っている間もあった。でもね、今の君からは制約による違和感を何一つ感じないんだよ』
女神の思わぬ言葉に本郷は口をあけ、ぽかんと間の抜けた顔になる。
その反応がおかしかったため、女神は笑みを深めて言葉を続ける。
『君のユニークスキルである転生、それ自体に制約がかけられていたんだよ。こちらの世界に来る前のことは僕にはさすがに詳しくはわからないけど、僕が君をこちらの呼ばなかったとしてももしかしたら地球で転生することができたのかもしれない』
地球ではステータスを見る方法がないため、それが本当のことなのかはわからないが、もしそうであれば本郷は地球で生まれ変わり、新たな生を生きることができたかもしれない。ただしその場合、制約を断ち切る力を持った蒼太と出会うことがなかったため、制約から解放されることがなかったことは事実だった。
「じゃあ、俺は……」
『そうだよ、君はこれからは自由だ。転生スキルを使うことはもうできないから生き方を改める必要はあるかもしれないけどねぇ。あぁ、そうだ君は僕を殺して転移や転生を止めるつもりだったみたいだけど、アレ自体に僕の意思は関わっていないから仮に僕が死んだとしても召喚すれば呼び出されただろうし、転生することも起こりうるはずだよ』
その言葉を聞いた本郷は今まで自分がやろうとしてきたことが全て無駄だと言われたようで、今までで最も驚いた顔になる。
それを見た女神も今までで最も楽しそうな笑顔になっている。その顔を見た本郷は何か言おうとしたが、自分の意識が少しずつこの空間から消えることに気付いた。
『話はこれで全部だよ。それじゃあ、あっちでうまくやるんだねぇ』
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