第三百十七話
前回のあらすじを三行で
両陣営、仲間の退避
蒼太の奥の手
本郷の奥の手
本郷が魔剣に魔力を込めると、それを蒼太に向かって横なぎにして一度蒼太に距離を取らせる。
弾き飛ばされた蒼太だったが、衝撃を回避するため実際のところは自分から飛んでいた。
「それで、一体何を見せてくれるんだ?」
強者が見せる更なる奥の手、蒼太はそれを楽しみにしていた。
「楽しみにしておけ」
そう言うと覚悟を決めたように彼は胸に手をあてて、自分の身体の中に魔力を流していく。
「肉体強化?」
本郷が使っている魔法はよくある付与魔法の一つに見えたため、蒼太の言葉からはがっかりした様子がうかがえる。
「そう急くな。そんなものは奥の手とは言わんだろ」
時間が経つにつれてじわりじわりと彼の魔力は徐々に増えていた。その魔力は増え続け、最初の何倍、何十倍にも膨れ上がっている。
「おいおい、どういうことだ?」
本来ならば自分の身に魔力を込めるだけではこのような魔力の高まりはあり得ない。それがわかっているだけに蒼太は疑問を口にする。
「驚いてるみたいだな、だがまだまだだ」
その言葉の通り、彼の身を強力なオーラが包んでいく。
「間違っても俺の真似をしようとは思うなよ?」
自分の身から手を離した本郷は敵であるはずの蒼太に忠告する。
「お前の奥の手が奥の手じゃなくなるからか?」
「いや、俺以外の人間にはこの方法をするのは無理だからだ。俺は自分の核に魔力を流し込んで、強制的に力を呼び起こしているんだ」
本郷の言った方法を聞いてある考えにたどり着いた蒼太は驚く。
「まさか!」
その反応は本郷にとっては想像の通りであり、にやりと笑みを浮かべている。
「そのまさかだ。俺は自分の命を燃やしている」
自分の命を燃やすということはすなわち寿命を削っているということであり、本郷の魔力やオーラを見る限りではその量は一年や二年では賄えないほどのものであった。
「そんなことをすればすぐに死んでしまうぞ!」
部下を置いたまま命を削ろうとするやり方に敵といえども蒼太は賛成できないため、怒鳴りつける。
「言っただろ? 俺の真似をするなと。俺以外にはできないことだ。ユニークスキルというのは個人個人に先天的につけられた固有のスキルだ。だがな、使い続ければユニークスキルも成長するんだよ」
ユニークスキルは先天的なスキルであり、レベルがついておらず成長はすることはない。彼が言うにはその認識は間違っているということだった。
蒼太は鑑定スキルを本郷に向かって使う。
「鑑定か? 俺の隠蔽スキルは10だ。見えるわけがないだろ」
その返事を聞いた蒼太は、本郷のユニークスキルを見るためだけに情報過多のリスクを受け入れて鑑定スキルのレベルをEXに設定する。
「……なるほど」
「何がなるほど、だ。わかったふりをしても意味はないぞ」
この世界ではスキルの最大値は10といわれており、それは絶対の真実として存在する。しかし、蒼太は唯一スキルレベルEXを持つものだった。
そんな蒼太が読み取った本郷のユニークスキル『転生』。そのスキルの説明にはこう記されていた。
死後、生前の記憶を維持したまま転生することができる。転生先をある程度選ぶことができる。魂を扱うスキルという特性から現在の魂を消費して自らの力を何倍にも高めることができる。
「ただ魔力で底上げをしても無駄という事か」
蒼太はわかっているのかわかっていないのか、相手に判断させないような言葉を選ぶ。
「まあ、そういうことだ。それよりもそろそろ本気といこうじゃないか」
本郷は自分の力に自信を持っており、それだけの力を実際に持っていた。
「そうだな、そろそろ決着をつけよう」
蒼太は再び二刀を構える。
今度は先に動いたのは本郷だった。彼の武器は先ほどと変わらずに複数の属性の魔力を込めた魔剣だった。
魂を燃やして強化を図った本郷の動きは見違えるほどで、八精霊を宿している蒼太の動きについてきていた。
「やるな!」
魔剣にまで本郷の魔力はいきわたっており、蒼太の攻撃にも耐えられていた。
「そうだろ、それそれ!」
本郷の攻撃の威力はどんどん上がっていく。
それもあって形勢が徐々に逆転しようとしている。
「だが、負けるわけにはいかないんでな」
蒼太は二刀を十字にして本郷の攻撃を受け止めると、そのまま大きくはじく。しかし相手に一、二歩たたらを踏ませるだけにとどまり、大きく態勢を崩すほどのものではなかった。
「小癪な!」
本郷は再び魔剣を振り下ろす。
それは空振りに終わった。
蒼太は紙一重でその攻撃を避けていた。
「これで」
蒼太は夜月だけを構えていた。気付けばそれは腰の鞘に入ったままだった。
「まっ、待て!」
それで何をするのか分かった本郷は慌ててそう声をあげながら、阻止するために魔剣を蒼太に向かわせようとする。
「遅いな」
だがその動きよりも蒼太の方が速かった。夜月を鞘から抜くと神速ともいえる速さで本郷の胴を薙いだ。
蒼太は全ての精霊の力を夜月に込め、更に自分の魔力も加えていた。その一撃は強力で、本郷が身に着けた鎧ごと胴を斬り裂いていく。
「ぐはあああ!」
彼は魔族ではなく、強化しているとはいえ蒼太の一撃に耐えられるほどの肉体でもないため、胴から血を吹き出して後ろに数歩下がる。傷口からはとめどなく血があふれていた。
「これで止めだな」
躊躇うことなく蒼太は夜月の先端を本郷へと向けた。彼が回復魔法を使えないことは既に鑑定スキルで把握している。また、空間魔法で回復薬を取り出そうとしても、その魔力の動きを蒼太は察知することができる。
「ぐっ、はあはあ。なかなかやるじゃないか」
ここまで互いに攻撃をあてることができず、致命的なダメージはなかったが、蒼太が与えた一撃は明らかに致命傷になっている。
本郷の表情からは苦痛は見てとれるが、悲壮感や悔しさは感じ取れなかった。
「この状況で何か覆すための手があるとでもいうのか? どう考えても俺の勝ちは決定だと思うが」
蒼太の言葉に本郷は笑う。
「俺にはユニークスキルがあるからな。あれは自動発動型でな、俺の死とともに発動されるんだ」
自分の能力について話し始めるが、これを話したところで自分の状況は変わらないと思っている。
「そうか……」
本郷の自信の理由を先ほどの鑑定で全てわかっている蒼太はそれを聞いて反対ににやりと笑った。
最適化が完了し、ユニークスキル『魂斬る剣』が解放されました。
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