第三百十六話
前回のあらすじを三行で
互いの武器
互いの魔法
二刀VS二剣
蒼太と本郷は双方ともに格闘スキル・剣術スキル・刀術スキルが高いと同時に魔法系スキルの能力も高い。そして、互いに相手がやりそうな手を予想して動いていたため、戦闘は長引いていく。
「面白いな」
「あぁ、悪くない」
そして、二人ともがこの戦いを楽しんでいた。
新しい攻撃をすればそれを相手が防ぎ、相手が新しい攻撃を繰り出せばそれを迎撃する。今まで全力を出してもいい相手というのは互いにいなかったのもあって、全力を出せる相手というのはいい緊張感を二人にもたらし、それが彼らをさらに昂らせていた。
戦っている当人たちは満足のいく実力のぶつけ合いだったが、しかしそれぞれに目指すものや考えていることがあるため、いつまでもこの戦いを続けるわけにはいかなかった。
「楽しいが、お前は俺の仲間の敵だ。そしてこれから先、俺たちが安心して暮らしていくためにもお前の存在は邪魔でしかない」
本郷は個としても組織としても大きな力を持っており、この世界を大切に思っている蒼太はそれを放置することはできなかった。
「それはこちらも同じだ。俺の目的を達成するためにはお前という存在は踏みつぶされるべき障害でしかない」
蒼太とその仲間たちは本郷にとって女神への復讐という目的達成のための最大の障害だった。
「なら、そろそろ決着をつけたいところだな」
「そうだな」
本気で戦っても拮抗しうる実力の相手は今後現れないかもしれない。そんなどこか寂しい気持ちを抱きつつも、倒すべき最大の相手に向かって全力を持って挑む。
ここまでも手を抜いていたわけではないが、それでも全ての力を出し切ったとはいえなかった。
「ディーナ、レイラ、イシュドラ、アトラ、塔から離れていろ。ここからはお前たちがいたら足手まといだ」
それは蒼太にとっての本心だった。ここで自身の全力を出し切れば仲間への余波は避けられないと判断したのだ。
「ソータさん、兄さんたちの敵討ちはお任せします。私たちは下で待っていますね」
「終わったらまた何か食べにいこー、もうお腹ペコペコだよ」
『我が足手まといとは、お主らは化け物だのう』
『再び主人が私の預かりし知らぬ場所でいなくなるのだけは勘弁してもらいたい』
呼ばれた順に一言ずつ蒼太へ思い思いに声をかけると彼らは下の階へと移動していく。
「ナル、フレア、ボーガ、ブルグ、ブラオード、お前たちもだ。ここから先は俺たちの戦いだ」
戦いの最中、仲間を見捨てるような言葉を発した本郷だったが、実のところ彼らのことは部下の中でも特に大切に思っている存在だった。それをわかっているため、彼ら彼女らは本郷を慕ってこれまでついてきていた。
「お待ちしています」
ナルルースはただその一言を。
「戻ったらまた将軍の故郷の料理作ってよー」
フレアフルも彼の勝利を疑っておらず、そう言葉をかける。
「承知」
「僕らの敵討ちよろしくー」
ボーガ、ブルグも同様でだった。
『おい、さっさといくぞ』
ブラオードにいたっては、本郷へ声をかけることすらしなかった。
どれも本郷の強さへの信頼から成せるものであった。
「さて、お互いやっと本気が出せるな……一応確認しておくが、まだ手はあるんだよな? あいつらを逃がす口実だといったらがっかりだぞ?」
蒼太はただのブラフである可能性を考え、そう口にしたが本郷は笑って返す。
「安心しろ、まだまだ手はあるさ。そう言うお前も同じなのだろう?」
その言葉に蒼太もにやりと笑って返した。
「その通りさ。お前ら出てこい」
蒼太は亜空庫から八本の剣を取り出し、その全てを地面に突き刺した。
すると、蒼太の呼びかけに応えて彼の周囲に精霊たちが次々にその姿を現す。
「さっきの戦いでディーナが使ったエレメンタルファイブ。あれは不完全版だ。本来なら五つの属性の精霊の力を使う、だがそれには五属性の精霊と契約する必要がある」
そこまで言うと、蒼太は八体の精霊をその身に取り込んでいく。
「おいおい、お前のは五つどころの騒ぎじゃないだろ」
五体でも十分なところに八体の精霊を取り込んだ蒼太を前に軽口をたたく本郷だったが、内心は冷や汗をかいていた。
「あぁ、これもまた少しばかり数が多いがな」
ディーナの時は三精霊と二属性の魔力だった。しかし、蒼太は火・水・風・土・雷・光・闇・空の八精霊の力を取り込んでいた。彼の身体はそれらの力がオーラとなって纏われている。
「くそっ、まさかそこまでだとは!」
本郷の奥の手は一本の剣に他の魔剣を取り込ませるものだった。
コンセプトとしては蒼太がやっていることと似通っているが明らかにその規模が違った。
本郷の持つ魔剣は、高位の魔力を持つ剣ではあったがそれは人が制御できる範囲のものである。それが何本も束になったとしてもそれはあくまで制御の範囲を超えることはない。
蒼太が呼び出した精霊は本来であれば一体でも持て余してしまう。二体を使役し、もう一体も制御下においたディーナも十分凄腕であったが、蒼太はその強い魔力で八体の精霊を制御下、という言葉では生ぬるいほど完全に支配下においている。精霊たちをその身に全て宿しても蒼太の身体は何の苦痛もなく、むしろ彼の力をそれぞれの精霊の力によりさらに強化するものとなっている。
「おい、まさかその剣が最後の手だなんて言わないよな?」
精霊の力を完全に自分のものとした蒼太が本郷へと質問する。
「……そのまさかだ。と言うところだがまだ手はある」
更なる奥の手、それは強がりではなかったが本郷はできればその手は使いたくないと思っていた。
「そうか、だったらそれを引きずりだせるようにせいぜいがんばってみるよ!」
蒼太は二刀を構えて本郷へと走り出した。走る速度も、刀を振るう速度も威力も全てが先程までとは段違いだった。
「ぐっ、これほどとは!」
一撃が繰り出されるたびに周囲に衝撃波が広がっていく。この衝撃波はディーナやナルルースでも止めきれないほどの威力であり、離れたところにある壁に亀裂が入っていく。
対する本郷はその攻撃を防ぐだけで精一杯という様子だった。ぐっと歯をかみしめてふんばるその表情からも苦戦を強いられているのが見て取れた。
「ほらほら、どうした! 奥の手を見せてみろ!」
蒼太の一撃には全ての属性の力が込められており、本郷の持つ魔剣でなければ一瞬で折られているほどの威力を持っていた。
「これじゃじり貧だな……やるしかないか」
本郷は表情をくしゃりとゆがめながら、更なる奥の手を出す決意をする。
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