第三百十五話
前回のあらすじを三行で
魔法の球
氷の精霊で防ぐ
インスピレーション
二人の戦いは時に蒼太が優位に動き、時に本郷が優位に動き、その攻防は一進一退だった。
「面白いな」
蒼太だけでなくいつしか本郷も笑みを浮かべていた。
二人はともに相手のことを認めており、自分とまともに戦うことができるものに会えたのは互いに初めてであったため、この戦いを楽しんでいる。
「これはどうだ?」
蒼太は魔力を込めた武器を何本も投擲していく。それはまるで雨のように本郷へ襲い掛かっていく。
「くそっ、使い捨てか!」
それがなんなのか、触れればどうなるのか。本郷はすぐに把握できた。
蒼太の強い魔力が込められた武器は殺傷力が上がっており、通常の武器では撃ち落とすことは難しく。仮に撃ち落とすことができても、こめられた魔力が爆発してダメージをくらってしまうことが予想できた。
「それならば、アースウォール!」
本郷は巨大な土の壁を作りだす。ただの土ではなく、その中に金属の粒子を混ぜることで強度をあげている。
「それで防げると思っているのか?」
蒼太の言葉の通り、土の壁は最初の数発は防げたものの、何本目かにはすぐにボロボロに崩れていく。そして、完全に貫通した一本は壁を抜けるがその先に手ごたえはなかった。
蒼太は既に土の壁には目を向けておらず、左側を向いて剣を構えていた。
「先読みもできるのか!」
構えた蒼太に向かって剣を振り下ろしたのは壁の向こう側にいたはずの本郷だった。自身が先手を取れたと思っていた彼は蒼太が既に構えていたことに驚いて声を出した。
「これくらいは簡単に予想できたさ」
相手に見えないようにして、その瞬間に移動し別の方向からの攻撃を繰り出す。この手は以前蒼太が古龍と戦った際にも使った方法だった。
「なら、これもか?」
攻撃を防がれた本郷だったが、反対の手にはいつの間にか取りだした別の魔剣が持たれていた。それを横なぎにして蒼太の胴を斬りつけようとする。
「あぁ、それもだ」
蒼太の左手には蒼月が握られており、本郷の第二の魔剣を受け止めた。
「じゃあ、別の手を使うぞ!」
両の魔剣から手を離した本郷は、近距離で魔法の球を蒼太に向かって投げつける。力を入れて魔剣を押しとどめていた蒼太だったが、抵抗がなくなりバランスを崩していたためその直撃をくらってしまう。
「ぐはあ!」
さすがに近距離での威力は耐えきれず、叫び声をあげて蒼太はそのまま後方に吹き飛ばされた。
爆風によって吹き飛んだ蒼太だったがそのままでいるわけもなく、飛ばされた先で態勢を整え、着地していた。
「ふう、今のはだいぶやばかった」
蒼太の右手に握られていた剣は、ディーナが持っていた光の精霊が宿った剣と同種のものであり、氷の精霊の宿った剣だった。
「いつの間に!」
本郷は目を見開いて驚いていた。今の一撃は完全に蒼太の隙をついており、致命傷。そこまでいかなくとも、大ダメージを与えることができたとふんでいたためだった。
蒼太は近接戦になった場合に本郷が何か新しい手を打ってくる可能性を考えて、本郷の剣を受ける時には既に剣に持ち替えていたのだった。
『私がいなければ、危なかったね』
蒼太に声をかけたのは先ほどと同じ妖艶な氷の精霊だった。
「助かったよ」
彼女が本郷の魔法の球による攻撃を防いでいた。急な対処だったため、爆風までは防ぎきれなかったが蒼太に目に見える大きな怪我は見られなかった。
「色々持っているみたいだが、さすがに精霊を何体も呼び出すのは反則じゃないか?」
本郷は蒼太の武器を見て呆れていた。
「そういうそっちも、一体いくつその球を持っているんだ?」
お互いに手の内を全てさらけ出してはおらず、しかしお互いに決め手にかけていた。
「なんだかソータさん楽しそうだね。相手の人も」
ディーナに話しかけたのは自身の戦いを終え、彼女のところへ来たレイラだった。
『やつと同等に戦える者などそうそうおらんからのう。相手の男も同じなんだろうのう』
それに答えたのはそんなレイラの後ろからやってきた古龍だった。自分の戦いが終わったからかすでに身体を子竜サイズにしていた。
その側にいたアトラも古龍の答えに頷いている。
「みんな来ていたんですね」
蒼太と本郷の戦いを見守っていたディーナのもとへ三人がやってきていた。
それと同様に本郷の仲間たちもナルルースのもとに集まっていた。
「だ、大丈夫かな?」
自分が相手にして全く敵わなかった相手に戦っている彼を心配そうに見ながらそう口にしたのはフレアフル。
「私たちは信じるしかない」
「負けるわけないだろ? 僕たち全員でかかってもエルダード様には勝てないんだぜ?」
ボーガとブルグがそれに続いた。
『ふむ、しかし相手の男もなかなかやるようだな』
ブラオードはイシュドラと同じく身体を小さくした状態になっている。
「おい、部下たちがお前の戦い振りを心配そうに見ているぞ?」
「お前の仲間たちも来たようだな」
二人はにやりと笑いあった。そして、次の瞬間には二人の表情が引き締まった。仲間たちを前にふがいない戦いはできないとそう思ったのだ。
蒼太はここまで相手の力量をはかるため、どの攻撃が有効であるかを探るために本気を出さずにいた。
「じゃあ、そろそろ本気を出させてもらうか」
蒼太は右手に夜月、左手に蒼月を構える。更に防具とアクセサリにも魔力を流していく。そうすると蒼太の魔力に反応するように青くそれらが淡い光に包まれた。
「こちらもそうさせてもらおう」
本郷が取り出し構えたのは光の魔剣と闇の魔剣だった。この二本は彼が手に入れた武器の中で最も魔力が高く、また蒼太の様々な攻撃に対処できるものであった。
彼も鎧に魔力を通していく。どこか濁るような色の光が彼を淡く包む。
「考えることは同じか」
防具に魔導装備を用意する。鎧を装備することで自らの力を強化する。そんな漫画を昔に見たことがあったのは二人とも同じだった。
「いくぞ!」
先に動いたのは蒼太。しかし、すぐに本郷も走り出す。
二人がぶつかりあうと、それだけで強力な余波がその場にいる全員を襲う。それは魔力であり、気力であり、オーラであった。
その余波はそれぞれの陣営でディーナとナルルースが咄嗟に張った障壁によって遮断される。ナルルースは闇の精霊をその身に憑依させたことによるダメージは大きかったが、それでも障壁を張るくらいには回復していた。
蒼太の二刀、本郷の二剣はすさまじい速度で振るわれ、ぶつかるたびに周囲に影響をもたらしていた。
「剣の使い方も上手いものだな!」
「そっちもよく刀なんてものを用意できたな!」
それぞれが武器で攻撃を繰り出し、武器で相手の攻撃を防ぎながら会話をしていた。
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