第三百十三話
前回のあらすじを三行で
本郷最初の人生
ユニークスキル「転生」
蒼太のおかげで見つけた目標
「一体なんのことを言っている?」
訝しげな表情になった蒼太は疑問を口にすると、本郷は笑顔になる。
「あぁ、そうだな。急に言われてもわからないだろうさ。魔王が倒されたあと、俺はお前たちの命を奪っていった。その時にお前はフランシールの送還魔法で元の世界に戻された。そうだな?」
本郷はわかっていることを改めて確認する。
「そうだ、再度召喚されるまで俺は地球で三年間過ごしていた」
それに頷いた蒼太の返事に本郷は満足していた。
「やはりそうか。だったらあの時に見たのは間違いじゃなかったんだな……お前が送還魔法をかけられた時に俺はお前が飛ばされるところを見た。お前は意識を失っていたみたいだがな」
本郷は送還魔法をかけられた蒼太の身体が力抜なくだらんとしていたのを見ていた。
「……俺が送還される時ってことは、元の世界に繋がる道があるというのがわかったということか?」
送還時の記憶が曖昧な蒼太はそう問うが、本郷は首を横に振る。
「いや、おそらくお前が飛ばされたのは真っ白な空間だ。お前も見覚えがあるはずだ……あいつの、あの女神のいる場所だからな!」
「!?」
話しているうちに本郷は怒りがこみ上げてくる。
「なんでそんな場所にって顔だな。これは俺の予想になるが、あの場所は地球からこっちに、こっちから地球に移動する際に必ず通る通路みたいな場所だと思っている。実際俺はそこに立ち寄ってきたし、お前もそうだろ?」
彼の目的が徐々に見えてくる。
「お前は……あの女神に復讐がしたいのか? 不遇の人生を送ることになったその恨みを晴らすために」
彼の考えに気付いた蒼太の言葉に本郷はにんまりと笑顔になる。
「察しがいいな。頭のいいやつは嫌いじゃない。俺は長年あの空間に行く方法を模索した。色々な方法を試したさ、強力な魔力を集めたり、空間を斬り裂くための武器を探したりな。だが、どれも成果をあげることがなかった」
そこまで言って本郷は天をあおいだ。
「だがな、見つけたんだよ。その方法をな。そもそも送還魔法というのは目的の場所に送るという難しさから人一人の魔力を完全に燃やし尽くして空間を繋ぐ魔法だ。それには召喚をしたという楔が魂に打ち込まれる必要があるらしい。それを利用してもよかったんだが、これ以上転移者を増やしたくなかったからその方法はやめた……お前たちは召喚されてしまったが」
本郷は複雑な表情になっている。
「だが、まあ別の方法を俺は見つけた。魔力を燃やし尽くすと爆発的な魔力が解放される。だったら、それに相応するだけの力を手に入れることができれば、あの空間に繋ぐ道を作ることができるとな。そのために必要なものがあった……それは竜人族の魂がこめられた宝玉だ」
それを聞いて蒼太は色々なものが繋がっていくのを感じた。断片的だった情報のピースがひとつひとつはまっていくようだった。
「……そうか、レジナードの宝玉なら十分な魔力があることに気付いたんだな。そして、それは長老によって持っていかれた」
「その通りだ、やはり察しがいいな。説明が楽で助かる。俺はグレゴールマーヴィンが持って逃げていったものに気付いていたが、その有用性がわかったのはしばらくしてからだったからな。慌ててあいつの捜索をしたがついぞ見つけることができなかった」
小人族が帝国に追われていた理由はこれだった。
「自分の目的のためだけに、これだけの長い間お前は小人族を狙ったっていうのか……どうかしているな」
「ははっ、そう言ってくれるな。お前にとっても悪くない話だぞ? お前だってあの女神によってこの世界に送り込まれたことで人生を狂わされた一人だろ? その原因に一泡吹かせられるならそれくらいの犠牲、どうってことないだろ?」
まるで蒼太も自分と同じだろうと決めつけた本郷の発言に蒼太は眉をピクリと動かした。
「それくらいの犠牲、だと? 小人族たちはお前のせいで定住することができず、今も放浪の生活を送っているんだぞ? それをそれくらい、だと? ふざけるのもいい加減にしろ」
声を荒げることはなかったが、蒼太の言葉には怒りがこめられていた。グレゴールマーヴィンから小人族たちを頼むと言われた蒼太にとって彼らは守るべきもののひとつになっていたからだ。
「ふう、分かり合えないもんだな。俺は、今後俺みたいなやつが現れないようにしたいんだ。転生や転移なんてくそくらえだな。だが、お前やお前と一緒に呼び出されたやつらのように召喚の儀式はどこかでたまに行われている。転生者になると、情報が全く出てこないことも当たり前にある。それでもなんとか探し出して多くの元地球人に俺は会ったが、お前のように順風満帆の生活をおくれるやつなんてのは一握りだったよ」
そこまで言うと本郷は立ち上がった。
「だから、俺はお前たちを倒して目的の場所に辿りつくつもりだ。竜人族がどこにいるのかおおよその見当はつけることはできたからな。この飛空艇でそこに向かうつもりだ」
本郷は両手を広げていた。
「飛空艇だと? まさかここが?」
蒼太が驚く顔は本郷を笑顔にする。
「驚いたか? そうだ、ここは俺の拠点であり、移動のための飛空艇でもある。これだけのものを作り上げるには多少時間がかかったが、俺は何度でも蘇ることができるからな。数百年くらいどうってことはなかったさ」
してやったりという顔をしているが、彼の言葉にはまだ続きがある。
「そして、竜人族の居場所は……空だろ?」
上を指し示しながらそう言った本郷に蒼太もディーナも目を見開いて驚く。
「なぜそれを!」
「ははっ、冷静なやつかと思ったがそこまで表情を変えることもあるんだな。まあ簡単な予想だろ。地上のほとんどを俺は探しつくした、残っているのは海底か地下か、あとは空くらいなもんだ。それに加えてお前の仲間のあの古龍、あいつが遠く空へ飛び立っていったのを俺の部下の一人が目撃している。よく見ればその背中には人の姿があったとな」
本郷は勝ち誇った顔でそう言い、対する蒼太は表情を曇らせていた。
「見られていたということか……そいつは失態だった。だが、ここでお前を倒せば問題ないことだ」
話を一通り聞き終えたと判断した蒼太は夜月を手にする。自分の考えが甘かったことで引き起こした問題は自分でけりをつける、そう気持ちを切り替えた蒼太はその眼差しに闘志を漲らせ、本郷を強く睨み付けた。
「まだ俺の不幸話はあるんだが、もう火がついたようだな。いいぞ、相手をしてやろうじゃないか。言っておくが俺は他のやつらのように簡単にはいかないぞ? なにせ何百回という人生を送っているんだからな!」
その長い長い年月は、彼に多くのスキルを身につけさせた。そして、同時に彼の精神をむしばんでもいた……。
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