第三百十二話
前回のあらすじを三行で
フレアフルへ止めを刺すのを止められる
本郷が語る昔話
転生
失ってしまった自分の命。それはもう取り戻すことはできないが、新たな生を彼女は与えてくれるという。
過去の生で何もなすことができなかった。少なくとも彼自身はそう思っているため、彼女の申し出をありがたく受けることにする。
『決断が早いね。もう少し考えるかと思ったけど、ここは時間が止まっているから好きなだけ考えてくれていいんだよ?』
即答した本郷に女神は、考える時間があることを伝える。
「いや、考えたら逆に気持ちが揺らぐかもしれないから頼む。転生させてくれ」
真っすぐ女神の目を見て話す彼に一切の迷いはないようだった。
『わかった、すぐに転生させよう。君はどこかの家の子供として生まれ変わる。今の記憶は引き継がれるだろうし、訓練次第では色々と新しいスキルも手に入れられると思う。転生したらステータスを確認するといいよ。それじゃあね』
そう言うと女神はすぐに転生の準備に入る。
「えっ、ちょ、それっ!」
色々と気になる言葉を聞いた本郷は慌てて聞き返そうとするが、既に転生は始まっており、彼の姿は薄くなってきていた。
『それじゃ、新しい生を楽しんでくれ。君の人生が良いものであることを祈っているよ』
女神はそう言いながら笑顔で手を振っていた。
「ま、待って……!」
その声は女神には届かず、彼の姿はその場から消えていった。
『……さて、彼は一体どんな人生を送るのかねぇ』
一仕事終えた女神は誰もいなくなった空間で一人呟いた。
転生してからの彼は大変だった。赤ん坊の姿であるが意識は本郷修一郎そのものだったため、状況を理解できずにしばしの間混乱して過ごすことになる。その反応は泣くという行動でしか表せなかったが、それは彼の新しい身体の両親に迷惑をかけることになった。
それから成長していくにつれ、自分がいる場所が地球とは異なる場所であり、この世界ではスキルや魔法というものが当然のように存在することを知る。
父と同じ職業つくという目標を定めてからは勉強一辺倒であり、娯楽にあまり手を出していない彼にとってこの状況はカルチャーショックであった。
しかし、彼は新しい両親に報いようと考え、地球の時と同じように真面目に生きていくことを決意する。
学園では勉強・剣技・魔法と揃って首席という結果をおさめる。彼の家は貴族の一族であり、国内でも発言権が強く、更には彼の才能から国内でも重要なポジションに採用されていった。
そこで彼が残した最大の功績は、世界共通の通貨を作ったことであった。大蔵省に勤めていたことから、貨幣の流通や造幣についても勉強していた彼からすれば質の高い通貨を作ることは容易であり、その質の高さから長い年月もの間、世界共通で使われることとなる。
それからも彼はメキメキと頭角を現し、王からも重用されるがいつしかそれが他の貴族の不満を買うこととなる。なんとか彼を失脚させられないかと考えた貴族たちは本郷がなすことをことごとく邪魔をしていく。それでも彼は負けずに様々な結果を残すこととなるが、頑張りとは裏腹に徐々に心は疲弊していった。
そのタイミングで彼は信頼していた部下の裏切りにあってしまう。その部下とは彼が恋心を寄せていた人物であったため、彼の絶望は相当深く、悲しみにくれた生活を送ることになる。
彼女が貴族たちへ情報を漏らしたことで、本郷は辛い立場となってしまった。
城にいられなくなった彼は実家に戻ることになるが、そこで受けたのは両親からの罵倒であった。なぜ家に戻ってきたのか、仕事はどうした、恋人とはどうなったの、そう両親から口々に言われて温かく迎え入れてもらえるだろうと思っていた彼はさらに心を痛めた。
部下に続き、愛していた家族からも裏切られ、彼はあまりのショックで実家からも飛び出してしまう。何とか宿をとるが、その宿に兵士が踏み込み、とうとう彼は逮捕されることとなる。
自分は何も悪いことをしていない。そう主張するが誰も聞き入れてくれなかった。彼を重用していた王ですら、彼をさげすむような目つきでみている。
そして、彼の人生は極刑という結果を迎えてしまった。
★
「これが、俺が転生してからの最初の人生だ」
彼は淡々と語ったがそれは悲痛な話であり、敵であるはずの蒼太もディーナも、そして何度か聞いたことのあるフレアフルまで沈痛な面持ちでいる。
「おいおい、話はまだ続くんだぞ? これくらいでダウンしてもらっちゃ困るなあ」
本郷があまりにもおどけた口調で言ったため、蒼太はそれに付き合うことにする。
「そいつは楽しみだな。それよりも、最初の人生ということは……」
「あぁ、俺には生まれつきユニークスキルが備わっていた。ばれたらヤバイから早いうちに隠蔽スキルを覚えたがな」
鑑定スキルを使って蒼太が見た彼のユニークスキルには『転生』の二文字が刻まれていた。
「それでまあ、一度目の人生はそれで終わった。次はあまり裕福ではない家に転生してな、それこそ生まれてから死ぬまで不遇だったよ。確かあの時は十歳くらいで死んだんだったかな?」
彼は思い出話の一つを語るくらいの軽さでそう言う。
「まあ、良い時もあったし悪い時もあったよ。そして、今から千年とちょっと前。俺はある王国の王子として生を受けた。王子だったから、その生ではなに不自由することなく生活できたよ」
その話には何か思い当たることがあるのか蒼太とディーナの目つきを鋭くさせる。
「お、気付いてはいたみたいだな。そうだ、俺はフランシールの兄デルバートの身体に転生した」
蒼太を初めてこの世界に召喚したフランシール、その兄ということは彼が蒼太たちをバラバラにした張本人であることを示唆していた。
「……なぜ、あんなことをした」
決して声を荒げずに、静かに蒼太は質問をする。あんなことというのは千年前の魔王との戦いでのことだ。
「なぜ、か。同じ地球から来たお前が眩しくて、そして妬ましかった」
本郷は遠い目でそう語る。デルバートとしての生の時の記憶に思いをはせているのだろうか。
「さっきは良い時もあったといったが、俺の人生はいつも最終的には非業の死を遂げることになった。まるで誰かに仕組まれたかのようにな」
本当に仕組まれたものなのか、たまたまだったのかそれは誰にもわからないことだった。
「あぁ、そうだ……あの女神が俺をこの世界に転生させたんだよな。ははっ、そりゃ神とはいってもなんのメリットもなくそんなことをしないだろ?」
本郷はあざけるように笑いながら言うが、すぐにすっと表情が消える。
「……俺の人生はあいつに全て仕組まれていた。だからはじめから勇者としてみんなからチヤホヤされて、順調に魔王討伐という結果にいきついたお前のことが気に入らなかったんだよ!!」
今まで抑えていた感情を吐き出すように声を荒げる本郷だったが、すぐに冷静さを取り戻す。
「だが、そんなお前のおかげで俺は最大の目標を発見することができたんだ。感謝こそすれ、怒鳴るのは失礼だよな」
本郷の言葉は蒼太には理解できず、彼がなんのことを言っているのかわからなかった。
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