第三百九話
前回のあらすじを三行で
不死身のフレアフル
彼女の武器は拳
吹き飛ばされるフレアフル
「いったたた」
フレアフルはそう口にしながら立ち上がるが、ダメージは全くないように見える。
「やはりダメージは与えられないか」
蒼太はその確認のためだけに先程あえて彼女を拳で殴っていた。
「お前わかっててやっただろ! 死なないけど少しは痛いんだからなあ」
しかし、殴られたところを撫でながら立ち上がった彼女はその痛みも既にひいているようだった。
「本当に魔王と同じ身体なんだな。こいつはだいぶ厄介だ」
その言葉とは違い、蒼太の表情からは困っている様子はうかがえなかった。
「ふーん、慌てないんだね。厄介とか言ってるけど、全然焦ってないようにみえるよ」
最初の攻撃から彼女も猪突猛進タイプかと思われたが、蒼太の表情を確認するくらいの冷静さを持っている。
「お前も意外と冷静なんだな。お前の親父を思い出すよ」
蒼太の言葉にフレアフルは眉をピクリと動かした。
「その口ぶり、まるで知ってるみたいだね。あんた人族だろ? そんなに年もとってないように見えるけど……」
彼女は蒼太のことを訝しんだ表情で見る。
「俺は十八歳だ。人族というのもあっている、……あってはいるが千年前にお前の親父を倒したのも本当だ」
「なんだって!?」
蒼太の言葉に彼女は驚いて目を見開いた。
「ど、どういうことだよ! あんたが親父を殺したのかよ! どうやって! なんで!」
動揺した彼女は立て続けに蒼太に疑問の言葉をぶつける。
「俺を倒せたら話してやろう」
だが答えるつもりのない蒼太はそう返すだけだった。
「ようっし! あんたを倒す理由がもう一つできたよ!」
そういうと気合を入れなおしたフレアフルは腕を振り回して、蒼太に向かって走り出した。
「やる気を引き出せたみたいだな。そのほうが俺も楽しめるというものだ」
口元に笑みを浮かべた蒼太は夜月を構えて、彼女を迎え撃つ。
「いっけえええ」
「!?」
走ってくる彼女は当然魔族である以上、遅いわけではなかったが、フレアフルが走る速度が突然途中から上がったため蒼太は驚く。正確には走ってくる途中で出したのであろう、背中に生えた羽根によって飛びながら向かってきていた。
「くらえ!!」
その勢いのまま彼女は蒼太の懐に入り込んで、蒼太に向かって拳を放つ。
「なんで!?」
だが今度は反対に彼女が驚く番になる。彼女の拳は蒼太の胸を覆うハーフプレートにぶつかるかと思われた瞬間に止められることとなった。
蒼太の鎧は夜月と同じく竜鉄で作られているため強固なものだった。しかし強度だけでは彼女の拳を止めることはできない。蒼太の周囲には魔力の壁ができていた。
「その拳、魔力で覆っているだろ? だから俺も魔力で止めさせてもらっただけだ」
簡単に言ったが、拳には魔力だけでなく彼女自身の力が乗っているため、本来ならば魔力だけで防ぐのは容易なことではなかった。
「そんな! 一体どれだけの魔力を持っているっていうんだよ!」
彼女は怒りに任せて魔力の壁を何度も殴りつける。殴るたびにこめる魔力を上げているのか、彼女の攻撃力も徐々に強くなっており、魔力の壁にひびが入ってきていた。
「すごいな、まさかそこまでのパワーがあるとは思わなかった」
それでも蒼太の余裕は崩れなかった。
「次の手に移らせてもらおう。人の真似になるが……」
蒼太は自分の身に複数の属性の魔力をいきわたらせる。
「それは、さっきの!」
ディーナが使ったエレメンタルファイブ。あれは精霊の魔力を使うことで消費魔力の軽減を図っていたが、蒼太は精霊の力を借りることなく、自分の魔力だけでそれを補っている。
「少し違うがな」
そして五つの属性を纏わせていたディーナとは異なり、蒼太の身は八つの魔力に包まれていた。
「それじゃあ、こっちの攻撃の番だ」
蒼太は自分で作った魔力の壁を突き抜け、フレアフルの腹に拳を繰り出した。
「げふぅ!」
今度は攻撃が来るとわかっていたため、吹き飛ばされることだけは阻止したが、身体を押しつぶすような圧迫感に呼吸ができなくなり、その場にうずくまっている。
「呼吸ができないのは不死身でもきついだろ」
蒼太はそう言ったが、この攻撃も一時しのぎであり、彼女を倒す決定打にならないことはわかっていた。
「しかし、まいったな。どうすればいいのやら……」
現状フレアフルの攻撃は蒼太に届かない。蒼太の攻撃は表面的にはダメージを与えることができるが、決定打にはならない。
完全な膠着状態だった。
「もう一度、あの力が手に入れば」
蒼太がそう呟いた瞬間、この場の時がキーンという音を立てて止まった。
「なっ!」
『やあ、蒼太君』
その声の主は、転移した時にも会った女神だった。
「あんたは!?」
目の前にあの彼女が立っており、周囲も先ほどまでいた場所と異なる白い空間にいることに驚いていた。
『ふふっ、驚いたかい? 君が力を取り戻したがっていたようだから、ここに呼んだんだよ』
彼女は蒼太が驚く様子が面白かったらしく、愉快だと美しく笑っていた。
「可能なのか?」
『できるよ。本当だったら自動的に取得するようにしてもいいんだけど、アレを使えるようになるのには条件が必要だからね。君に確認してからにしようと思ったんだ』
蒼太が望んでいた力……それが使えるようになるのは願ってもないことだったが、蒼太はその条件というものが気になっていた。
『その条件はなんだ? って顔をしてるね。アレを使えるのは、称号が勇者の者だけなんだよ。君と一緒に召喚された彼らの中には使える人もいたと思うけど』
それを聞いてその能力の持つ特性に蒼太は納得する。
「俺が勇者関連の称号をつけるのはやめてくれと言ったからか……わざわざ確認するとは、悪かったな」
女神たちが普段何をしているのかは知らないが、一度召喚した後にもこうやって自身の為に便宜を図ってくれていることに蒼太は感謝した。
『いやいや、気にしないでいいよ。時間は止まっているからね、それよりもどうする?』
彼女の言葉に蒼太は少しだけ悩んだがすぐに決断する。その顔は決意に満ちたものだった。
「……頼む。もう俺はここで自由に動けるし、大切な守りたい仲間もできた。今なら俺の正体がばれたとしても好きに生きていける」
蒼太の答えを聞いて女神は笑顔で頷いた。
『それじゃいくよ』
彼女は蒼太に向かって掌を向けるとその身体が一瞬だけ光を放った。
『はい、完了。これで君の望むスキルが使えるはずだよ』
「あぁ、そうみたいだな。助かったよ、ところで俺のユニークスキルだがもう一つは一体なんなんだ?」
自分の身に戻った力を確認するように手を開いたり閉じたりしながら、ふともう一つの能力がここまでずっと文字が隠れていたことを思い出し、蒼太は質問した。
『ふふっ、時がくれば使えるようになるさ。大丈夫、その時を待つんだ』
それだけ優しい笑顔で言うと、女神の姿は徐々に消えていき、周囲の風景も元いた場所へと戻っていく。
ユニークスキル『魔を断つ剣』が解放されました。
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