第三百八話
前回のあらすじを三行で
闇精霊二体目召喚
光の精霊の剣
ディーナの勝利
ナルルースを倒したディーナだったが、彼女も魔力を使い果たしてその場に座り込んでしまう。
「なんとか勝てました。でも……まだまだ修行不足ですね」
ぐったりとしている現状を省みて、そっとため息をつきながらディーナは反省していた。装備は十分強力なものを用意してもらっていながら、これだけ苦戦したことは彼女にとって十分な反省材料だった。
彼女から少し離れたところで倒れているナルルースは体力・魔力・精神的なダメージを負ったが、肉体への怪我などはほとんどなく、時間が経過すれば目覚めるであろうと思われた。
「また、負けか……一体どういう戦力をそろえて来ているんだ?」
その様子を見ていた本郷はナルルースの敗北を見てそう呟いた。今の彼は実力があると思っていた仲間たちが次々とやられていく状況から蒼太たちの戦力に興味を持っており、ナルルースが負けたことには興味がないようだった。
「あちらも、力を持っているのだろうな……しかし、今度はそううまくはいかないはずだ。あいつは魔王の娘だからな」
本郷は蒼太たちに視線を移し、そちらの戦いを眺めることにする。
「あららー、ナルちゃん負けちゃったみたいだねえ」
「そうみたいだな」
こちらは戦闘を一時中断してディーナたちの戦いを観戦していた。
「さて、それじゃあこちらも開始といこうか」
蒼太は夜月を右手に持ち、先端をフレアフルに向ける。
「いーね。これまで全員負けたみたいだけど、あたいに勝つことなんてできないよ」
彼女は自分の力に自信があるようだった。
「なんてったって、あたいには親父譲りの無敵のこの身体があるからね!」
どんと大きな胸を叩くとそれはたわわに揺れていた。
「……やっかいなことだ」
親父譲り、それを聞いた蒼太は千年前の戦いでも魔王の不死身の肉体に苦戦を強いられたことを思い出していた。
魔王は斬りつけても斬りつけても血を流すことなく、傷もすぐに塞がっていた。
「だが、まあ俺が相手というのもなるべくしてなったというべきだろうな」
「ぶー、なんか面白くないなあ。不死身なんだよ? 死なないんだよ? くっ、どうやって倒せば! とかあってもいいんじゃない?」
自分の思っていた反応が見られなかったことに彼女は不満そうな表情だ。蒼太のどこか余裕のある口ぶりはフレアフルにとっては面白くないものであった。
「不死身といっても、何か手はあるものだろ。それに、倒さなければあいつと話せないみたいだから驚いている暇があったら、頭を働かせるさ」
これまた蒼太の冷静な返答にフレアフルは唇を尖らせる。
「もしかして、あたい舐められてるのかな? 不死身ってのは嘘だと思われてるとか?」
自分で口に出して確認していくうちに、内心徐々にイライラが募っていく。
「そういうつもりはないんだがな……」
蒼太のつぶやきは感情的になったフレアフルの耳には届いておらず、彼女は額に青筋を浮かべて腕を振り回すと走り出した。
「こんのおおおおおお!!」
直進してくる彼女の拳による攻撃を蒼太は最小限の動きで避ける。
しかし、避けられることも十分想定していた彼女はすぐに方向転換して素早く次の攻撃に転じる。
彼女の武器は魔力を込めた拳によるものだった。魔族だけあって膂力は高く、込められた魔力もそれを強化してくれるので、普通の剣なら触れただけで折れてしまうほどの威力を秘めていた。
「なかなかの剛拳のようだな。魔力も魔王の娘というだけあってかなり高いようだ」
次々に繰り出される拳をひらりひらりと避けながら、蒼太は彼女に賛辞を送る。
これもまた彼女の怒りを煽るきっかけとなる。
「このお! 本気でやれよおおお!!」
フレアフルは怒りが高まるにつれてその攻撃速度をあげてくる。普通であれば怒りによって大振りになり攻撃の精度が下がるものだ。だが彼女の攻撃の精度は逆に徐々にあがり、ついには蒼太の服をかすめる程度になっていく。
「面白いな、怒り任せに攻撃しているように見えるのにしっかりと調整しているんだな」
蒼太は楽しそうに攻撃を避けながら褒めているが、一向に攻撃が決まらないフレアフルは舐められているとしか感じていなかった。
「と、こんなことばかり言ってると怒られるだけだから、俺も手を出すとしよう」
蒼太が右手に持つ刀、夜月に魔力を込めると咄嗟に彼女は慌てた様子で後方へ飛びのいた。
「どうした? そんなに距離をとったら戦えないんじゃないか?」
先程までのフレアフルの強い怒りは収まっており、今度は蒼太への警戒感が強くなっていた。
「お前、なんなんだ?」
何か思うところがあった彼女は蒼太に質問をする。
「なんなんだと言われてもなあ。一応自己紹介でもしておくか? 俺の名前はソータ、冒険者だ。ここに来たのは、お前らのボスである……なんだっけ? えーっと、エルダードだっけ? そいつに話を聞くためにきた」
それは彼女が求めている答えではなかったので、再びぶわりと怒りが蘇る。
「そうじゃない! お前のその力はなんなんだって聞いてるんだよ!」
大きな声を出してしまうくらいには蒼太の力に驚いていた。彼が夜月に纏わせた魔力は今まで彼女が敵にしてきた相手のものとは比べ物にならないほど桁違いなものだったからだ。
「あぁ、結構魔力高いんだよ……今までの俺の仲間たちの戦いは見ていただろ?」
ふいに投げかけられた質問にフレアフルはきょとんとしてから頷いた。
「あいつらの戦いを見てどう思った?」
その質問にはしばらく考え込んでから回答する。
「……狼も馬もあの女も龍もエルフも強かった。あたいの仲間だって決して弱くはないはずだ。あっちで倒れているナルちゃんだってあたいほどじゃないにしても結構強いからね」
蒼太は答えに満足して頷く。
「そうだな、俺から見ても弱いとは思わなかった。ただ俺の仲間が一枚上手だったというだけでな。そこで一つ言っておくことがある」
「?」
彼女はなんのことだと首を傾げていた。
「俺はあいつらよりも強い」
口調は静かだったが、その言葉には重みがあり、フレアフルはごくりと唾を飲んだ。
「というわけで、今度は俺の番だよな」
戦闘モードに入った蒼太はフレアフルに向かって駆け出した。
「くるか!」
彼女は両の拳を構え、蒼太を迎え撃とうとする。己の強固な肉体で全てを受け流そうとそう考えたのだ。
「いくぞ!」
彼が振り下ろした夜月をフレアフルは魔力の込められた拳で撃ち落とそうとする。しかし、拳と刀が触れた瞬間にその選択は失敗だったことに気付く。
「本気の一撃ありがとう」
蒼太は振り下ろした瞬間に力を抜いていた。そうすることで夜月はなんの抵抗もなくふわりと浮き上がる。
フレアフルは空振りに近い状態の大振りになってしまったため、バランスを崩してしまう。
「なっ!?」
がら空きになった胴へと刀ではなく、蒼太の拳が勢いよくめり込んだ。それをまともに受けた彼女はそのまま後ろに吹き飛ばされた。不意を突かれたフレアフルはそのまま抵抗できずに空中を舞い、ごろごろと転がっていった。
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




