第三百二話
前回のあらすじを三行で
紅王投擲
鎧破壊!
次は古龍たち!
古龍ことイシュドラと黒古龍は一度強くぶつかりあうと互いに距離をとった。
『ふむ、単純な力はほぼ互角のようだな』
黒古龍は彼我戦力を冷静に分析する。
『そう思うのならそうかもしれないのう』
イシュドラはまだ余裕があるように見える。
『ふむ、ならば次はこれでいこう』
『では、我もいこうかのう』
二人は同時に魔力をためると口から大きなブレスを撃った。強力なブレスが放たれると、二人の周囲の草がぶわりと風圧でなびく。
『『ぐらああああああああああ!!』』
双方のブレスはほぼ同時に放たれ、二人のちょうど中央で衝突する。拮抗するようにブレスがぶつかり合い、その勢いが互いの身体に伝わっていた。
『ぐおおおおおおお!』
『むおおおおおおお!』
二人は共に押されまいと雄たけびを上げながらブレスを吐き続ける。が、これも同時に終わりを見せ、ブレスは相殺された。
『かっかっか、なかなかやるではないかのう』
『ふうふう、ここまでとは思わなかった。なかなかやるじゃないか』
ここでも好敵手を見つけたかのような好奇心に満ちた目つきのイシュドラのほうには余裕が見られる。
『ところで、お主名はなんといいうんだのう?』
イシュドラは自分が名前を与えられたことに気をよくしており、黒古龍に向かってそう質問した。
『私の名前はブラオードだ』
彼も素直に問いに答える。
『ふむ、ではブラオード。下の階、その下の階とは異なり、我々は雷と黒と別れるが基本は古龍種という同種族だ。種族差はないといってもいいのう。ということは、これ以上は個の差になるのう』
勝敗イコール完全に彼我の差である。イシュドラはそう口にするとにやりと笑う。
『つまり、我かお主の勝利はチームの実力の差ということだのう』
イシュドラが口にしたのは彼独自の理論だったが、ブラオードはその言葉にぴくりと身体を動かして反応する。
『負けたほうは、その将の顔に泥を塗る。そういうことか』
『そういうことだのう』
二匹の古龍はお互いにやりと笑うと、まっすぐ相手に向かっていく。どうやら、イシュドラ独自の理論はブラオードにも通用したようだった。
『そんな重そうなものをつけていては、私の動きについてこれんぞ!』
『かっかっか、これは我の仲間の特製だ! それが動きを制限させるわけがないだろうのう!』
二人は激しく爪をぶつけあい、時には拳で殴り合い、炎を吐く。先ほどまでの力試しの応酬ではなく、相手を倒すための攻撃が始まった。
『なかなかやるな。だったら、これでどうだ!』
ブラオードは距離をとるとその手に槍を生み出す。それは彼の身体同様、深い黒色をしていた。
『ほう、武器……魔法かのう』
黒竜種は魔力が高く、それぞれが一つの属性に特化した魔法を使える。そして、ブラオードが使うのはその中でも珍しい闇魔法だった。
『そういうお前は雷か』
対するイシュドラは元々雷竜種であるため、雷の攻撃に特化している。更にそれに加えて数千年前に出会ったとある魔法使いに火と水の魔法を教えてもらっていた。
『それでは我も剣を出すとするかのう』
イシュドラはブラオードに対抗するように剣を生み出す。右手に雷の剣、左手に炎の剣を持っていた。
『複数属性か! 私よりも古龍としての年月が長いようだな』
通常竜種は一属性の魔法しか使えないと言われている。例外があるとすれば、年月を重ねたことで体内で複数の属性を生み出すことをできるようになった古龍だけだった。
『かっかっか、やっと我との格の違いを気付いたかのう! だが、ソータは我よりはるか上の高みにおるぞ!』
そう言うとイシュドラは剣を構えてブラオードへと向かっていく。
ブラオードは槍を構え、それを迎え撃つ。
『それそれそれー!』
イシュドラの双剣による連撃をブラオードは槍で防いでいく。
その姿はまるで一流の剣士と一流の槍術士の戦いのようであった。
巨大な二匹の古龍が武器を使って戦う様子は奇妙であり、そしてそれは思わず見とれてしまうほど華麗であった。
『なかなかやるな、そろそろこちらも攻撃に移らせてもらうぞ!』
二本の同時に振り下ろしてきた剣を槍の柄で受けてそれを大きくはじくと、ブラオードは槍で細かく突きを繰り出していく。
『むぅっ、この、なんの!』
触れてしまえば強力なダメージを受けてしまうそれをイシュドラは二本の剣でしのいでいく。
その攻防は何度か入れ替わることになるが、どちらも決定打にするには弱かった。
『なかなかやるな。まさかお前がこれほど剣を使えるとは思わなかったぞ』
『お主こそ、まさか槍を使うとはのお。うちの竜人族を彷彿とさせる』
イシュドラの中では槍使いといえば、最も長い時間ともに修行したレイラであり、戦いの最中も彼女の姿が浮かんでいた。
『そのものが私に勝るとは思えんが、他のものを思い出せないようにしてやろう!』
自分との戦いの最中に別の者を思い浮かべている余裕があることにブラオードはイラついていた。
『くっ、この、やりおるのう』
イラつきと共に放たれ始めた攻撃は苛烈であり、先ほどよりも攻撃の速度が上がっている。イシュドラはそれをなんとか防ごうとするが、本来の戦闘スタイルではない剣での戦いでは限度があり、剣を弾かれてしまうことになる。
『これで形勢は決まったな』
それを見たブラオードは槍をイシュドラへと向けて勝ち誇った顔をしている。
『同じ種のものと戦えて嬉しかったぞ。さらばだ!』
これで戦いは終わりだと、そのまま槍をイシュドラの心臓目がけて突こうとする。
『かっかっか』
しかし、イシュドラは焦ることなく笑って返す。
何を笑っているのか? と思いながらも、せめてもの最後の抵抗だろうと考え、槍を止めずにそのまま攻撃をする。
しかし、その槍はイシュドラの皮膚で止まることとなった。どれだけ彼が押そうともそこから槍はびくともしなかったのだ。
『なんだと!』
これがイシュドラの笑いの原因だった。
『ふむふむ、ソータを真似て力を制限して戦おうかと思って試したが、お主なかなか強いのう。我にはその戦法では無理なようだ』
イシュドラは使う魔力を制限し、戦闘スタイルも相手に合わせたものだった。そして、ここまで蒼太たちが作ってくれた装備の本来の力を何一つ出していなかったのだ。
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




