第二十九話
蒼太は鍵を開け家の中へと入っていく。
家具を置く前に、まずは掃除を始めようと考え魔力をその手に集中させていく。
蒼太は家全体を魔法で一気に綺麗しようと考えていた。
通常なら魔力消費量を考れば、普通に掃除をしたほうが安全だが、蒼太はその魔力量で押し切る。
魔力を溜め、家が綺麗になるイメージを強く持ち玄関ロビーの床に手をつき魔法を放つ。
「清潔」
元々手入れはされていたため、十分綺麗だったが、魔法により細かい汚れや塵などが除去されていく。
一人に使う場合と違い、建物に使う場合では、それも今回のような大きな屋敷に使う場合では細かい場所まで行き届かせるために数十倍、下手すれば数百倍もの魔力を使うことになる。
それに加え、蒼太は綺麗なというイメージが強すぎ、本来消費される魔力を越える過剰な魔力を込めたため、ごっそりと魔力を失う感覚を覚え少しふらつきをみせる。
今まで不動産屋が掃除をしても消えなかった経年劣化による壁の染みなども消え、新築かと思うくらいに見違える。
「あー、強くやりすぎたか。すげー疲れた。けどこれで住みやすくなっただろ……少し休んだら家具を配置していくか」
家に入ってすぐ右手にあるリビングに亜空庫から出したソファを置くと、そこへどかっと座り込む。
眼をつむり天を仰ぎそのまま休憩をしていると、徐々に魔力が回復してくる。
しばらく休み、倦怠感が消えてきたところでテーブルと食器を出し、その上に買っておいた串焼きを並べる。
味の濃い肉料理をおかずに白飯を食べたかったが、亜空庫には入っておらず、屋台でも売っていなかったため、同じく屋台で買った麺料理をメインにして食事を始める。
麺はやや幅広でラーメンや蕎麦というよりは、うどんに似た形状をしている。
動物性の出汁の濃厚なスープで、トッピングも肉を焼いたものと薬味が少々と濃いメニューであった。
口に含むとコクのある旨みが口の中に広がる。屋台の店主の話だと丸一日煮込んだものを使っているためコクがあるとのことだった。
また、何種類もの野菜をいれておりそのおかげで臭みが抑えられており、こまめな灰汁とりがなされているため、濃いながらもすっきりとした味わいだった。
蒼太はうどん(仮)を一気にすすり、食べ終える。
「ラーメンのスープにうどんをいれたみたいな感じだったけど、うまかったな」
最初は串焼きを食べながら、うどんをすするつもりだったが食べ終えてしまったため、串焼きは単品で食べることにした。
そのどちらも、亜空庫の時間停止の効果により熱々で食べることが出来た。
食べ終え、食休みをすると各部屋に家具をおいていく。
一階のリビングと大部屋にはソファと大きなテーブルをおき、キッチンには食器棚を。
二階の左右の寝室には大きなベッドと椅子と作業用デスクを、各個人部屋には椅子と作業用デスクと本棚をおいていく。
一つの家として考えると足らない家具も多いが、蒼太が一人で住むと考えると十分以上に家具がそろっている。
一通りの家具を置き終えると、一階に戻り風呂場へと向かう。
水は蛇口が裏の井戸と繋がっており、魔道具でくみ上げる仕組みになっている。
くみ上げたあとは、外で薪をくべて火をおこし、その熱が床下の通路を伝わることでお湯を沸かしていくもので、外には薪が積み上げられている。
しかし、蒼太は魔法で小さな火の玉を作りそれを水の中に入れていく。
威力を抑えているため一気に沸騰することはなく、徐々に温度をあげながら手をいれ温度を確認していく。
少し熱めになったのを確認すると、服を脱ぎ風呂へと入る。
魔法で汚れなどは落とせるが、風呂につかることで血流が促され筋肉がほぐれ、疲れがとれていく。
「あー、やっぱ風呂はいいなあ。疲れがとれていくなあ……」
そのまま、眠りに落ちていく。
「げほっ、げほっ、やばっ! 溺死するとこだった……」
あまりの気持ちよさに風呂に入ったまま眠りこけ、徐々に身体がずれていき口と鼻にお湯が入ったところで目覚める。
「はぁー、思っていたより疲れてたんだな俺。そろそろあがるか」
湯船から出て亜空庫から出したタオルで身体を拭き、着替え二階の寝室へと向かう。
風呂は、下のほうに栓がしてあり、それを抜くことで排水をすると、それが床のパイプを通って外へ出ていく仕組みになっていたので、栓だけ抜き部屋へと戻る。
二階の左手の寝室へ入ると、そのままベッドへとダイブする。
そして、眠い身体に鞭打ちながら以前に宿でやったような現状分析を行う。
当面の目標としていた、ランク上げ・金稼ぎ・拠点確保の三つともを達成していた。
ギルドランクはDになり、金に関しては領主からもらった金貨1000枚がある。
拠点はといえば、多少の紆余曲折があったものの屋敷を手に入れることに成功した。
「足元固めは出来たから、次に必要なのは情報か……まずは他国の情勢からか、無くなった街や新しく出来た場所もあるだろうからな。エルフ族も色々とややこしいことになっているみたいだが」
蒼太は人族の領内での情報、他種族の領内での情報、各国の伝承や言い伝え、そういったものを調べていくことで過去を探そうとしていた。
また、長命種の種族もいるため、場合によっては昔に会ったことのある者に会える可能性もゼロではなかった。
そこで話を聞くことが出来れば文書として伝わっていない情報も手に入るかもしれなかった。
「まずは本だな。ここらへんに図書館でもあればいいんだが……明日ギルドで聞いてみるか」
前回の旅の際に小人族の長老が言っていた言葉を思い出す。
『本は年月が経っていても変わらない情報が載り続ける。悪意のある改変もあるだろうが、それでもわしは本からの情報は正しいものが多いと思っとるよ。人の記憶は曖昧じゃからの』
その言葉にあるように確実な情報を集めるために、まずは書物での情報収集が一番いいだろうと結論づけ眠りについた。
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