第二百九十四話
前回のあらすじを三行で
エド・アトラVSブルグ・ダグラス・魔物の群れ
上に向かおう
レイラVSボーガ
レイラとボーガを置いて、蒼太たちは先に進むことにする。
「教えておこう。上に進む装置は私の後ろを真っすぐ行った場所にある。邪魔はしないから行くが良い」
ボーガは引き留めることなく蒼太たちを先に進ませることにしたようだ。
「……どうして先に進ませる? 普通なら俺たちの邪魔をするもんじゃないのか?」
「ふっ、まるで邪魔をしてほしいかのような口ぶりだな」
ボーガは蒼太の質問に兜の下で笑みを浮かべているようだった。
「背中を攻撃されても困るからな。理由を知っておきたい」
「なるほどなるほど、大胆であり慎重だな。そういうことなら理由を話してやろう」
蒼太の言葉にボーガは喜んでいるようであった。
「一つ目はそこの嬢ちゃんだ。俺の相手をすると言ったが、そう自ら進み出て口にするからには腕に自信があるのだろう。であるならば、俺自身、強者と戦うのは楽しみだ。お前たちがいないほうが集中して戦える」
じっとレイラを見るボーガは彼女から強者が持つ特有の気配を感じ取っていた。
「二つ目だが……進めばわかる。それが私がお前たちを素通りさせる最大の理由だ。さあ通るといい」
ボーガはそれだけ言うとその場に腰を下ろした。自分は蒼太たちに対してなにか動くつもりはないとの意思表示だった。
「それじゃ、お言葉に甘えて先に行かせてもらおう。この先にいるやつのことも気になるからな」
蒼太から見てもボーガから強さを感じ取ることができ、その男が安心して次を任せられる者がいるという事であれば、どんなやつなのか見てみたいという気持ちが強かった。
レイラもその場に立ち、ボーガからは目をそらさずに蒼太たちの背中を見送っていた。
「行ったね」
「嬢ちゃんも落ち着いたものだな、さっきの口ぶりからするともっと血気盛んなタイプかと思ったが」
ボーガは立ち上がると攻撃に備えて構え、レイラと向かい合う。
「うーん、なんか不思議と落ち着いてるんだよね。装備も実力も以前より上がってる。それを存分に発揮できる場所と相手がいる……それってなんか楽しいよね」
レイラの口元には自然と好戦的な笑みが浮かんでいた。
「戦闘狂といったところか。まあそういう私も、同じようなものだがな」
そういったボーガの目は赤く光っていた。
「それじゃあ」
「いくぞ!」
二人はそのまま走り出しぶつかりあう。最強の槍と最強の鎧のファーストコンタクトだった。
二人を残した蒼太とディーナと古龍は上の階層へと向かう装置へたどり着いた。
『ふむ、また同じものみたいだのう』
「あぁ、この上に行ったらさっきみたいに誰かがいるんだろうな……古龍のブレスを真上に撃って穴をぶちあけて一気に進みたいところだが」
蒼太は早く上に行きたいのか思わずぶっそうなことを口にする。それに対するディーナの返しは非常に落ちついたものだった。
「難しいでしょうね……上に穴をあけようとする魔法やブレスは空間魔法で他の場所に飛ばされそうです」
上を見上げたディーナの目にも装置以外の天井が歪んでいるのが見えた。
「仮に壊れたとしても、生き埋めにされそうだしな。まあ、先に進もう」
『これはなかなか楽しいのう。足をついていなくてもそのまま上に運ばれる感覚がある』
古龍は子竜の状態で飛んでいたが、装置はその状態のまま上に運んでいた。
「次はどなたが出てくるんですかね?」
視線を前に戻したディーナが顎に手をあてる。
蒼太とディーナが知っているのは、エルフ系の一人と本郷の二人だけだった。
「本郷だったら俺がやる。エルフのやつだったらディーナの出番だな」
蒼太の言葉にディーナも頷く。彼女も同様の考えだったようだ。
『ちょ、ちょっと待て。それでは我の出番がないではないかのう!』
古龍は慌てた様子で突っ込みをいれるが、蒼太は両手を広げて肩をすくめる。ディーナはそのやりとりを見て楽しげに笑っていた。
「お、そろそろ着くぞ。さてさてエルフがでるかボスがでるか……」
上にあがり、目の前に広がった光景は草原だった。蒼太の胴くらいまでの高さの草が一面に生い茂っている。
「誰がいるのやら……」
周囲の様子を探っていると、空間に響き渡るほど大きな何かの鳴き声が聞こえてくる。
「ぐるああああああああああ!!」
その声を聴いた古龍はとっさに蒼太たちの前に飛び出して本来の姿へと戻り、勢いよくブレスを吐いた。
『伏せていろ!』
いつもとは違う厳しい口調の古龍の声に蒼太は結界を張り、更にディーナを抱えて伏せた。
その瞬間、古龍のブレスと遠くから放たれたブレスが激しくぶつかりあう。
「くっ、すごい威力だな」
ぶつかり合ったそれらは徐々に相殺されていくが、大地を揺らし蒼太たちのもとへ爆風や石のかけらが飛んできていた。
「風の障壁を張ります! 蒼太さんも別属性の障壁を!」
ディーナの声に蒼太は結界のほかにも地属性の障壁を張り、その余波をやり過ごす。
『かっかっか、なかなかやるのう』
好敵手を見つけたと言わんばかりに笑う古龍が見据えた先には、同じくらいのサイズのシルエットが見えていた。
「あれは……黒竜?」
蒼太が以前戦ったことがある竜と同じ色をしていた。黒竜は凶暴で同種以外のものには敵対する。
『ただの、ではないがのう』
じっとそのシルエットを見つめたままの古龍がそう言うと、黒竜は近くまで寄ってきて距離を保ちつつ古龍と対峙する。
『ふむ、竜がいるとは聞いていたが。俺と同じ古龍種だとはな』
近寄ってきた黒古龍も話すことができ、蒼太たちにも声が聞こえた。
「まさか黒竜の古龍種に会うことになるとはな……」
竜種は年月を重ね、内包する魔力量が高くなると古龍種に変化していく。しかし、黒竜は戦いに明け暮れ、早いうちに命を失うことが多いために古龍種は珍しかった。
『あまり驚いていないように見えるが』
黒古龍は蒼太の淡白な反応に反対に驚きを見せる。
「まあ、私たちには身近に古龍さんがいますからね」
「あぁ」
ディーナと蒼太は頷きあう。
『そ、そうか……まあそれはいい。それよりもここは通さんぞ!』
二人の反応の薄さに黒古龍は色々と諦めたのか、仕方なさそうに本来の自分の仕事をすることにしたようだ。
「お前はあいつの、将軍の仲間ということでいいのか?」
基本的に同種以外に敵対する性質を持つ黒竜が誰かの下につくということに疑問を持った蒼太が尋ねる。古龍が蒼太の下についていること自体も本来ならば異常なことだったが、自分自身のことであるため気付いていなかった。
『あいつは……人にしておくのが惜しいほどの男だからな』
黒古龍は本郷のことを強く買っているようで、その言葉に迷いはなかった。
『それをいうなら、ソータだってそうだのう。我が見込んだ男だからのう』
古龍は競うようにそう言った。
「どうやら、ここはこの組み合わせで決まりみたいだな……それじゃあ、頼んだぞ『イシュドラ』!」
蒼太に名を呼ばれたことで古龍は驚いた表情で大きく振り返った。
背を向けたまま蒼太はぐっと親指を立てて見せた。
『むおおおおおお! やってやる、やってやるのう!』
蒼太の言葉により古龍イシュドラは雄たけびを上げてやる気を漲らせていた。
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